優しさと愛のその先に②
家族の事、学校の事、少女は一人だった。
自分が、どうしたいのか分からなかった。
少女の覚悟は、決意へと変わる――。
それから、私達はイチョウをあとにして、行き先を決めるべく市内のカフェで話をしていた――。
そのカフェで、唐突に翔馬が言い出す。
「そう言えば…俺さ、誰かしら関係なく行き先決めんの、初めてな気がするんだけど…」
そう言えば…そうかもしれない。私と出会ってからの彼は、常に誰かのために動いていた。旅を初めて一週間くらいだろうか?見たかった景色は見れているのだろうか?走りたかった場所は走れているのだろうか?そう考えると可哀想に思えてきた…
「ねぇ、翔馬…翔馬の見たい景色とか、その…ホテルで話してくれた場所とか、見れたりしてるのかな…?」
「…ん?そうだな、まあ…見たかったものとは、ほど遠い景色だけど、見てよかったな。と思える景色はこの一週間で見たかな…」
「なにそれ、カッコいい…」
素直な気持ちを口にする。
「そ、そうか?」と翔馬がちょっと照れている。しかし
「何くだらない話してんのよ、行き先を決めましょ!」
とリサちゃんに言われて、二人ともそうだったと本来の目的を思い出す。
「何処に行こう?」
いざ、決めようとすると中々難しいのだろう。翔馬は結局みんなに相談し始める。
「いや、プランと、かなりずれたしな…今いきたいとこ…」
そんな話をしていると、リサちゃんがタウン情報紙を急に広げ、「なら、これを食べに行きましょ!」とひとつの写真を指差した。
そこには『えびしおソフト』と言う文字が…
「えびしお…」
「えびしおか…」
と私と翔馬が微妙な顔をするが、リサちゃんは御構い無しと言ったようすで、あれよあれよ行き先を決めてしまった。翔馬はそれでいいのだろうか?
「翔馬、いいの?」
「う~ん…まぁ、なんだ、正直思い付かないし、今はそれでいいんじゃないか?そこ行く間に考えるわ。」
そう言って笑顔を見せる…。私は、旅の途中この笑顔に何度心を洗われただろうか?本当に少年の笑顔!と言うような笑い方をする。なんと言うか、可愛い。
それから、カフェの支払いをしようとして鞄に手を入れる。すると、リサちゃんと翔馬もそうしようとして、3人揃って動きが止まる。
「ん?」
「なにかしら?」
「あれ?」
3人はそれぞれ、その違和感を鞄から取り出す。そこには、イチョウの絵がこしらえてある、可愛らしい和風な便箋が現れた。
「これって…」
――多鶴子さんだ。
昨日の夜、一度トイレに起きたようだったが、その時だろうか?
「なんで俺だけ二枚なんだ…」
そう言う翔馬の手には私達と同じものと別に色違いの便箋が握られていた。
私達は顔を見合わせて、一度手紙を鞄にしまう。
「とりあえず、落ちついたところで3人で読むか」
「そうね、今読むのはもったいないわ」
「うん、そうだね」
そうしてカフェを後にする。そこから海沿いを走り私達は目的の道の駅に立ち寄る。そこにリサちゃんお目当ての、えびしおソフトとやらが売られているらしい。リサちゃんは、えびしおソフトを購入し、とても嬉しそうにニコニコとしている。
「ふふふ…!見て、このほんのりとしたピンク色!」
「確かに綺麗だね」
「でしょ?まるで恋する乙女のような色ね!」
「なんだそれ…」
と言って「はは」と軽く笑う翔馬。翔馬はマンゴー味を選んだらしい。私は、そのミックスを選んだ。3人でソフトクリーム売り場近くのテーブルを囲んで座る。えびしおソフトを食べたリサちゃんが「すごい!香ばしい海老の香りがする!」と言って、私に一口進める。
せっかくなので頂くと、本当に海老の香りがした…でも味は甘い。不思議な感じである。リサちゃんは翔馬にも進めて、一度断るが、しぶしぶ一口食べていた。
「思ったより海老だな」
「ほんと、不思議な味だよね」
「なかなか無い味よね、私は好きだわ」
そう言って、パクパクと食べてしまった。それから私達も自分の分を食べてしまう。3人でごちそうさまをして、一息ついた。
翔馬が席を立ち、伸びをする。そして振り返り
「読むか」
と言った。私は頷いて鞄から便箋を取り出す。周りの二人も手紙を取り出して椅子に座る。
私は、きれいに閉じられたその封を切り、中の手紙を取り出す。
すでに読み始めている二人を一度確認して、軽く深呼吸をする。別に意味はないけど、なんとなくそうした。そして手紙に視線を落とす――。
『拝啓 大切な親友 優愛ちゃんへ
やっと見つけてもらえたかしら?なんて、勝手に鞄にこんなもの入れてごめんなさい。でも、直接渡すのはなんとなく恥ずかしくて…優愛ちゃんとの旅は、私の大切な宝物となりました。むしろ、優愛ちゃんが私の宝物となりました。あなたは常に周りに気を配り、困っていたりする人をほっとけない、優しい子。道中、いつも休憩なんかの時はかならず私の心配をしてくれたわね…あなたが私を心配してくれていたように、私もあなたを心配しています。まず、
平気なフリは辞めなさい。
自分で自分を苦しめてはダメ、きっと後悔することになるわ。
助けて欲しい時には、助けてと言う勇気をもって。
あなたに一番必要なことよ、一人で抱え込んではダメ。人にすがることは、決して情けないことじゃない。
逃げる事を辞めないで。
誰がなんと言おうと、自分が、追い詰められた時に逃げ出す事は、恥ずべき事じゃない。あなたは器用に頑張るから、周りはなかなか気づかないかもしれない。でも、そんな時は思い出して。
私は、一生…いえ、死んでもあなたの味方でいるわ。
だから、辛くなったらいつでも訪ねてきなさい。私はあなたの居場所であり続けるから…それから、最後に
"生きたいように、生きなさい"
決して生きることを諦めないで、迷ってもいいの。悩んでもいいの。逃げてもいいし、明日また今日より辛くても、歩みを止めないで、やまない雨はないわ。明けない夜もない。
進みなさい。あなたの生きたい方へ、あなたの行きたい方へ。
手紙を書いている今日は晴れよ。
どうか…あなたが、がんばれますように――。 多鶴子より』
――気づけば、手紙に染みを作っていた。
真顔でぽろぽろと泣いていた。悲しくて?嬉しくて?分からない。ただただ、その言葉ひとつひとつが、温かくて。
そして、私の中の覚悟が、決意に変わる――。
私は顔をあげ、周りを見る。二人も今しがた手紙を読み終えた様子だ。リサちゃんは鼻をすすり、少し目が合う。それから翔真を見る。泣いてこそいないが、少しだけ目が赤く見える。
私は立ち上がり、潮風の吹き抜ける中、夕日を背にして二人に伝える。今、自分がどうしたいか。どう、がんばりたいか。
待っていろ、現実…!
弱虫の反撃はここからだ――。
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!】
次回【優しさと愛のその先に~終~】
さんぽとかしてると、夕方のアパートや一軒家に光が点ってるのみて、嗚呼…この明かりの下には人がいて、そこにはその人の物語があるんだなぁ…とシミジミ思う事ってあるよね❗
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




