前に蒸しパンとフルーツケーキをどっちもぱくぱく食べてたよね?マリーさん超えちゃってるよ?
37日目 夜 宿屋 白い変人
「「「美味しかったよーっ!」」」
「、、、美味しかったけど、逃げられちゃったよ?」
そう、逃がさないために、今度こそちゃんと言い聞かせる為に、食堂で包囲網を引いたのに、崩された。
一か月ぶりのお米、おにぎり。
みんなが泣いていた。
美味しくて、懐かしくて、ほんの一か月前まで毎日食べてたのに、もう食べられないと思ってたのに。探してきてくれたんだ。
遥君はいつの間にか又も荒稼ぎをし、そのお金で雑貨屋さんと武器やさんに資金と物資を融資して街中、国中から荒稼ぎしていたみたいなのだ。なんだか、街がにぎやかだと思ったら、経済支配を始めていたらしい、油断も隙も無い。そして今日その理由の一つが解った、お米だ。皆に食べさせようとお握りにして持ってきてくれたんだ、言ってくれれば手伝うのに、驚かせようと思って一人で30人分も握って来たんだ。
そうやって、いつも怒れなくなる。笑ってしまう。
実際、遥君が上がって来なければ私達は全滅していた。それが事実、完全に私達の、私の判断ミスだ。
本当なら遥君は地下で待ってなきゃいけなかったんだ。Lv12なんだから、弱いんだから、いつも自分で「一発かすっただけで死ぬ」って言ってるのに、一番戦っちゃいけないんだよ、最も危険があるのは遥君なんだから、しかも一人きりなのに。
だから私達が助けに行かなきゃいけなかったんだ。遥君は待ってるべきだったんだ。お迎えに行かないといけなかったんだ。
なのに上がって来ちゃう。危ないのに。遥君こそが最も危ないのに。全然平気だったなんてどうせ絶対嘘だ。
絶対危ない事してたんだ。絶対に何十回も何百回も何千回何万回でも死にそうな事してきてたんだ。
だって、また強くなってた。
Lv17、五つも上がってた。森中の魔物を狩り尽くす勢いで殲滅していた遥君が、それでもLv12だった遥君が、たった一週間で五つも上がるなんてとんでもなく危ない所に行ってたんだ。全然じっとせずに、助けなんか待たないで、いつものようにホイホイと、上がって来ちゃったんだ。
あの56階層でボロボロで気絶しかかってたけど、みんなちゃんと見てたんだよ。
あの辺り一面のムーミー達の中に飛び込み、一歩も私達に近づかせずに、壁の様に立ちはだかり、近寄る事も許さずに斬り刻み、斬り散らし、斬り裂くその後姿を。
あれはLvアップしたとか、スキルとかじゃない。絶対物凄く無茶苦茶に危険な事を延々とやって身に付けた強さだ。
何億回もの危険と切り結ばないと、そうじゃないとあんなに強くなってるはずが無いんだから。
だから絶対危ない事してたんだ。
だから、絶対に今日はきちんとお話ししようと思ったのに、おにぎりだった、幸せになって、笑ってしまった、みんなが笑ってしまった、幸せ過ぎて。
遥君が危ない事をしてたら駄目なんだよ。なのにまた守られて、幸せ過ぎて笑う程喜ばされて、また全部貰ったものばかりだ。
「いや、私はおにぎり食べながらでもお説教しようって思ってたんだよ、でも、あそこで、まさかの「おにぎりが無いなら、焼きおにぎりを食べれば良いじゃないの?」って、あのマリーは想像もして無かったんだよ、おにぎりを耐えきっても、焼きおにぎりは無理だよ。」
「「「「あそこでお醤油の匂いは反則だよ!!」」」
そう、誰もが怒る気なんて無くなるくらいに幸せだった、遥君がおにぎりを配ってるその姿でもうみんな駄目だった。
でも危ないんだよ、忘れそうになる程の強さだったけど、ステータスの差が絶望的なんだよ。あれほど危険な事をし続けても遥君のステータスはたったの300ちょっと、ViTなんて300無かったんだよ、HPだってかろうじて300そして、レベルは10代、すぐに死んでしまう位のステータスなんだ。まともに打ち合えばすぐに死んでしまう位のステータスしかない、だから速さと魔法特化になってた、打ち合えないから躱すしかないから、当たれば死んじゃうから、そして特化した分さらに打たれ弱くなってきている、脆いままだ。戦わせてはいけないんだ、危険な事もさせてはいけないんだよ。
歪な強さ。小田君達はそう呼んでいた、なまじ強いから私達を助けようとする、でも本当は自分が一番脆い。あれはステータスやスキルではない遥君自身の強さ、力が無いから速さとスキルを混ぜ合わせて殴っていたあの頃のまま進化しただけだ、だから本当は弱いままだ。
「走ることに例えれば、遥君は足が速い、どんどん速くなっている。でも、周りは、この世界はLvが上がればバイクに乗ったり、車に乗ったり、飛行機に乗るように早くなっていくんだよ。遥君だけが自分の足で走り続けてるんだよ、何にも乗れないから速く走ってるだけなんだよ。」
小田君はそう言っていた。だから歪な強さ。
今は車やバイクの運転が慣れてない隙に、一瞬だけ追い抜いて見せているだけなんだ。でもずっとは無理なんだよ。いつか無理になったときには死んじゃうんだよ。それにそんなに無理やりに速く走って大丈夫な訳無いんだよ、本当に危ないんだ、戦ったりしちゃいけないんだよ。
「迷宮皇さんがいれば大丈夫なのかもよ?すっごく強かったよ!?」
「「「凄かったねー!あれでまだLv10だって!?」」」
そう、使役したってどうよとは思うけど、安全になったはず、最強クラスの護衛だろう。だって迷宮皇。
でも一人では守りきれない。絶対的に物理的に耐久戦が出来ないんだから防御防衛には不向きだ、どちらもが攻撃に耐える力が無いんだから。危険な攻撃特化が増えてしまったんだ。
「遥君もアイテムチート化が凄いみたいだよ、見た目がそのまんまだけど、村人装備だから見た目が頼りないけど大迷宮の最下層クラスの武具とか装備だし特殊効果もガンガンについてるって言ってたし安全性は格段に上がってるはずだよ。寧ろ本人の危険度が上がっちゃってるよ、あの56層で使った魔法ってあれ個人レベルの使える魔法じゃないから、MP200くらいであんなの発動すらしないから。すくなくとも殲滅力はまた上がってるよ。」
また、強くなってる。歪なままに破壊力を増していく。
其れこそが危ない理由なのに。
また脆いままに力を付けて行く、其れに耐えられる器が無いのに。
あのLvであんな力を使ったら、絶対身体が壊れれちゃうんだよ?
危ないことしないでって言ってるのに。
いつもいつも私達を助けちゃう、危ないって言ってるのに。
多分また助けようとするに違いないんだよ。
そのために危ない事して強くなろうとしてるんだ、きっと絶対。




