19 魔物討伐3
お昼を食べた後は、再び、森の中を歩きまわった。
そして、魔物と遭遇しては、倒すということを繰り返していった。
一番多かったのはバイオレットボアーで、5頭は倒したと思う。
今夜は肉祭りだな、と一人の騎士が嬉しそうに言っていた。
うん、分かります。騎士って、お肉大好きですよね。私も好きです。
聖女たちは、相変わらず、戦闘が始まると離れた場所に座り、戦闘が終わると治癒するという行為を繰り返していた。
そして、陽が頂上より少し西側に傾いてきた頃、初めて、ヘクター小隊長に話しかけた。
「疲れたわ。帰ります」
「了解しました! 可及的速やかに帰還いたします!」
こうして、魔物討伐から帰還することとなった。
帰路は、往路と違って、自ら魔物を追い求めることはせず、たまたま遭遇する魔物を討伐するくらいだ。
周りの騎士たちも、ほっとして少しだけ肩の力が抜けたようにみえた。
だけど、災厄というのは、得てして気を抜いた時に訪れる。
「魔物が接近してきます!」
索敵担当が突然、慌てたような声を上げた。
彼は攻撃魔法の使い手で、魔法探知である程度の魔物の位置を把握できるのだ。
「な、何っ?! 何時の方角だ?! 警戒を………」
言いかけたヘクター小隊長が、吹き飛ばされた。
息を飲んで振り返ると、青い目をらんらんと輝かせた3メートル程の鹿型の魔物が立っていた。
フラワーホーンディア。成長すればするほど、頭部の角がまるで花のように広がっていく鹿型の魔物で、この森にしか棲まない固有種だ。
討伐するには、30名の騎士が必要だといわれるBランクの魔物で、今日討伐した他の魔物たちとは明らかに強さが違う。
魔物は、強ければ強いほど、森の奥深くに潜み、Bランクとなればもっと深淵に棲んでいるはずだ。日帰りできる距離で出遭う魔物ではない。
そもそも、今日の討伐で出遭うことなど想定されていないはずで、小隊が20名の編成となっていることが、その表れだ。
最大の不運は、指揮官である小隊長が吹き飛ばされ、前後不覚に陥っていることだろう。
だけど、これが偶然とは思えない。
Bランクの魔物は知能が高い。一瞬で誰がその場の指揮官かを見破り、場を混乱させるために、敢えて小隊長を狙ったに違いない。
騎士たちは、楕円状にばらばらと立ち尽くしており、その一角に魔物が踏み込んだ形となっている。
楕円の端の位置で、小隊長代理は棒立ちになっていた。
「ファビアン、あなた、指揮できる?」
私の質問に、ファビアンは我に返ったように瞬きをした。
「いや……。あの魔物は、初めて見た。特性も何も分からない以上、無理だ」
そうだよね……
この森の固有種で、普段は森の奥深くに棲んでいる魔物だもの。特性なんて、普通は知らないよね。
私たちが話し出したことで、我に返ったのか、周りの騎士たちが抜刀し出す。
しかし、魔物の攻撃が不明なため、下手に動くこともできず、お見合い状態となっていた。
「きゃ――――――!!!」
そんな中、3人の聖女が突然叫び出しながら、ばらばらの方向に走り出した。
「あっ、だめ!」
フラワーホーンディアは、動くものを追いかける習性がある。
私は、思わず抜刀し、聖女に向かって走り出そうとしたフラワーホーンディアの前に立ちはだかった。
「《身体強化》攻撃力3倍! 速度3倍!」
小声でつぶやくと、抜いた剣を真横にして、振り下ろされた角を受け止める。
「くぅ……!」
受け止めることができたものの、衝撃で体が後ろに動く。
「フラワーホーンディアの討伐は、経験があります! 私が、指揮をします!」
そう叫ぶと、魔物の青い目を見つめながら、押し返されないように全身に力をいれた。
数秒間、その状態が続いただろうか。唐突に、魔物の目が、青から赤に変わった。
刹那、私は、後ろに飛びのいた。
「下がって!!」
私の声と同時に、魔物を中心にした半径3メートル程が炎に包まれた。
「なっ! と、突然、炎が出たぞ!!」
「危ない! 下がれ!!」
騎士たちが、慌てたように叫びながら、後ろに下がった。
「フラワーホーンディアの討伐時に気を付けることは、一つだけ! 瞳の色を見て、青ければ攻撃する、赤に変化したら瞬時に離れる! これだけよ!」
この魔物は、瞳が赤に変わった時だけ、炎を操る。そして、炎を操っている間は、攻撃をしてこないので、離れていれば問題はない。
「ただし、この魔物は皮膚が固いので、仕留めるのに時間がかかる! ファビアン、救助笛を鳴らして、応援を呼んで! Bランクの魔物相手じゃあ、人数が足りない!」
すぐさま、ファビアンと、ほかに手が空いていた騎士が救助笛を鳴らし出した。
近くに、他の小隊がいればいいのだけど。
元々20名で編成されていた上に小隊長が倒れた今、明らかに人数が足りない。
フラワーホーンディアの炎が小さくなってきた。
間もなく、炎が収まり、魔物の目が青く変わるだろう。そうしたら、魔物の攻撃が始まる。
「攻撃担当のうち3名は、正面から盾で角を受け止めて! 残りは、魔物を囲んで! この魔物は、ジャンプ力が並外れている。少しでも、囲みに隙間があれば、そこから跳んで逃げる。そして、囲みの外に出たら、私たちを一人ずつ攻撃してくるわ! だから、絶対に逃がさないで!」
訓練された騎士たちは、すぐさま私の声に反応し、フラワーホーンディアを囲む陣形を作った。
「攻撃をする時は、できるだけ腹部の白い部分を狙って! 背中は固いから、きっと剣が通らない!」
―――――それから数分程経った頃だろうか。
固い魔物の皮膚に剣が入らず、四苦八苦していた私たちに対して、場違いなほどのんびりとした声が掛かった。
「おや、救助笛が聞こえたから何かと思えば、珍しい魔物がいますね……」
思わず振り返った私が見たのは、そこにいるはずのない「王国の竜」と呼ばれる騎士だった。








