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第九章 149.撃破

【突発更新まつり実施中】

 マグヌス率いるマッサリア軍は、着々とインリウム軍を追った。

 立ち直ったとはいえ、一度限界まで消耗した軍勢である。

 無理はさせられない。


(王都には城壁があるし、それなりの守備兵も居るはず)


 マグヌスは、夕方早めに行軍を切り上げ、しっかりと休養を取らせた。


 メラニコスからは不平が出たが「また負けるつもりか」と黙らせた。


 今のところ、マグヌスの偽装を疑うものはいない。


 翌朝、まだ夜も明けきらぬうちから、勢いを取り戻したマッサリア兵はインリウムの軍勢の猛追を再開した。


 王都に親子兄弟がいる者が大半だ。

 マグヌスが急かさずとも自然に足は早くなる。


 昼の休憩中、斥候に出した軽騎兵が、王都が囲まれていると告げた。


「食後、行軍続行、ただし戦闘は明日」


 マグヌスはあくまで慎重に兵を動かす。

 遠くに矢を飛ばすにはしっかり弓を引き絞らねばならない。


「僭主シデロスの所在を自分に教えたものには褒美として銀貨十枚を与える」


 誰もがエウゲネス王の働きぶりを思い出した。

 アルペドン王アレイオを切り捨てた剣の冴え。

 多島海同盟のソフィアの息の根を止めた弓の技。


「エウゲネス様が居れば必勝」


 兵の士気はいやが上にも高まった。


 そして翌日。


「シデロス様、マッサリア軍が接近中!」


 楔形の陣形を組んで突撃する三百の騎兵隊の先頭に真紅のマントと輝く鎧を認めて、シデロスは慌てた。


「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な……死んだのではなかったのか!」


 王都を包囲しようと、陣形を崩し、東西南北の門に兵力を振り分けている。シデロス自身を守る兵は少ない。


 復讐の念に燃えるマッサリアの騎兵に、まず、東門に取り掛かろうとしていたインリウム兵が蹴散らされた。


「シデロス! 姿を現せ! 卑怯者!!」


 後始末は歩兵に任せ、マグヌスはシデロス自身が指揮している南門へと騎兵隊を差し向けた。


「僭主シデロス、ここか!」


 マグヌスの大音声をエウゲネスのものと思い込んだシデロスは、馬腹を蹴った。


「あれは不死身じゃ。皆も逃げろ」


「シデロス様!」


 止める部下を振り返りもせず、インリウムへ続く街道へと馬首を向けた。


「あの戦象部隊の攻撃を受けて無事とは……」


 胴震いが彼を襲った。


 マグヌスはその姿を視界に捉えた。


「待て!」


 オオカミが逃げる獲物を追うように、マグヌスはシデロスを追った。

 遅れて騎兵隊が続く。


 街道に土埃をあげて逃げる者と追いすがる者。

 その距離はみるみる縮まった。

 槍が届くまであとわずか。


「シデロス、覚悟!」


「エウゲネス様、北門が危険です!」


 消耗の多いメラニコスにはやはり無理だったか……。

 シデロスを追うか王都の守備に回るか、マグヌスは一瞬躊躇した。


「……北門へ」


 王都の中にはルルディ妃がいる。

 彼女に怖い思いをさせたくなかった。


 マグヌスは、シデロスの背に向けて槍を投げた。

 わずかに外れ、シデロスの馬が驚いて横っ飛びしたものの、シデロスは手綱を操り駆け去っていく。


 マグヌスは荒い息をつきながら、その姿を見送った。


「北門へ……」


 気を取り直して命じた。


 指揮官に見捨てられたと知らぬインリウムの兵士たちは死力を尽くして戦った。


 城内へ向けていた即席の投石機の向きを変え、マッサリア軍の中に岩を打ち込む。


「尋常に立ち合え、卑怯者!」


 メラニコスが鼓舞しているが、劣勢は否めない。


「来たぞ、メラニコス!」


 マグヌスは鹿毛の足を止め、黒将メラニコスに下がれと合図する。


「矢を!」


 騎兵が投石機近くまで突進しては矢を放ち、即座に退却する。

 投石機の操縦者が転げ落ちた。


 「卑劣なインリウム兵、一人も逃すな!」


 遅れて来たマッサリアの重装歩兵の戦列の中に、投石機も多数の兵士たちものみこまれた。


「エウゲネス様、ありがとうございます」

「無事か?」

(もも)の古傷が痛む他は」

「働き、見事であった」


 メラニコスもそれと気付かない。


「入城に備えよ」


 言い置いてマグヌスは王都の壁伝いに進む。


 西門はドラゴニアが受け持っていた。

 彼女の部隊はもともと損害が少なかった。

 敵兵の数も少ない西門、彼女の華麗な鎧姿が舞う。


「我はリュシマコスの子ドラゴニア、裏切り者ども、覚悟を」


 突然、城門が開き、中から千人ほどの雑多な武装の兵士が進み出た。


「ドラゴニア様、お父上の言いつけで参りました。よくぞご無事で」 


 偶然、リュシマコスがここの防衛の指揮を取っていたとみえる。


「助力、感謝」

「お怪我はありませんか?」

「無い。ただテトス将軍がやられたようだ」

「それは一大事」


 挟み撃ちにあったインリウム兵は、かなわないと思って降伏を申し入れた。


「よくも我らが将軍を……」


 ドラゴニアの紅い唇は震えている。


「降伏するなら、武器を捨てよ。皆ゲランス鉱山に送って死ぬまで働かせてやる」


 インリウム兵たちはのろのろと従った。

 

「ドラゴニア、捕らえたか」


 王都の周囲を回っていたマグヌスが声をかける。


「は。無駄に戦って東帝国軍と戦えぬようでは困りますので」

「良き判断。東帝国軍が王都に迫る可能性は高い。王都の守備を命ずる」

「かしこまりました」


 ドラゴニアも気づいていない。

 普段から、身なりも声もあえて柔和に振る舞っているマグヌスにこんなにも猛々しい一面があろうとは。


 一歩下がって従うルークが目を見張った。


「ピュトンもこれで満足するだろう」


 五将から外れたとはいえ、彼はマッサリア王国を支えていた重鎮には違いない。


「捕虜の中で見目良きものを、ピュトンのために生贄としましょうか?」

「……グダル神も裏切り者の血など要るまい。皆鉱山に送るよう手配せよ」


 捕虜の分配はドラゴニアがたびたび行なってきたことである。


「城内に戻りましたらすぐに手続きいたします」

「任せたぞ」


 マグヌスは鹿毛の馬首を回らせて、巡回の続きに入った。


【突発更新まつり】実施中にて日曜日も更新です。

本章最終話となります。


次回、第150話 一夜限りの夢


明日夜8時ちょい前をどうぞお楽しみに!

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