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やっとおっさん地獄を抜け出したのだからおっさんはスルーなのは言うまでも無いだろう。


71日目 夜明け前 3番迷宮前



 大地は揺れ魔物達の咆哮で空気が震える、国さえも飲み込む迷宮の氾濫スタンピードが怒涛の如く押し寄せる。迷宮の氾濫スタンピードと言う名の絶望が、地獄が其処口を開きすべてを飲み込もうとその牙を剥きだした。


 「誘い出して挟み潰せ。正面は引きながら耐えよ、側面潰せ!」


 「第4波迎撃。氾濫は小康です」


 「急ぎ怪我人を下げろ。正面は入れ替われ、まだまだ魔物は腐るほどいるのだ、死ぬ事は許さん」


 「「「「はっ」」」」


 迷宮の中でも魔物は手強い、だが氾濫スタンピードは桁が違う、数々の複数の特性を持った魔物達が混ざり合い一気に出て来るのだから弱点や特性を狙った攻略は出来ない、怒涛の魔物相手に力押しの戦いで押しきるしかない。それに階層主や迷宮王が混じればそれはそこは地獄と化す。


 だが押し通る。


 我等辺境の軍は未来も希望も無くとも戦い続けて来た、先祖代々が滅び未来と苦しみの現在と悲しみの過去だけを抱え耐え抜き戦い抜いて来た。ならば今の我等に「出来ぬ」と言う言葉が吐ける訳が無い「成し遂げる」のだ、何故なら我等の後ろには幸せな現在と喜びの未来が在る、連綿と続く辺境の悲劇は終わり夢見る事も出来なかったほどの幸せが我等の後ろには有る。


 辺境には行かせぬが、出来れば迷宮の出口で殺しきりたいのだ。この氾濫は誘導されているらしいのだから魔物達が散る事は無いだろう、だが我等の後ろにも未だ避難も済まぬ街や村がある。そしてこの隣領ナローギはもう領主も逃げ軍も無い、民を守るべきものが誰もいないのだ。


 死をも覚悟しながら、死を許されずに戦いに挑んだが魔物の氾濫は強い、まさしく滅びを起こす災厄の脅威だ。だが、我らの方が強い。説明も聞き頭で理解し訓練も重ねていたがやはり実戦は違うものだ、我らが辺境の軍が圧倒的に強い。これが最古の大迷宮の武具、そして効果スキル付きどころか効果スキル満載の武具防具。


 効果スキルで力増し速くなると言う事、それが即ち強さだ。魔物をただ蹴散らし薙ぎ払う、魔物に追われ負け戦で戦ってきた辺境の貧しき軍が最強の武具で魔物達を圧倒していく。これこそが辺境が求め続けた民を守る力だ。


 これなら氾濫が尽きるまで持ち堪えられるかと思い始めれば、よくぞ毎日毎日凶報が届くものだ。そして最悪だ。


 「教会騎士団で間違いありません、騎兵のみで3千。ただし最強級の装備との報告でした、おそらくは聖堂騎兵団かと」


 「部隊を出せるか? 足止めだけでも構わん」


 無理なのは承知の上だ、今現在が既に奇跡だ。迷宮の氾濫の暴虐な威力に殲滅され壊滅し続けていた我等辺境軍が迷宮の氾濫を出口で食い止めながら殲滅し続けている、圧倒的な力を持つ幾多の魔物達を狩り続けながら崩れる事無く持ちこたえている。歴々のオムイが成し遂げられず散って逝った勝ち目の無い迷宮の氾濫スタンピードと戦えているのだ、ようやく辺境は戦い民を守れる力を手にしたのだ。


 圧倒的な破壊力の武器の数々、何気なくあの少年がお礼だの叩き売りだのぼったくりだのと言って我らの為に用意してくれた最高級の武具が魔物を倒し続けている。


 そしていまだ崩れない兵達を守る鎧装備の堅牢さ、あの王国最高とまで称されながら満足な鉄すら手に入らない辺境の貧しさに満足な武具も造れない中で屑鉄まで集めながら辺境の為に武器や鎧を作り続けてくれた男の渾身の防具たちが兵を守っている、最高の鍛冶師スミスに最高の設備と素材をあの少年が渡したのだからこの防具で魔物如きに殺されては顔向けが出来ぬ。


 そして後ろにはシノ一族がバックアップをしてくれている、少年には名前を覚えて貰えずに未だ尾行っ娘一族と呼ばれているらしいが私より先に覚えられたらそれはそれで許しがたい! 帰参したあの一族のおかげで戦うしか能の無い辺境軍に目と耳と口が出来たのだ、瞬く間に情報が手に届き共有されて命令が伝達されて行く、3千に届かぬ兵でも万の軍勢の戦いが出来るのは偏にシノ一族の働きだ。そしてそのシノ一族は戦闘力こそないが少年から大量の薬品と茸を渡されており兵を回復して廻ってくれている、そして危険な階層主や大量の魔物が密集して出て来た時には少年手製の「魔石手榴弾」で援護して助けてくれている。未だ隣り街に付いていた時の事を気に病んでいるようだがこれまでの働きにこの活躍は胸を張り誇るべきだろう、あれは辺境の宝だ、これほど頼もしい味方はいない。


 だが、後ろを取られた。まだ教会軍が入り込んでいたのだ、しかもよりにもよって聖堂騎兵団。皆殺しの虐殺団、異教徒狩りの教国最強騎士団が入り込んでいたとは。第1師団が国境の防衛を担う前に国境にいた第3師団が引き込んでいたのだろう、そして最悪な時機に動き始めた。


 「辺境軍は動けません。シノ一族が足止めに出ると申し出ております」


 「止めろ! それは死ぬ気だ、自ら死を選ぶことは許さん。それは少年の想いを汚す事だと言い伝えよ」


 このままでは我等か黒髪の少女たちが後ろから攻撃を受けてしまう、だがこちらに向かっているのは近衛師団のみ。相手が聖堂騎兵団では王女閣下が率いる近衛師団でも分が悪過ぎる、教国の独占した魔石加工技術と莫大な富を注ぎ込んだ豪華な装備で武装された敵だ、我らなら少年と最高の鍛冶師の装備で引けはとらぬが近衛は王国で最上とは言っても数段装備の格が落ちる。ぶつからせては拙い。


 それに間に合わぬな、こちらが先に後ろを取られて魔物の氾濫と挟まれる。そして向こうは騎兵だ、魔物の氾濫からも逃げ切れる精鋭なのだろう。最早撤退も出来ぬなら聖堂騎兵団くらいは道連れに着き合わせねば気が済まん。


 「シャリセレス王女の近衛師団がこちらに向かっています。ですが……間に合いません、辺境への撤退を開始しましょう」


 「どのみち4つ目から氾濫が始めれば撤退するしか無かったとはいえ無様だ。あの城では少年が1人で4万の敵と対し迷宮の氾濫の2つまでも少年の仲間が戦っていてくれているのに我等は1つすら諦めて退かねばならないのか。馬鹿王子の内乱騒ぎで第3師団が崩壊していなければまだ王国には3万の兵が残っていたはずなのに自滅してたった数千の騎兵に良い様に荒し回されて民を見捨てて退かねばならんとは」


 「オムイ様は辺境の御領主、王国の民を思われるお気持ちは分かりますが辺境の民の為にお退き下さい」


 「雑魚3千か精鋭1千くらいなら私が突撃して大将の首を取って来るんだが……3千ならいけるかな? うむ、1千が3つだからいけそうな気がしてき「駄目です! お退き下さい! 遥様とも約束しましたよね、辺境の恩人とのお約束を破られる御積りですか?」……後衛から撤退準備だ、急げ」


 せめて数だけでも魔物を減らしておきたい、それだけでも後の被害が減るかも知れない。だが引き際を見誤るは愚策、退くなら素早く秩序立てて退く。


 「速報。シャリセレス王女の近衛師団が聖堂騎兵団に対し高速突撃を敢行、聖堂騎兵団は壊滅的な被害です。近衛師団はそのまま4つ目の迷宮を目指して転進しました」


 この短期間に近衛の武具から装備まで用意していた様だ、あの距離から騎兵の長距離高速突撃など少年の作った装備以外では考えられない。そして少年の装備を王国の精鋭近衛師団が装備しているなら辺境軍にも劣らぬ戦いが出来るのだろう。しかし高レベルになればなる程に装備が不足していくものだが、高レベルな兵に高レベルな装備を大量に揃えられればここまでに強くなれるものなのか、これこそが一騎当千のつわものだ。


 「よし。此処で止めるぞ、これで我等が崩れれば近衛の兵に笑われる。4つ目は王女様にお任せしよう」


 しかし5つ目が在る。少年からの知らせは最低3恐らく5、万が一が7で最悪が9と在った、シノ一族の調査では9つに教会が手を付けていたが最終的に何かをし続けていたのは5つだ。5つ目の戦力が足りん、いや今が出来過ぎだ、本来国を挙げ総力を結集して1つの氾濫を潰すのだ。3つ止められているだけで奇跡と言って良い、そして4つ目まで止められそうだから後は1つだけと欲が出てしまう。


 「階層主でます」


 「前を開けよ!」


 この非常時だと言うのに。部隊の命に責任を負い民の暮らしを守らねばならんと言う責任重大な役目だと言うのに困ったものだ、血沸き肉踊り叫び出したい程の高揚感だ。全身全霊を持ってして戦えるだけの武具を身に纏い命を懸けられるだけの剣を拵えられて眼前には階層主だ、己より強い敵が在りその敵と戦える武具が在る。身体の奥底から笑いが込み上げ全身が戦慄く。


 「押し返して迷宮に叩き込め!」


 「「「「をおおおおおっ」」」」


 守りきれない戦いを続けていざ守れるようになってようやく気づいた、守っているから勝てないのだ。いつしか命を懸けて魔物の脅威に耐え抗い続けてきていた、我等は一体いつから勝ち滅ぼす事を忘れていたのだろうか?


 いにしえのオムイの始祖が大陸の魔物達と戦い続けて辺境まで追い込み滅ぼそうと試みた、そして辺境での最後の戦いで伝説は終わりを告げた。大陸から魔を殲滅しあと少しと言う所で勇者たちは倒れたのだ、味方の人族からの裏切りで、仲間達を後ろから切り付けた裏切り者達こそが今の教会。そうして勇者と英雄を率いたと言う戦女神は最古の迷宮に落とされ多くの英雄と勇者が命を落として魔を滅ぼす力は大陸から失われたと伝えられる。それからは延々と続く辺境の悲劇の歴史、英雄のいないまま繰り返される敗戦の為の抵抗戦。


 だが今我等は戦えている、戦えるのだ。いにしえの伝説の時代の言い伝えの様に、且つて全ての魔と戦い打ち倒して戦って来た英雄たちの物語の様に。


 長い長い歴史の中で繰り返し続けられた滅亡の連鎖に我らの心には諦めが刻み付けられていた、知らぬうちに抗う事だけしか考えが及ばなくなっていた、それは未来の滅亡を暗に認めていた。何故なら不可能だったからだ、どれ程までに犠牲を強いて抗おうと常に守りきる事など出来ずに叩きのめされ死者だけが増えて行くだけだった。


 心が諦めていた。滅びを認めていた。だから抗う事しか出来ず、それすらも負け戦だった。心が、魂が折られていた。諦めていたのだ。


 だが今は違う。我が辺境軍も近衛師団さえもが抗おう等と考えてもいない、討ち滅ぼし殲滅し殺し尽くして蹂躙する気しかない。それ以外など考えもしていない。


 もう我等は見てしまった、万の魔物を殺し尽くし最下層の迷宮を殺し尽くす少年を。我等にはもう不可能などと言う言い訳は無い、それが可能だと見せ付けられてそれが成せる武器までが与えられたのだ。


 且つて戦女神が率いた精鋭達は皆勇者の如く戦う英雄達の群れだったと言う。彼らも見てしまったのだろう、それが可能だと言う事を、そして見上げてしまったのだろう、遥かなる高みの強さを。そして憧れ、目指してしまったのだ、それこそが英雄譚。


 誰もが絶望を当たり前として生きる世界でたった1人何もかもを諦めずに戦い続ける者、それこそを人は英雄と呼んだのだろう。


 きっと本人は死ぬほど嫌がるだろうから言えないが、誰もが感謝を捧げ誰もが憧れ誰もが目指してしまう常識破壊者えいゆうはたった1人で万の敵を薙ぎ払って辺境を守ってくれているのだろう。だから我等は出来ぬなどとは言えぬ、諦める事など許されぬ、我等はもう目指してしまったのだ。あの少年の強さを、あの少年の夢を。


 「迷宮王を囲め、我に続け全軍突撃ぶっころせ!」


 「「「「ううをおおおおおぉぉーっ!」」」」


 先ずは名前を覚えて貰う事を目指さねばならないが、迷宮の氾濫などその難事に較べれば路傍の石に違いない。ならば踏み潰すのみ。


900人の方々から御評価を頂き評価者数900人となりました、本当にありがとうございます。

そしてまたレビューをお書き頂いて4つ目のレビューを頂きレビューまで書いて頂いて重ね重ね本当にありがとうございます。これからも日々励みにさせて頂きます。

お礼投稿と言いうのも烏滸がましいお礼投稿ですが、もし万が一何かの間違いで御気に入って頂けてお付き合い頂ければ本当に幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 難易度:主人公に名前を覚えてもらう>絶望的な壁>迷宮王撃破
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