4巻出版記念SS 「オオフクロウさんはいらっしゃらなかったようだ?」
本日5月25日、コミック3巻と文庫4巻の同時発売になりましたヽ(=´▽`=)ノ
そんな訳でありがとうございますの言葉だけではと、お礼投稿させて頂きました。本当にありがとうございますm(_ _)m
まあ、告知付きですが(笑)
ある日 偽迷宮
――ぐはああああーー!
暗い地下通路で遠くから悲鳴だけが反響する。ここは辺境へと通じる唯一の道にして、通れない閂だ。
「ちっ、細いな」
「だが、その通路も騙し絵が混じっている。急ぐなよ」
「ああ……わかってるから押すなよ」
「押すなよ? えいっ?」
「「「ぐわあああああああーー! 押すなーーぁぁぁ…………」」」
誰だ今の!?
静寂……錚々たる顔ぶれの冒険者が集まった壮観な攻略組が、今は声すら聞こえない。
「まさか先行は全滅したのか」
「考えるな」
「感じろ? えい?」
「「「ぬわああああああああーー………」」」
何かがいる! だが気配はなく、仄暗い闇の中に動くものは何もない。そして分散した冒険者たちの声すら消え去り、静けさだけが暗闇に染み入る。
「どうなっているんだ!」
もう、誰からも返事がない――その嫌な予感に振り返ると、後衛のメンバーすら誰もいない。自分の声だけが虚しく反響して孤独に響く。
そんな暗闇の静寂に心が壊れたのか、絶望の自嘲に気が触れたのか――独白。ただの愚痴が洞穴に響きながら虚しく消えていく。
「くそ、通せよ……通してくれよ!」
俺は諦めるわけには行かないのに、望みの場所にすら届かない絶望に心が狂おしく苦しい……だから気が付けば一人叫んでいた。
「うちのおふくろの病気のために親友は命懸けで辺境から茸を買って来てくれたんだ! そんなやつが病気になっちまった……商人が命を懸けてくれたのに、冒険者が諦められるかよ!!」
自分でも気が触れたのかと思うほどの大声に、肺腑が底をついて目眩までしてきた――幻覚、こんなところに子供が立っていやがる。
「いや、梟の廟議の貯めに茸を飼って忌て暮れたんだって言われても、状況が全くさっぱり暗くて見えないんだけど、先ずなんで廟議に梟貯めちゃったの!? うん、廟議って評議する廟でフクロウさんの大量飼育には向かないと思うんだよ?」
幻覚が意味不明な幻聴を騙る。だけど止まれない、ただ進み続ける――眼の前にはずっと黒い瞳の黒髪の子供が立っている。ああ、幻覚だからどれだけ進んでも近付かないが、それでも俺は行かなきゃならないんだ。
「退け、退いてくれ。俺は行かなきゃならないんだ。あいつに茸を届けるまでは何があっても死ねないんだ! あと、梟の話なんかしてねえよ、おふくろだよ!!」
「大梟!? フクロウ目フクロウ科フクロウ属オオフクロウと言いながら……中型の!?」
「大きくも中型でもない普通のおふくろだよ……って、普通のおふくろは中型でいいのか!?」
俺はもう気が触れてるのか、頭が壊れているのか意味のわからない会話を幻覚と語り合いながら、先へ先へと進む……不思議だな、必死で探索していた時は進めやしなかったのに、意識朦朧と幻覚を追いかけるように歩いてると何も起きない。
「これは夢なのか」
だが夢でも諦められないんだ、その先が悪夢だって俺は行かなきゃならないんだ。
「親友に恩を返さないと死ねないんだ、あいつを助けなきゃ……あいつが病気で死んだら全部俺のせいなんだ」
「つまり大きいような感じの中型のおふくろが廟議に貯められてて、茸を飼ってて忌て暮れてるあいつが病気だと……うん、かなり病んでそうだな?」
「病んでねえよ! って、病んでるんだよ!! 茸は飼ってなくって、無いから買いに行くんだ……あと、中型のおふくろを廟議に貯めんな! どんだけいるんだよ、おふくろ!?」
もう叫んでいないと心が折れそうで、焦りと悔しさに叫び続ける。冒険者の自分が迷宮相手に何もできないのが腹立たしくて、この巫山戯た迷宮の意味不明な罠が腹立たしくて、あと何よりこの意味不明な幻覚がムカつく!
だがきっともう、その怒りだけで動けている。
だから狂っていようと叫び続け、方向も何もわからないまま歩き続ける。
「いや、おふくろがどんだけいるのかが息子にもわからないなら、それは誰にもわからないんじゃないかな? うん、オオフクロウさんなら数は減少してたはずなんだよ?」
「だから大きくないおふくろだけど、数は減少してなくて最初から一人だよ! なんでおふくろの数に増減が有って貯められてるんだよ!?」
「うん、つまり何が言いたいのか全く理解できないんだよ?」
「茸がいるんだよ! おふくろのために笑って茸を買ってきてくれた親友のために、何が有っても茸がいるんだよ!!」
「はい?」
手には茸――「毒茸 【食べると笑いながら死ぬ】」
「笑って死ぬじゃねえかよ!」
「ちょ、笑って勝手にキレてくれた死ぬのためって言ったじゃん! キレてるな?」
「言ってねえよな、なんで笑って死なせるんだよ! 生きてて欲しいから、死んで欲しくないから、ずっと笑っていてほしいから茸がいるんだよ!! あと、キレてねえよ!!」
「はい?」
手には茸――「笑茸 【食べても死なないが、ずっと笑ったままになる】」
「って違ええよ! いや、笑ってて欲しいけど笑いっぱなしにしたいんじゃないし、死んでほしくないから茸なんだよ!」
「つまり死んでも干し茸の笑茸がほしいと!?」
「なんでだよ! どんだけ笑わせたいんだよ!? いや、笑っててほしいから助けたいんだけど、笑い茸で笑ってたら意味違うし、茸がないと死ぬんだよ!!」
疲れ果てた。意味がわからなくて、暗くて、足が重い……だけど、だけど俺は止まれないんだ。
「ああーー……はい?」
手には茸が2つ――「回復茸【病気怪我の異常状態が治癒する】」。そう、俺が探し求め辺境で手に入れようとしたものが幻覚から手渡された。そして……「笑茸 【食べても死なないが、ずっと笑ったままになる】」。
「だから助けた後に笑わせるのに茸使ったら駄目だろ! 笑いが止まらなくてまた茸が必要になっちまうだろうが……って、茸!?」
「いや、別に茸とかオオフクロウさんを廟議に貯めなくても、茸って普通に生えてるんだよ? 全くこれだからおっさんっていうものは話が長いだけで意味不明で困ったものなんだよ?」
幻覚が消えると出口ではなく入り口だった。辺境には行けなかったが、手に持った茸は消えない……そう、必死に探し求めた回復茸と笑茸と……もう一個、回復茸?
それが夢でも茸を握りしめて町へ……だけど振り返り、迷宮に響き渡るように願いながら全身全霊の大声で叫ぶ。
「なんで回復茸で回復させてから笑茸で笑わせ続けて、また回復茸で回復するんだよ! どんだけ笑わす気なんだよ……ありがとうよ」
響きながら叫んだ声は届いただろうか……きっと届いたんだろうな。
ああ、また笑茸が追加って……そういう意味じゃねんだよ! あと「オオフクロウさん江!?」って、違うって言ってるだろうが!! それ笑いっぱなしになっちまうって言ってるんだよ……駄目だ、ツッコムとまた茸が増えそうだ!?
――そうして男は友人を助けたが、笑茸の使用は必死に思いとどまったという。そんな伝説がある辺境へ通じる迷宮は、今日も元気に冒険者を飲み込んでいく……どうやら病気のオオフクロウ(中型)さんはいらっしゃらなかったようだ?




