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【アニメ化】転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す  作者: 十夜


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255 聖女フィーアによるデズモンド団長個人面談 1

その日の夕方、私は偶然を装って、デズモンド団長との接触を試みることにした。


目的は、デズモンド団長のためにこっそり作った薬を、こっそり本人に飲ませることだ。

立ち会う人数は少ない方がいいだろうと、離宮から出てきた騎士団長たちの後をこっそり尾行し、一人になるタイミングを見計らうことにする。


けれど、デズモンド団長とクラリッサ団長、カーティス団長は仲がいいようで、3人でずっと一緒に歩いていた。

じりじりしていると、騎士の一人がクラリッサ団長を呼びにきたため、やっと一人減る。

さあ、後はデズモンド団長とカーティス団長が別れれば声をかけられるわと待っていたけれど、2人はなかなか別れなかった。


ううー、早く別れてちょうだいと強い気持ちを抱いたところ、私の願いが通じたようで、カーティス団長がデズモンド団長に背を向けて歩き出す。

今だわ、と思った私は後ろからデズモンド団長に駆け寄ると、前に回り込んで大きな声を出した。

「デズモンド団長、偶然ですね!」


すると、デズモンド団長は胡乱な目で私を見てきた。

「フィーア、お前は誉れある第一騎士団所属だったよな」


「ええ、そうです! 私は新人騎士でありながら、誉れある第一騎士団に配属された、誉れある騎士です!!」

デズモンド団長の言葉を聞いて、久しぶりに褒められるのかしらと嬉しくなる。


すると、団長は褒めるための前振りなのか、私の業務を確認してきた。

「第一騎士団の主業務は要人警護だったよな。ということは、尾行を始めとした隠密行動も一通り習ったよな」


「当然です! 私が何のために、長い訓練を受けたと思っているのですか」

第一騎士団の業務は特殊なため、新たに第一騎士団に配属された騎士は全員、特別な訓練を受けることになっている。

それらの訓練は、大陸共通語や詩歌、ダンスの練習など多岐にわたり、その中には尾行や潜入といった隠密行動も含まれていた。


さあ、一体何を褒められるのかしらとにこにこしていると、デズモンド団長は腹立たし気に私を指差してきた。

「お前が何のために訓練をしたかだと? もちろん、騎士ごっこを楽しむためだ!!」


「へ?」

立派な一人前の騎士を捕まえて、騎士ごっこですって?


一体何を言い出したのかしらと顔をしかめると、デズモンド団長は大きな声で文句を言ってきた。

「お前の尾行は酷すぎる! どこの世界に、尾行の途中で口笛を吹いたり、転んだりする奴がいるんだ! お前みたいなのは絶対に騎士に向いていない!!」


「いや、向いていないと言われましても、私は正真正銘、誉れある第一騎士団の騎士ですよ。しかも、所属の団長から直々に、特別任務を仰せつかるほど優秀なのです。そんな私に向かってよく……」


さらに言い募ろうとしたところで、聞き慣れた声が響いた。

「デズモンド!」


振り返ると、先ほどデズモンド団長と別れたはずのカーティス団長が、こちらに向かって歩いてくるところだった。

カーティス団長は私に気付くと、嬉しそうな笑みを浮かべる。

「フィー様ではないですか! どうかされましたか?」


けれど、私が答えるより早く、デズモンド団長が唸るような声を出した。

「どうかしたのはお前だ、カーティス! わざわざ戻ってきて何の用だ!!」


「ああ、先ほどお前に言い忘れたことがあって……」

デズモンド団長の質問に従って、カーティス団長が答えようとする。


けれど、なぜかデズモンド団長はカーティス団長の言葉を途中で遮ると、自ら質問の答えを口にした。

「お前が何を言い忘れたというんだ!? 最初から最後まで、フィーアの下手な尾行に気付いていたということか!!」


カーティス団長は何を言っているのだとばかりに首を傾げる。

「デズモンド、突然どうしたんだ」


そんなカーティス団長に対し、デズモンド団長は腹立たし気に文句を言った。

「いい加減その三文芝居を止めろ! お前がそうやって甘やかすから、こいつはいつまで経っても自分の実力を理解できないんだ! 尾行が下手なら下手だと、はっきり言え!!」


しかし、カーティス団長にはデズモンド団長が言っていることがピンときていないようで、不思議そうに言い返す。

「お前は何をおかしなことを言っているんだ。フィー様が私を尾行するはずがないだろう。そして、たとえ尾行されたとしても、私が困ることはないから問題ない。私は日々、王国騎士の名に恥じない行動をしているからな」


カーティス団長があまりにご立派なことを言うので、実際に尾行していた私の良心がじくじくと痛み出す。

「カーティス、ごめんなさい! 実のところ、離宮を出たところからずっと、私はあなたたちの後を付けていたの!!」


素直に謝罪したところ、カーティス団長は驚いたように目を見開いた。

「そうなんですか? これっぽっちも気付きませんでした! これほど上手に尾行ができるとは、フィー様は素晴らしい騎士なのですね!!」


「え、そ、そうかしら」

あら、私を褒めてくれるのはデズモンド団長でなく、カーティス団長だったのね。

騎士のことで褒められるのは久しぶりだから嬉しいわ。


両手で赤くなった頬を押さえていると、デズモンド団長が信じられないとばかりに目を剥いて、カーティス団長を見つめてきた。

「マジか、カーティス! お前はそのスタンスを貫き通す気か!? 言っておくが、お前の演技はフィーア並みに下手だからな! お前の演技に騙されたのは、相手がフィーアだからに他ならない!!」


カーティス団長が無言でデズモンド団長を睨みつけると、デズモンド団長は少し怯んだものの、すぐに大きな声で言い返した。

「何だよその顔は! 他ならぬフィーアさえ騙せれば、他のことはどうでもいいと思っていそうだな! お前がそうやって甘やかすから、フィーアが自分の力量を把握し損ねて、大変なことになるんだぞ!!」


カーティス団長はデズモンド団長から視線を外すと、内緒話をするように小声で話しかけてきた。

「フィー様、お気になさらないでください。デズモンドは立場上、フィー様の尾行に気付かなかったと、認めるわけにはいかないのです」


私ははっとして、カーティス団長を見上げた。

「それはその通りね! 天下の騎士団長が新人騎士の尾行に気付かなかったなんて、絶対に認められないわよね!!」

カーティス団長の言う通りだわ。私の気が利かなかったわ。


デズモンド団長に気を遣って小声で話をしたというのに、なぜか聞こえたようで、デズモンド団長は大声で文句を言ってきた。

「違うから! フィーアの尾行くらい、オレは秒で気付いたからな! ただフィーアの尾行が下手過ぎたから、どこまで下手なのか確認したくなって、気付かない振りをしていただけだ!! ……ちょ、お前らその表情は止めろ! いかにもオレが強がっていて、それを見て見ぬ振りをしてやろうみたいな表情は!!」


カーティス団長はデズモンド団長の訴えを丸っと無視すると、にこやかに提案してきた。

「フィー様、よければ夕食をご一緒にどうですか? 王城料理には負けますが、騎士団長専用の食堂の料理もなかなかのものですよ」


「そうねえ……」

一介の騎士が騎士団長専用の食堂で食事をするなんて、通常なら即座に断る提案だ。

けれど、今日はデズモンド団長の味覚障害が治る薬をこっそり渡したいので、人目につきにくい場所を提供してもらえるのはありがたいわ。


それに、晩御飯を2回食べてはいけないという決まりはないから、王城料理は帰ってから食べればいいんじゃないかしら。


あらゆる角度から検討した結果、カーティス団長の提案がとてもいいものであることに気付いた私は、笑顔で頷いた。

「私は一介の騎士だけど、筆頭聖女選定会に参加している今日くらいは、特別に騎士団長専用の食堂に入ってもいいわよね! 喜んでご一緒させてもらうわ」


「ちょ、お前ら、オレを無視するんじゃない! 食堂ではゆっくり、オレの有能さについて話をするからな!!」


騒がしいデズモンド団長とともに、カーティス団長と私は騎士団長専用食堂に向かったのだった。

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― 新着の感想 ―
デズモンドって聴覚喪失したり味覚喪失したりしてるけど、魔人なりかけの症状とかじゃないよね…? その場合はフィーアは聖女じゃないと思い込んでるしシャーロットが大聖女だと判断するかも知れぬ
デズ君が、ようやく年頃の男の子らしくなりました(笑)
酷い数の暴力を見た(笑) 負けるなデズモンド団長(笑)
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