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何で人が一生懸命持って帰った木材を又持って行っちゃうんだよ?


43日目  朝 オムイ 冒険者ギルド



 シモムイ村と言う小さな村。オムイの街の下流には農村地帯があり、そこの農民たちが自衛のために集まってできた村がある。


 シモムイ村は少しづつ大きくなっては魔物に襲われて人手が足りなくなり農地が荒れ果てる、そこからまた少しづつ人が増え大きくなっては魔物に襲われるのを繰り返している、兵隊も冒険者も巡回し、森の魔物を狩って間引くがきりが無いまま堂々巡りを繰り返している。


 柵を作っては魔物に壊され、数年懸けて壁を作り始めても洪水で崩されてしまった、どこの村にも町にすらまともな柵すら無いのが現状だ、好景気でやっと予算が出来ても人手も物資も足りない、魔物がいる為に森に囲まれながら木材までもが足りないのだ。


 ところが今日木材が大量に入荷した。入荷したというか木材を求める依頼を見て「木材って売れるの? 森だらけなのに? まじで?」と聞いてきた冒険者では無いのに毎日顔を出す少年が「ある時払いで良いから買い取って」と言って置いて行ったそうだ。きちんと乾燥された大きな角材を大量に積み上げて出て行ったと言う。


 すぐに領主様に使いを出し、木材は全て領主様が買い上げたうえで周りの街や村に柵だけでも造ろうと冒険者や大工を集めまずは一番近いシモムイ村の向かった。


 だがそこにはシモムイ村は無かった。小さな無防備な村は無くなっていた。


 あったのは堅牢な壁に囲まれた城塞の様な町、近づいて行くと村長がすぐにあらわれ何があったかを話してくれた。おとぎ話のような物語のような話を。


 以前にシモムイ村の更に下流に迷宮が出現したとの報告は受けていたがまだ若い迷宮で人数が集まり次第一気に潰そうと計画されながら人手不足で放置されたままだった。そこに一昨日ふらりと銀色の甲冑姿の騎士が黒マントの少年を連れて現れたのだそうだ、黒マントの少年は村で売れなかったイモをすべて買い取り、足りない小麦や高価過ぎて買えない薬品と交換してくれたそうだ、そして2人は迷宮に入って行った。 


 そして昨日も2人で迷宮に入って行ったと思うと、何時間かで迷宮から戻って来て「迷宮は死んだ」と告げたそうだ。その手には伝説の迷宮王の指輪を持っていたというのだから間違いないだろう。村の者達はイモや薬品の事に加え迷宮まで潰して貰った事に感謝して貧しい村のありったけの農産物をお礼にと少年達に渡したそうだ。


 それを受け取った少年は喜び地面に手をついてこう言ったそうだ。「壁よ出でよ!」そのたった一言で城壁が造られたのだ。


 もはや住民たちはそんな凄い魔導士に何を以て礼をして良いかも分からず、売り物の野菜までかき集めて少年に渡すと、今度は少年がお礼と言って数々の武具を渡し、薬品やお金も更に置いていった。貧しい村にそんなお礼をできるような高価な物は無いと言うのに野菜をたくさん貰ったから充分だと笑顔で答えたそうだ。気が済まない住民たちが家中の僅かな貴金属を集め始めると困った顔をして「野菜ありがとう。」と逆に礼を言い立ち去ったそうだ。そして森の方に立ち去って行ったかと思うと魔の森の木々が次々に切り倒され、魔物たちまで瞬く間に倒しながら振り返る事も無く帰って行ったそうだ。


 後には立派な壁、森は切り開かれて迷宮も無くなり、現金も小麦も充分にある、売れなかったイモの保存法から調理法まで教えられ村には薬も武器もある。突然に裕福で安全な村になり、皆が幸せになっていたそうだ。


 村長も村人たちも涙ながらに話し続けていた。


 自分達でも信じられないと、その目で見たのに夢の様だと、それなのに名前すら聞けなかったと。


 まるで物語だ。


 昔話や御伽噺でしか有りえない様な話なのだから。


 普通ならばそんな夢のような話を聞かされても与太話か古い昔の言い伝えかと笑うのだろう。


 だが笑えない。


 目の前に立派で頑強な壁が在るのだから。


 そして、ある日気付くと幸せになっていた街をよく知っているのだから。


 だから笑う事などできない。


 なによりその黒マントの少年が誰か心当たりがあり過ぎるのだ。


 黒マントの少年に朝も会ったのだから。


 黒マントの少年は確かに迷宮は死んだと言っていた。意味は解らなかったが言っていた。その確認の為も有って来たのだ。


 そして大量の木材を置いていった。村に近過ぎる魔物の森を切り開いて帰った黒マントの少年なら当然大量の木材を持っているだろう。


 黒マントの少年は村の事など何一つ告げずに出て行ってしまった。


 だから誰も知らなかった。


 まるで物語だ。


 きっとこの話が昔話や御伽噺になり、この村で語り継がれるのだろう。


 この幸せを喜びを感謝を捧げようにも名も告げずに立ち去ってしまい、行き場の無い感謝の念はそのまま物語になるのだろう。こうして昔話や御伽噺は作られ語り継がれるのかも知れない。


 きっとあの少年は何も言わないだろう。


 だからこの話はまた誰にも知られる事無く終わる。


 だがこの村では永遠に語り継がれるのだろう。


 街で会ったら驚くだろうがそれまでは幸せな御伽噺で良いだろう。


 木の杖を持った大魔導士は、実は木の棒で魔物を撲殺して回っているのも黙っておこう。


 それは何時も語らず名乗らず話さない少年のせいなのだから。


 感謝され物語を語られるくらいは我慢してもらおう。


 旅の「黒衣の大魔導士」と「白銀の騎士」の物語として。


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