一.問題?
ブログ『ユースフル』。その主の身近に起きた、不思議な出来事とは?
秘密は、隠し通さないといけない。
自分の詳しいプロフィールを隠す意思があるのなら、決してバレないようにしないといけない。
でも、どうやら彼女はそんな意思などないらしい。それともただ抜けているだけか。
今、パソコンの画面に表示されているのは、とあるブログ。タイトルを『ユースフル』という。それには女性であろう管理者の日々が綴られていた。オプチミストとしか言い様がない調子で日々更新される。これが、読めば読むほど、先輩にそっくりなのだ。そしてこの日の記事を読み、自信は確信に変わった。
これは、彼女のブログで間違いない。
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二月二十八日
タイトル:仙人様?
いつもどうも! ハイムです! 今日の報告をしたいと思いますよ! 今日は久しぶりに変わったことがありました!
時計を見たら一時前だったから、昼休みだったね。いつもどおり代わり映えのしない普通教室で、花の学生らしい話題でべらべらと談笑していたの。一人でじゃないよ。もちろん友人とね。
その時突然! 日を遮るために閉められたカーテンを人影が右端から左端まで、バッと通ったの! 結構素早くて、顔を向けたときにはすでにいなくなっていた。
これを読んでくれているわたしの友人の中には、わたしと同じ中学校に通っている子もいるだろうし、知っていると思うけれど、わたしの教室は二階。カーテンを閉めた窓はもちろんのこと、二階分の高さ。窓から外を覗けば一階よりも眺めの良い景色、学校のすぐ前の道路を挟んで校舎と同じくらいの背を持つ場違いな廃址(廃ビルというほど高くない)や、住宅街らしくそれぞれの色の屋根をかぶった民家、遠くに蛇行している河川が見えるわ。
そ、それなら、ちょっと待ってって思うでしょ? どうして人影が見えたのかなんて。断っておくけど、わたし、霊感に関してはこれっぽっちだから、幽霊なんて見えないよ。ここまで言っておいて、ベランダを歩いていたというオチでもない(そもそもそんなものなんてないし、足掛けもない)し、カーテンに誰かが潜り込んでいて走り抜けたということでもない(大体、上半身だけで下半身は窓の下方で切れていたしね)。
それなら、なんだったんだろう? 目の端に写っただけだけど、あれは確かに人影だった。これは間違いない。
もしかしたら、仙人様が宙を駆け抜けたのかもしれない。
――でもまあ、ただ一つ、普通とは違う部分があるとしたら……少しサイズが大きかったってところかな。それでも規格外というわけではないよ。あくまで、普通の人よりも一回りか二回り大きいぐらい。
ここまで不思議感を煽ってみたけれど(意図的に)、実はわたし、真実を知っていたりします!
でもそれは秘密! また明日言おうかな。それまでせいぜい考えておきなさい!
……話は変わるけれど、ここで一つ豆知識を。今日知ったやつ。
学校の教室の向きって決められているらしいね。もちろん例外もあるらしいけれど、基本は日光を教室の左側から取り入れることができるようにできてるらしい。
なんでも右側から日光が差し込むと、人口の九割を占める右利き様が何か書き取りやらするときに、自らの右手に影ができるからーとか。小・中学校を振り返ってみると、確かに左側の窓がよく南を向いていたような気がするもん。なるほどって思ったよ。
何でこんなことをわざわざここに書こうと思ったかは、それはわたしがマイノリティーだからに他ならない。つまり、わたし左利き。
結構勝手だと思うけれど、やっぱりあれだね。多数派とはいえ、右利きばっかり優遇されるのが気に食わなかったりするよ。うん。
数学のテストとか、自分の左手に隠れて問題文が見えないもん。いちいち手を浮かしたりして。これがほんの少しだけ時間を喰う。……塵が積もれば山になる。山も連なれば山脈になる。よってマイシンキングタイムは皆より少ないのだ! だからわたしの数学の点数は極端に低いのだ(馬鹿)!
……なんて。
じゃあ、今日はこのへんで! 考えといてよ、『仙人様の謎』! 何ならわかった人、コメント欄で答えてもいいよ!
――アスタマニャーナ! ハイムでした!
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とまあ、こんな感じでこの日は締められていた。今までの記事も読んでみたけど、本人をそのまま写したような、ユニークなブログである。でもなんか、こういうのを読んでいると、その人の心の中まで覗いているようで居心地が悪くなってくる。ブログを書いている以上、見られるのを承知でやっているんだろうけれど。
ちなみにこの『仙人様の謎』とやらは今日、ウチの学校でも聞いた。だから真相も知っている。こんな馬鹿馬鹿しいことが一日のうちに二箇所の中学校で起こるとは思えないので、ウチの学校で間違いないはず。それに、騒いでいたのは先輩だけ。しょうもないこのお話が割合に不思議そうに見えるのは彼女も言っていたとおり意図的に煽っていたのと、文字からしか情報が入ってこないから。
つまり、実際に見れば、わからない人はいないに違いないということ。でもまあ、お話のネタになるし、彼女もそれが目的なのだろう。
何度となく思ったことだけど、実に個人が特定しやすいブログである。他の記事も見ると、個人名なんかも紛れたりする。先輩の名前はハイムでないにしても(その変わった名前の由来はなんとなくわかる。彼女の苗字と日本神話と言葉遊びから来ているのだろう)。
もう最近の記事とコメントは全て見たし、このへんで失敬しようかな。
――でもただ、何も残さずに帰るのは盗み見をしているようで好きじゃない。コメントの一つも残そうか。ただし、この真相を話してしまうわけじゃない。考えている人もいるだろうし、いくら自分でもそんなことはしない。
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コメント:ひさしぶりですね。ツバキです。中々面白いお話ですね! 自分も回らない頭を使ってこの答えでも考えてみようかしら。ヒントでもくれたら嬉しいな。時間もあれば解答目当てに明日覗きます。では、さようなら。
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今一度、文章を見直してから、『確認』をクリックした。
続きます。




