一.真鈴あやめと月ノ輪祭
花川春樹は、文化祭一日目に、真鈴あやめと文化祭を巡る約束を取り付けた。華やかな気分が舞う中、真鈴あやめが不思議に思ったことを呟いた。
[一日目・8:19]
二階・その特別教室Bでは、一年六組の賑やかな声が飛び交っていた。
「ほらそっちはもらったっ?」
「こっちが足りないよ!」
「中々いいじゃない! これ」
「ですよね!」
「さすが千両さん!」
土曜と日曜の両日を使って開催される坂月高校文化祭。またの名を月ノ輪祭。今日はその一日目なのだ。
うちのクラスは喫茶店をすることになっていて、店を開く場所がここ、特別教室B。開会式前、一致団結のもと、この日のためだけに作られたクラスTシャツが今クラスメート全員に配られている。早速それに着替えてはしゃいでいる人もいるし、その出来を友人と賞賛している人もいる。
僕も、今受け取ったばかりの紺のTシャツを他の皆と同じように広げてみる。
「……わお」
思わず日本人の口からは日常発せられないであろう感嘆の声が漏れた。
経費を可及的安くするために背面にしか印刷されていないのだけど、それがかなり良いデザインなのである。花火が散るような円が重なってできた幾何学模様は製作者曰く『満月をイメージしたもの』だそうで、三色しか使われていないし凝っているわけでもないけれど、配置が絶妙のバランスなのだ。下のほうの《一年六組》を消せば、学校外でも普通に着ることができるんじゃないだろうか。このクラスの文化委員で、おそらくクラスに一番貢献しただろう千両万衣の作である。あの人、頑張りすぎなんじゃないかと思う。業者への発注も彼女ひとりでこなしていたみたいだし。
「ハル、どうかなどうかな!」
と、おもちゃを与えられた子どものような笑顔をして僕に近づいてきたのは真鈴あやめ。今日も相変わらずのポニーテールだ。彼女がくるりと一回転するのに引っ張られて尻尾も回る。早くもクラスTシャツに着替えているのだけど、いつどこで着替えたのだろう。
「ん。似合っているんじゃないか」
すると真鈴は芝居がかった様子で口に片手を当てる。
「わお。意外も意外。どうしたの、素直だね」
あれ、『わお』って普通に使うものなのか。頭ではそんなことを考えながら、口では真鈴に物申す。
「じゃあ、どう言えばいいんだ。似合っていないとでも言って欲しかったのか」
「いや、そんなわけじゃないんだけどね。うん、嬉しいよ」
「……」
「ん、どうしたの」
はにかむ彼女を見て、言うタイミングはここしかないだろうと悟る。僕は何となく思いついた風を装って、真鈴に切り出してみた。
「そうだ、真鈴。文化祭、暇か」
真鈴は一瞬、きょとんとする。それから考えるように顎に人差し指を当てた。
「明日は一緒に行動しようって約束している友達がいるし、クラス当番もあるしで忙しいから、うん、今日は暇かな」
僕が店番をするのは明日の午前中。そして一緒に文化祭を楽しもうという人もいなかった。
とまれ、都合がちょうど合うようなので、僕は僕にしてみれば『わお』以上に言わないであろう言葉を口にする。
「それなら、一緒に月ノ輪祭巡らないか」
今度は真鈴の表情が固まった。いつの間にか半歩下がっている。教室は騒がしいのに、二人の間だけ空気が凍ったようだった。なんだその反応は、と僕が口を開こうとするのと同時に、真鈴の氷が溶けたらしい。次いで今度は両手で口を抑えた。
「わお。わおわおわおわおわおわお」
というか暴走を始めた。
「ありえないありえない何今日どうしたの大丈夫ハル」
「いや、僕は平生通りなのだけど」
僕の声が耳に入っていないらしい真鈴は今度は心配と驚きが五:五で入り混じった表情をして、立て板に水のように言葉を吐き出す。
「というかあなた本当に花川春樹なの? え、嘘ありえないないない普段はぼーっとしているのに! 下手したら文化祭まで休みかねないハルがありえない今日雨降るんじゃないかなというか日本列島上空で台風が生まれるかもしれない地球全土を覆うほどの大規模なハリケーンが出現するかもしれないどうしよう地球が! 地球が!」
「やめいっ」
後半になってくると今度は本気で怯えだしたので、そろそろ止めておくことにした。
「そんなに珍しいか?」
真鈴はぶんぶんと首を縦に振る。そんなに強く振ったら首を痛めるぞ。
「え、いやまあ、文化祭中ずっとひとりでいるのが悲しいからなのだけど。駄目か」
冷静になってくるとだんだん恥ずかしくなってくる。なぜだろう。女子をプロムに誘う男子の気持ちがわかったような気がした。
今度は真鈴は慌てて手を振る。忙しいやつだ。
「え、いや、そんなことないよ! 少し驚いただけだから! うん、喜んでオーケーするよ!」
とりあえずは胸を撫で下ろした。そんな僕に、真鈴は『ただし』と言う。
「今日ばかりは嫌々言わせないよ。わたし、行きたいところたくさんあるんだから。高校生活の文化祭は三度あるけど、高校一年生の文化祭は一度だけなんだから!」
その貴重な文化祭、一日だけでも僕と回ってくれることを感謝するべきだろう。
僕は頷いた。
[一日目・9:48]
八時四十分から、体育館で開会式があった。生徒会長が開会宣言をしたり軽音楽部がはちきれんばかりの爆音で演奏したあと、生徒たちは十時からの一般公開のためにクラスや部の最終チェックをするためぞろぞろと体育館を出て行った。
とはいっても六組は前日までに千両がしっかり指揮してくれていたおかげで準備は完全に終わっているし、僕は部や同好会に所属していないので、十時にはまだ少し早いけれど、真鈴と生徒会室に向かった。
真鈴が言うには、生徒会制作のスタンプラリーなるものがあるらしい。その台紙を貰いに行くのである。
生徒会室の入口を塞ぐように縦長のテーブルがある。その上に、プリントが山積みになっている。おそらくこれが台紙なのだろう。開いたドアから、おそらく生徒会役員であろう二人の生徒がせわしなく動いているのが見えた。彼らも色々と忙しいのだ。
「ちょっといいですか」
真鈴は中にいる、茶髪を後ろでまとめた女子生徒に呼びかけた。その女子生徒は僕たちに気づくと営業スマイルに切り替えて、こちらに寄ってきた。生徒会役員選挙で見たことがあるから、生徒会役員のひとりで間違いないようだ。
「こんにちは。スタンプラリーの台紙ですか?」
「あ、はい。そうです」
「どうぞ」
女子生徒が真鈴に台紙を手渡す。
「大変そうですね、中」
僕は言った。女子生徒はちらりと後ろを見てから、
「そうなんですよ! 生徒会長も副会長も出払っているから、わたしと彼だけでなんとかやっていかないといけなくて!」
すると、真鈴が疑問を呈した。
「あれ、生徒会って五人構成じゃありませんでしたっけ? 部屋にはあなたと二人しかいませんよね。一人足りなくないですか。あ、もしかして、病気?」
途端、女子生徒の笑顔に暗いものが混じった。苦笑いとでも表せばいいか。
「いや、そうではないんですけどね……休みなのは休みなんですけれど。あ、あなたもどうぞ、スタンプラリー」
台紙を僕に差し出して無理に話を変えてくる。
僕は台紙を拒否した。真鈴がスタンプを押すのを隣から眺めるだけで十分だし、こういうのはあまり好きじゃない。
女子生徒は真鈴に向き直り、さっきの笑みを見せた。
「月ノ輪祭のスタンプラリーは他のと一味違うんですよ。どうやらお二人さんは一年生のようですので、よろしければ説明しましょうか」
学年についてはスリッパの色を見ればわかるから、驚きはしない。真鈴はコクリと頷いた。
「見てもらえばわかると思いますが、全部で五つスタンプを押す箇所があります。と言っても、五つ揃える必要はありません。景品にも種類がありまして、スタンプの数に応じて景品の質がグレードアップするようになっています」
「景品ってどんなのですか」
僕はチャレンジしないのだけど、つい口を挟んでしまった。
「スタンプ二つから景品の交換を受け付けているんですけど、一番簡単にもらえるのは月ノ輪祭限定のうちわです。三つで金券五〇〇円分。それ以降は秘密になっていますので、お楽しみということで。そして、ここからが肝心なのですが」
女子生徒は真鈴が持っている台紙の一点を指で指し示した。僕もそこを覗く。
「ここのスタンプラリーが他と違う理由です。スタンプが設置してある場所は秘密です。ただ、ヒントとして、謎めいた文を台紙に印刷しておきました。それを解き明かしてくれれば、スタンプの設置場所がわかる仕組みになっています」
謎解き、なのだろうか。
「以上、説明は終了です。スタンプラリーはおひとり様一度のみの挑戦になっていますから、交換は一度きりです。ここに来てくれれば、スタンプの数に応じた景品をお渡しします。制限時間は明日の閉会式までありますし、ゆっくりと考えてください」
「ありがとうございます」
真鈴が僕のほうを向こうとすると、女子生徒は思い出したようにひとつ付け加えた。
「ちなみに、前年度と前々年度では、五つ全てのスタンプを揃えた強者はひとりもいませんでした。難易度は今年も以前と依然変わりないですけど、どうぞ頑張ってみてくださいね。わたしなんか生徒会長に何度も駄目出しもらって一昨日の締め切りぎりぎりまで使って考えたんですから」
ちょうど言い終わると同時に、スピーカーから『十時です。只今から一般公開の時間になります。失礼のないようにしてください』と放送がかかった。
月ノ輪祭、開催である。
[一日目・10:05]
いの一番に一年八組へ向かう。真鈴は井口菫咲に『真っ先にあなたのところへ遊びに行くからね』と約束してあったそうだ。なんでもアイスの販売をしているらしい。
そのアイス屋への道すがら、僕は訊いてみた。
「んで、わかったのか、真鈴。スタンプラリーのひとつ目」
「さっぱり」
台紙を見つめたまま、真鈴が返答した。
「そんなに難しいのか」
「何書いてあるのかさっぱりだもん。――あ、でもわたしの力で解くからハルは黙っていてね」
そう言われてしまえば自ら知恵を働かせようとは思わない。
「難しいけどね、この三つ目はわかる」
「ほう」
「ただ一言『図書室の前』と書いてあるの。これってつまり図書室の前にあるってことでしょ? 図書室は八組に一番近いし、ちょうどいいね。ついでに寄っていこう」
華やかに装飾された中央階段をあがる。廊下はどこもかしこもポスターや飾り物でいっぱいだ。すれ違う人もたくさんいる。体育館のステージでやる劇の宣伝のために変装して練り歩いている集団もいた。みんながみんな、気持ちが浮ついているのがわかった。
まあ、真鈴はずっと台紙と『月ノ輪祭のしおり』とにらめっこしているのだけど。
一年の教室が並ぶ四階まであがる。始まったばかりだからなのか、他の階に比べて人の数は少ないようだった。
「あら、真鈴さんと花川くんじゃないの。どうしたの、クラスのお仕事?」
廊下を進んでいると、後ろから声をかけられた。振り向くと、懐かしいおかっぱが目に入った。
僕の中学生時代からの旧友、楢卯月である。この喧騒の中、どうやらひとりらしい。
「久しぶりだな」
さすがにこの時は真鈴も台紙から顔を上げた。
「あ、この間はどうも、楢さん」
「こちらこそ。あなたたちは仕事中なの?」
かぶりを振る。
「いや、僕が暇だったんだよ。で、聞くと真鈴も暇だったらしい。だから一緒に文化祭を巡ることになった」
「仲が良いのね」
楢って基本表情に変化がないから――というかほとんど無表情だから――何を考えているんかわからないんだよなあ。だから、友人の加賀屋蓮は彼女のことが苦手だそうだ。
「じゃあ、わたしは体育館のほうにでも行こうかしらね。先輩のクラスが朝一で劇をやるのよ。他のクラスには絶対に負けられないって張り切っていたから、見てあげないとね。あ、よかったら映研の映画も見ていって。わたしと先輩で脚本を担当したのよ」
じゃあ、またね、と言って、楢は踵を返して去っていった。
「うわ。似合わね」
「うるせーよ。否定はせんがな」
長めのスカートを履いた加賀屋が顔を歪めた。
八組の教室。店名は――『扮装甘味処』。頭についた二文字の意味はこのクラスの様子を見ればわかる。店員は何かしらのキャラクターに扮装して、商品を売るらしい。ただし、男女逆で。男性キャラクターは女が、女性キャラクターは男がという具合だ。古今東西のコスプレが入り乱れて、もう扮装というより紛争のほうが正しいかもしれない。
巨体の持ち主、加賀屋蓮は青のスカートに白のエプロンをつけ、長い金髪の頭にカチューシャを乗せている。
「あれか、『不思議の国のアリス』のアリスか。カツラまでかぶっちゃって」
「一体どんな罰ゲームだよって言いたいよな」
しかし、どうやらそのギャップがおかしいようで、写真を一緒に撮ってくれますかと頼んでくる人が後を絶えないらしい。ほら、そんなことを言っているうちに、加賀屋は女子グループに無理矢理連れて行かれてしまった。
僕は隣で真鈴と喋っているタキシードを身にまとった女子生徒に目をやる。
「ふむ。井口は似合ってるな」
言うと、井口は真鈴との会話を中断して、つり目をこちらに向けてきた。
「うるせーよ。否定はしないけど」
いや、否定はしろよ。
真鈴が井口の全身を舐めるように見る。
「うん。でも、ホントにいいと思うよ。可愛い可愛い」
「本当? ありがとー」
前からそうだけど、僕と真鈴では対応が違いすぎる。客は平等だろうに。
「菫咲、茶化しに来たついでに、アイスでももらおうかな」
「逆だろ」
文句を言いながらも、アイスを二本持ってきた。僕と真鈴の分だ。あらかじめ買っておいた金券と交換にそれを受け取る。
「じゃあ、そこのテーブル空いてるから、適当に腰掛けておいて。これからどこ巡るとか考えればいい」
「ありがとうね」
井口に促され、僕たちは席に座った。座り心地はあまり良いとは言えない。それもそのはず、椅子は教室で普段使われているそれなのだから。テーブルも白いテーブルクロスさえかけているけれど、その下は普通の机を組み合わせたものだ。
ソーダのアイスを舐めながら、真鈴と『月ノ輪祭のしおり』とスタンプラリーの台紙を眺める。台紙のほうはあえてヒントを読もうとはしなかったけれど、ヒントの三つ目が目に入ってしまった。他のヒントは数行あるのに、それだけは『図書室の前』のみである。
「でも、本当によかったね。一時はどうなるかと思ったもん」
真鈴は教室を見渡しながらそう言った。
「どういう意味だよ」
「脅迫状。一昨日に解決したっていう。もし解決してなかったら、今こうして皆が笑っていることもなかったんだなってふと思ったの」
「そうだな」
「それはともかく、さて、どこに行く? 図書室の前には寄ってこうね。スタンプ稼げるし。ハルは行きたいところとかある?」
「いいや。加賀屋の滑稽な姿を見られたから早くも満足してる」
「そうなの? じゃあ勝手に決めていいかな。……映研はちょっと行ってみたいの。自主制作映画がどれほどの出来なのか気になるし」
「楢も言っていたしな」
「そうだね。でもこのしおりによると、映画の公開時間はまだらしいし、それまでどこかに行けるね。どこ行こうか。よりどりみどりだねえ」
無邪気な笑みを浮かべてしおりの地図を眺める真鈴を見てなぜかちょっと楽しい気持ちになる自分がいた。なぜだろうか。
そんなことを思っていたら、不意に真鈴が顔を上げた。
「ところで椿ちゃん、月ノ輪祭二日とも来るって言ってたよね。もう来てるのかな」
「ああ……」
僕の妹のことである。花川椿。僕よりも馬鹿だけど、僕より賢い妹。溢れ出るエネルギーの量では真鈴に負けず劣らずで、僕も度々疲労や苦労してる。そのエネルギーを消費するために彼女は祭りと聞けば飛んでくるのだ。
「多分、もう来てるんじゃないか。僕が学校に向かう頃には支度していたし」
「楽しみだね」
「真鈴は数年ぶりなんじゃないか。椿に会うの」
「ううん、違う。夏休み中に図書館で会ったんだよ。偶然」
あいつ、そんなこと一言も言わなかったのに。まあ、僕に報告する義務などはないだろうけど。
「そうそう、椿ちゃんって、堺さんのこと知っているのかな?」
「どうして」
「図書館の休憩室で色々お喋りしていたんだけど、椿ちゃんが『堺麻子』って口走ったんだよ。そのときはそういえば堺さんの名前出したからかなって思ったんだけど、わたし、フルネームは言ってないんだよね。いくら椿ちゃんが慧眼の持ち主だって言っても、堺さんの下の名前まではわからないと思ったから」
「ふむ。まあ、暇があれば聞いておいてやるよ」
そのときだった。ガガっとスピーカーからノイズが漏れた。僕や真鈴を含めた教室の何人かの目がスピーカーに向かう。それから間を置かずにピアノの音楽が流れてきた。十秒程度してそれが止まると、今度は元気な女の声が飛び出してきた。
『こんにちは、みなさん! 文化祭楽しんでますか! 放送部より、定期放送です! 第一回はわたくし、二年四組、八瀬辺楓がお送りいたします!
今年度も我々放送部は文化祭の出し物の紹介を任されちゃいました。その他にも文化祭の様子やらなんやら報告しようかと考えております! 放送部員が代わる代わるの全六回でお送りしますので、聞いてくださると幸いです!』
「可愛くて聞き取りやすい声だね」
真鈴が言った。
その可愛い声は少しだけ間を置いた。紙ががさがさとすれるような音が聞こえてきた。察するに台本を取り出したのだろう。
『えーっとですね、まずお伝えしておきたいのは、生徒会お手製スタンプラリーについてです』
「あ、それだな」
僕はテーブルの上の台紙を一瞥する。
『校内を巡ってスタンプを集めることによって、景品と交換できるようになっているそうです。ただ、ちょっと難解な部分がありまして。スタンプが置いてある場所は自分で解き明かすようになっています。ヒントが記されているんですって。何でも生徒会全員――えっと、わたしの記憶が正しければ五人ですかね――が頑張って知恵を出し合ったそうです。四月あたりから五ヶ月もかけて考えたらしいですから、飛びっきり難しいものになっていると思います。生徒会長さん曰く手抜き無しだそうです。まあでも、校内のどこかであるのは間違いないそうですから、しおりの地図と見比べて探してくださいね。スタンプラリーの台紙は二階生徒会室でもらえますよ!』
本当に真鈴の力で解けるのかが不安になってくるな。ちらりと真鈴を見ると、さらに意欲をみなぎらせているようだった。
『次行きましょう。文化祭の出し物紹介です。最初に紹介するのは……三年二組、《ピーターパン》です。三年生のクラスは全て劇なんですが、そのうちのひとつですね。十時五十分より体育館にて始まるそうです。謳い文句は《あなたをネバーランドへご招待します》。いいですねえ。わたしも一度は行ってみたいものです、ネバーランド。確かネバーランドって子どもしか行けないんですよね。わたしってまだセーフなんでしょうか? どうでもいいですね、すみません。
さて、そんなネバーランド。大人のあなたも、ネバーランドへ行ったことがないという子どもたちも、どうぞ、この劇を見に行ってください。きっとネバーランドへ行ったときと同じような気持ちを味わえることでしょう。三年二組の力作をご覧下さいね。
さて、音楽でも流して一旦お別れにしましょうか。……あ、その前にひとつだけ。定期放送は尺が有り余っているので、何かネタがあるという方や、ゲストで出てみたいという方はどうぞ放送部員の誰かにお伝えください。もしかするとここで紹介させていただくかもしれません。
――では今度こそ音楽を流してお別れです。曲はネバーランドにちなんで、ずばりそのまま……』
音楽が流れ始めたところで、視線を下げて真鈴を見る。すると目が合った。何かひらめいたような顔をしている。
「……じゃあ、ハル」
真鈴が次に何を言おうとしているのかは予想がついた。
「じゃあ、次はネバーランドへ行こうよ」
続きます。




