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見た事も無い美味な異国の菓子でお説教を誤魔化していると言うのが正しいらしい。


61日目 夜 ムリムリ城



 威圧され身が縮む、国王の代理たる代王が無様だが相手は英雄の一族オムイ家の頭首、しかも軍神メロトーサム卿だ、ただ王家に生まれ付いただけの私等とは格と言う物が違うのだろう。


 しかも通されたこの会議室と言う部屋の荘厳な迫力に王国の文官どころか武官までも気圧されて圧倒されている、これが辺境の王オムイ。



 だが脅えすくもうともうこの身この命は捨てた、私はこの首をここに届けに来たのだ。この首で取引をする為に来たのだ。


 「私の、代王の首と引き換えでも無理だとおっしゃるのですか? もうそれしか貴族達と話し合いに持ち込む余地はないのですよ、戦乱で辺境は滅び王国は教国の属国に落ちるでしょう。それでも一介の冒険者を御庇いになって戦争を始めるおつもりですか? もうそれしか残されていないのです。」


 頑な過ぎる。何故そこまで訳の解らない無礼者を庇う必要があるのか、全く理解が出来ない。辺境に謝罪するにはこの首では軽すぎても小僧1人とも釣り合わないと言うのか? 領地と国をたった1人の命と引き換える気なのだろうか?


 「まず出来る出来ないでは無く何の権利も無いのですよ? 何と言って捕らえ没収する御積りですか王弟閣下? 是非お聞きしたい、少年がたった1人で戦い我らはその平和と富をもたらされただけで少年にも宝にも何の権利も有していないのですよ?」


 何という事か! 辺境の王とまで呼ばれたメロトーサム卿が誑かされているとは、確かに辺境の豊かさには驚いた、王都より豊かなのかも知れない。だがそれは結果論だ、異国の餓鬼が勝手にやった事に何故そこまで義理立てをして領地と王国まで天秤に掛けてまで守らねばならないのか? 


 

 メロトーサム卿もだがオムイ家自体が金や力では転ばない、不撓不屈の独立独歩こそがオムイ家の生き方だ。それが否であれば王家の威にも背いて見せるのがオムイ家、だからこそ辺境の王とまで呼ばれているのだ。


 「王国と辺境領を守る為に捕縛する理由や大義名分が必要ですか? あの少年の首と我が首で手打ちする以外何の手立てすら残されていないのですよ、教国が引かねば貴族たちは引かないのです。交渉に持ち込むしか道は無くその道には首がいるのですよ? それさえ飲んで頂けるなら私の首は辺境に頭を下げたままここに置いて行きましょう、御決断くださいメロトーサム様!」


 少年。そう迷宮で崩落事故に遭い幸運に巨万の富と迷宮王の宝を手に入れた者はあの小僧だった。


 あの無礼者の不気味な黒マントこそがくだんの迷宮殺しだった、あの教国の傭兵団を皆殺しにした不気味な技こそが迷宮王の宝なのだろう。だがそれさえ無ければLv21の小僧に過ぎない、罠にかけ捕えて宝具を取り上げたうえで貴族たちに渡すだけで良い、それこそが交渉の場を作る事になる。


 正直メロトーサム様もシャリセレスも「魅了」か「傀儡」にでも掛けられているのかといぶかしんだが探っても異常状態では無かった、ならばあの意味不明な軽佻な口調でたぶらかされている。口八丁手八丁で取り入っているのだろう、金とコネで辺境に寄生してしまっている。


 「ならばあれは王家として捕らえた者です、あの少年を御引渡し願いたい。」


 「出来ませんな。それに捕らえているも何も自分の足で歩いて来たように見えましたよ? まさか王弟閣下はあれを虜囚だと言い張るおつもりですか? それに王国の命令だとしてもあの少年はオムイ家が保護している大切なお客人です、例え如何なる理由が在れどお渡しは出来ません。」


 手詰まりだ、直接お会いして頭を下げ首を差し出して取引しようと算段していたのに全く以て交渉に応じる気が無いのだ。


 そして休憩となり豪華な客室に通された、確かに辺境は生まれ変わっている、このような豪奢で華麗な客間など如何な大国ですら用意できないだろう。だがせっかく生まれ変わり好景気に沸く辺境が滅ぼされれば意味が無いだろうに? 確かにあの小僧のおかげで平和になったのだろうし小僧の放蕩三昧で街も豊かになったのだろう、だが運が良かっただけの餓鬼の為に何故王国が滅びねばならん?


 「ふうーっ、頑なだ、あまりにも頑なだ、何故あそこまで庇うのか?」


 「オムイ家とは忠誠と共に恩義に厚い事で有名です、恐らく例の少年に恩義を感じているのでしょう。あの最古の迷宮の制覇はオムイ家歴代の悲願だったのですから。」 


 だが高々Lv21の小僧に何か出来る訳が無い、崩落事故で起こった迷宮王の死の手柄を漁夫の利で拾っただけの無礼な餓鬼に過ぎないでは無いか? 何故に無敗の剣士とまで呼ばれたメロトーサム様や剣の女王の異名を持つシャリセレスまでもが持て囃すのかが分からない。


 「情報は入ったか? 今は未確認情報でも噂でもとにかく情報だ!」


 ここまで分からないと言う事は情報に抜けが在るはずだ、あの小僧に何か価値があるのか? 何か小僧がいなければならない理由が在るのか?


 「現在の情報では見た事も無い美味な異国の菓子で女に取り入っていると言うのが街で話されているようです」


 菓子? 確かに20人の美姫を噂通りにたぶらかしてはべらせていた、女殺ジゴロか? シャリセレスが籠絡されたのか? だがメロトーサム様まで何故? そうか、メリエール嬢が籠絡されて家族ぐるみで誑かされたのだ!


 是だから女子供は碌な事を仕出かさない、たかが菓子に誘い込まれて女殺ジゴロに騙されてしまうとは。しかしまさかあの堅物のシャリセレスがこうも簡単に籠絡されるものだろうか、ましてやあの口煩いメイドまでが? 


 だが生かしておけば障害にしかならないだろう、そして殺してしまえばその首に等用は無いはずだ。責は私の首で払うしか無いがどうせ詫びに置いて行く気だった首だ、道連れがあの無礼極まりない異国の餓鬼と言うのが業腹だが其れでもあの首が必要なのだ。


 コンコン。と軽いノックの後にメロトーサム様が一人で現れた、内密の話なのか?


 「失礼。王弟閣下、本当にあの少年を貴族軍に引き渡すのかい? 間違いはないのだろうか?」


 「メロトーサム様? 我ら王族がオムイ家に嘘偽りなど申す訳が無いでしょう、ましてや私がメロトーサム様を騙す等すれば死しても兄に顔向けすら出来ません。真実のみで偽りなど在りませぬ。」


 メロトーサム様が1人で来られたと言う事はそういう事なのだろう、やはりメリエール嬢が籠絡されておおやけの席では引き渡すと言えなかったのだろう。私は未だ独身ひとりみだと言うのに見せ付けるように20名もぞろぞろと黒髪の美少女を引き連れやがってむかつく餓鬼だったがするに事欠いて伯爵の令嬢にまで甘言を吐き、遂には王女までその毒牙に掛ける気か!


 軍でもシャリセレスの破廉恥な軍装に驚きを隠せていなかった、しかし王国秘蔵級かそれ以上の装備だった為に皆納得したのだが聞けばあれもあの小僧の仕業らしい。教国共に国を空け渡す気は無いが女誑しの小僧にのさばらせる気も毛頭ない! やはり暗殺……


 「オムイ家としても辺境としても私個人としても引き渡しなど出来ないんだけどね? なんか本人が乗り気みたいなんだよ? いや、止めてるんだけどね? 何か行く気満々?」


 本人が? いや騙されんぞ、自らを犠牲にして貴族軍に引き渡されようとして見せる事で媚びを売り、実際は口だけに決まっている。そうやって女を騙し誑かしているのか、まるで芝居の様に悲劇の主人公ぶっているのだろう、考えただけで虫唾が走る。


 下種な小僧の小芝居で在ろうとも行くと口にした以上はもう後戻りはさせはせん、首の根押さえて引き摺って行くぞ。


 

 これで交渉スタートラインに立てる、王国の命運をかけた交渉せんそうに。



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