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ユースフル!  作者: 幕滝
働いたのはなに?
23/67

二.『今、坂月駅に来たが、今週もなさそうだった。再度言うが、平等に権利はあります。三度目は御免です』

前回の続きです。タイトルも長ければ内容も長いです。延々と会話が続きます。

 休憩所近くの売店『ニッキィ』。陳列棚には菓子パンやらお菓子がずらりと並び、冷凍のショーケースには色とりどりのアイスクリーム、氷菓が冷えている。ここの商品は割と安いので、ついつい財布の紐が緩んでしまう。冷房の効いた屋内にいるけれど、夏真っ盛りだし、気分は冷たい物だった。わたしは迷い箸のように指を冷えたショーケースの中で惑わせる。結局、悩んだ末にカップアイスを選んだ。アイスをレジまで持っていき、財布から百円を取り出して店員に渡した。

「ありがとうございました」

 店員が不愛想なのは気にしない。わたしはアイスが入った袋を提げながら休憩所まで歩いた。休憩所にいくつかある長テーブルに袋を置き、わたしは並んだ椅子に腰を下ろす。さてさて、とカップアイスのふたを開け、紙のスプーンを手に取り、アイスの表面を少しだけすくう。そのまま口に入れた。――冷たい。至福の時である。

「――あやめさん、久しぶりですね」

 二度目のスプーンを口に運ぼうとしたとき、そう後ろから声がした。手が止まる。わたしの名前を呼んでいるのだから、わたしに声をかけたのだろう。だけど、その声にイマイチ心当たりがなかった。一体誰なのかと振り向くと――そこにいたのは、肩にカバンをひっかけた黒髪ロングの少女。

 一瞬、堺さんかと思ったけれど、外見が全然違う。デニムシャツ、それに膝あたりまでのスカート……いや、キュロットスカートか。眼鏡もかけていないし、前髪は目の上で一直線に揃えられている。身長も堺さんより低いし、垂れ目や雰囲気などから優しいイメージを抱く。でも最も目をひくのは、頭につけた髪飾り。白い花だ。何の花かはわからないけれど、これには見覚えがあった。堺さんとも負けず劣らず整った顔も、そういえばどこかの誰かに似ている。――そこまでくるとすぐに思い出した。

「うん、久しぶり。椿ちゃん」

 花川椿。クラスメイトである『ハル』こと花川春樹の妹。わたしより一歳下の中学三年生だったはず。会うのはいつ以来だろうか。おそらく小学校時代に会ったきりだったろうから、四年ぶりくらい。それなら声を聞いても見当がつかないはずである。

 実は、椿ちゃんがまだわたしを覚えていてくれたことを密かに嬉しく思ったりする。

「どうしてここに?」

 椿ちゃんはニコリと笑う。彼女らしい温かい笑みだ。

「図書館に来たんです。けれど、あやめさんが見えたんで。時間もあるし、せっかくなら声をかけようと思いまして」

「そうなんだ」

 椿ちゃんは肩にかけたカバンをテーブルの上に置き、そのまま、わたしの隣に座った。

「今年、受験生でしょ? どこの高校に行くか決めたの?」

「はい。少し遠いけど、水田高校に行くことしようかと。……でも、もしかしたら、春樹やあやめさんと同じ坂月高校の可能性もありますけど」

 椿ちゃん、ハルのこと呼び捨てにしてるんだね……。

「確かに水田高校は遠すぎるよね。自転車で行けるの? どのくらい? 九キロくらい?」

「……随分具体的な数字ですね……。交通手段は電車です」

 水田高校は距離があるけど、逆にわたしや堺さん、椿ちゃんの兄であるハルが通う坂月高校はここから近い。でもまあ、高校によって特色は様々だし、それを選ぶ基準も人それぞれである。

 わたしは会話の合間にアイスを乗せたスプーンを口に運ぶ。

「水田高校か……。偏差値どのくらいだっけ?」

 椿ちゃんが大体の数字を答えた。

「へえ。坂月高校よりはやっぱり上かあ。……ま、頭良いもんね。あなたなら余裕でしょ」

「いえいえ。そんなことないですよ」

 彼女は頭に右手をやって照れていた。こういうところは分かりやすい。ハルもこれぐらい可愛げがあればいいのに。

 反応が面白いのでもっと褒めてやろう。

「椿ちゃん、ハルと同じように、こう、なんて言うか、探偵力? ヒラメキというのかな――そういうの、すごいもんね」

 そう言われ、突然、椿ちゃんはスイッチが切り替わったように笑みが消える。当てが外れてしまった。

 椿ちゃんは言う。

「わたし、頭を使うことは好きなんですけど、探偵というのはあまり好きじゃないんです。探偵ってなんか、感情よりも理屈ばかりをこねている人種だから。そういうのは、人っぽくないと思うんです。そういうところが春樹と違うんですかね」

 椿ちゃんがそんなことを言うなんて意外だと思った。

 彼女は続ける。

「大体、同理にかなっていると思われる理屈っぽい屁理屈なんていくらでも作れるんです。それらしいのをいくらでも重ねて真実を捏造することなんて簡単です。イージーです」

 椿ちゃんは挑戦的な表情でいる。

「そこまで言うのなら、それを証明して欲しいけれど――」

 わたしは周りを見渡すけれど、

「でもあいにく、そんな都合よく実験材料なんてないしね」

「まあ、そうですね」

 話が切れたところで、わたしはカップの淵で溶けかけたアイスをスプーンですくう。それを口のほうへ……。

「欲しいの?」

 椿ちゃんがずっとスプーンの動きを目で追っていたのに気づいたのだ。

 彼女は反射のように体を勢いよく反らして、手を胸の前で振って、否定した。

「いえいえ! 別にそんなつもりじゃ、なかったんですけど……」

 語尾のほうになると、だんだんと勢いが無くなって、そしてゆっくりと上目遣いになり、

「でも欲しくないのか、と言われれば決してそうじゃないけど」

 優柔不断。

「いるの?」

「――でもやっぱり、体重に多大な影響が出るのは……」

 つまりダイエット中らしい。

「一瞬の甘美か、一生の後悔か」

「大げさだね」

「……よし決めた、我慢します!」

 案外、あっさりした決断だったように見えたけれど、彼女にとっては苦渋の思いだったのかもしれない。椿ちゃんの意思は強固である。

 この話を続けるのは可哀想だし、わたしは話を変えることにする。今、思いついたように――本当は会ったときすぐに思いついた――あ、そうそう、と言ってわたしはポケットからケータイを取り出す。

「せっかくだし、メルアド教えてよ」

「もちろん、いいですよ」

 わたしはケータイを開く。そして、画面に表示されているものに気づいた。

 留守電メッセージが一件。図書館の中ではマナーモードにしておかなくてはならないので、着信に気づかなかった。こんな休日にメッセージを残す用があるのなんて、どこぞの誰だろうと見てみると、非通知だった。さて本当に誰だろうか。知り合いか。どこかの企業だろうか。それとも悪戯電話だろうか。いやいや知り合いの企業の悪戯電話だろうか。

「ちょっと待ってね」

 椿ちゃんには悪いけど、先に留守電を聞くことにした。後で確認するのも面倒くさいし。ケータイを耳に当てる。聞こえてきたのは、知らない男の低い声だった。少し怒っているようで早口なため聞き取りにくい。駅からかけたらしく、電車の到着を知らすアナウンスや人の声が聞こえる。十数秒程度の短いメッセージだ。

『今、坂月駅に来たが、今週もなさそうだった。再度言うが…………、平等に権利はあります。三度目は御免です』

 そしてぶつっとメッセージが途切れた。これだけ? あまりにも意味がわからない留守電に、わたしは首を傾げる。なにこれ。

「どうしたんですか」

 そんなわたしに椿ちゃんが訊いてきた。

「知らない人からのメッセージだったんだけどね。どうしようかな、これ」

「消せばいいじゃないですか」

 わたしが覚えていないだけで、本当に知り合いなのかもしれない。やっぱりそれでも内容に心当たりがない。

 ――と、ここでひらめいた。

「椿ちゃん、これについて、いかにして嘘としか思えない真実を捏造できるか、やってみてよ」

 さっきの『理屈・屁理屈が云々』のことである。幸運なことに、実験材料が自らやってきたのだ。

 椿ちゃんにも意味が伝わったようで、ニコリとして手を差し出してきた。

「もちろん、受けて立ちますよ。……あ、それと、アイス溶けてます」

「あ、ホント」

 先にアイスを平らげようか。


 休憩所にわたしと椿ちゃん以外には孫を連れているらしいおじいさん達しかいなかった。静かだ。

「…………」

 椿ちゃんはメッセージを聞き終えたあと、ケータイを耳から離してわたしに渡した。

「わたしはこの人が大人だと思いますよ」

 確かに、わたしたちと変わらない年齢ということもありえるのか。

「だって、声が大人っぽいからです」

「……」

 彼女に探偵としての能力が本当にあったのかと自分の記憶を疑うわたしだった。

「冗談はさておき、始めましょう」

 冗談だったの?

「坂月駅ですが……知ってますよね」

 わたしは頷いた。

「もちろん。一番よく利用する駅だしね」

 坂月駅というのはここから最も近い鉄道会社の駅。規模はどちらかというと小さい。しかしながら古くからある駅だ。休日ならまだしも、平日なら学生が通学に利用することが多い。

「では、その次に内容の確認を……。一言で表すと『催促の電話』ですか。坂月駅で何かをもらう約束をしていたこの人はそれをすっぽかされてしまった。二度も。――というような感じですね」

「異論はないよ」

 椿ちゃんは小首を傾げた。

「しかし、わかりづらいですね。この人、とかいちいちいうの。何かに言い直しましょうか」

「うん。何でもいいよ」

「何でもいいのなら……」

 彼女は少し考えて、

「それじゃあ、間違い電話をしてきた人を《アリウム》、かけられる予定だった人を《水仙》にしましょう」

 聞きなれない言葉だけど、なんのことはない。花の名前である。しかし花の名前を当ててくるとは思わなかった。《A》とか《B》でいいんじゃないだろうか。

「花が好きなんだね……」

 椿ちゃんは屈託ない笑顔で言う。

「はいっ。わたしの名前自体も花の名ですし。花の髪飾りは外に行く時はほぼ毎回つけてます。それほど好きです」

 彼女のことがほんの少しだけ、わかってきたような気がする。

「では《アリウム》と《水仙》で話を進めますね」

 椿ちゃんは笑顔のまま続ける。いや、笑みを含んでいる表情は変わらないけど、確かに笑顔の種類が変わった。純粋な子どもみたいな笑顔が、ボードゲームに興じる大人みたいな薄い笑みに変わったのだ。

「この人はケータイからかけていますね」

「ん? どうして。坂月駅のすぐ近くに電話ボックスあるよ。ドクターフーが乗ってそうな」

「ドクター……?」

「いや、なんでもない。続けて」

 よく考えたらフォルムが全然違うし。坂月駅にあるのは普通のガラスに四方を囲まれた電話ボックスだ。タイムスリップには向いてない。

「話を戻します。電話ボックスからかけるのに、わざわざ非通知にする必要なんてありませんから」

 そして思い出したように付け足した。

「喫茶店とかにあるピンク電話機は非通知としてかかってくると友達に聞いたことがあるけど、駅のアナウンスが漏れてましたし、構内からの電話だと思います」

 なるほど。

「さすが椿ちゃん」

「まだまだ始まったばかりです」

 笑みを浮かべる彼女。

 椿ちゃんの兄であるハルは隠しているようだけど、もしくは自覚していないようだけど、推理することを楽しんでいる。そして今の椿ちゃんも、本人は自覚しているようだが、顔にさっきよりも楽しげな表情が浮かんでいるのが容易に見て取れた。

 さて、ハルとどちらが頭が良いのか、お手並み拝見といきましょうか。

「では次行きますよ」

 言いながら、椿ちゃんはわたしを見て人差し指を立ててみせた。なぜだろう、誰かがこうするのをどこかで見たことがあるような気がする。

「まずわかるのは、かけてきた《アリウム》よりこれをかけられる予定だった《水仙》のほうが立場が高いということですね」

「敬語だから?」

 椿ちゃんが頷く。

 しかしわたしは敬語という言葉を口にしたときに反例を一人、思い出したのだ。わたしは反駁してみる。

「でもね、椿ちゃん。わたしの友達に、堺さんという人がいるけれど、彼女、わたしと同じ年齢なのに、常に丁寧語だよ? この人もそうだという可能性があるんじゃないの?」

「そういう特別な例が確かにないとは言わないけど、この場合はおそらく違うと思います。無理に丁寧語を使おうとしている節があります。一文目とか、敬語のかけらもありませんし」

 ごもっともだ。『再度言うが…………、平等に権利はあります』の部分が、とっさに敬語に治そうとしたのだということが読み取れる。

「ああ、そうだね。椿ちゃんもどことなく普段は丁寧語を使い慣れていないんだなあって思うもん」

「え」

 椿ちゃんは口を抑えた。

「わたし、丁寧語、下手ですか」

「下手というほどじゃあないけれど。まあ、誰にも得意不得意はあるよ」

 滅多に感じない優越感に少しだけ浸るわたしだった。

 次に行きましょう……、と椿ちゃんが呟くように言う。少し沈んでしまったらしい。

「この電話は非通知でかかってきたものです」

「うん。そうだね」

 だから相手アリウムの電話番号はわからない。しかしそれだけで椿ちゃんの説明は終わらないだろう。それで、とわたしは先を促した。

「《アリウム》は《水仙》が非通知であっても応じることがわかっています」

 それはそうだ。そうしないと、相手が電話に出てくれなくなる。もしかすると留守番メッセージをも確かめずに消去するかもしれない。これぐらいのことはわたしでもわかる。だけど椿ちゃんの言葉にはまだ続きがあった。

「そして名前も名乗らなずに本題に入ったことも踏まえると、この二人は最近会った者同士か、会話した者同士。この人は名前を名乗らなくても相手がわかることを前提にメッセージを残しています」

「それじゃあ、二人は直に会ったことがあるんだね」

「覆面をしていた場合もありますが」

 椿ちゃんがおかしなことを言う。

「……しかし。『最近』がいつなのかがわかりませんね。文中の『今週も』の部分です。この言葉から察するに、この人は先週もこの駅に行き、何かを確認した。ということは、前回に会った日から七日前後以上会っていないのかもしれません」

「でもそれじゃあ、さっきの名乗らなかったことに関する考察はどうなるの? 取り消し?」

 わたしの質問に椿ちゃんは頭をふった。

「いえ、取り消しにしません。『今週も』という言葉を入れて矛盾のない推理をするのなら、二つ、考えがあります」

 そうして人差し指を立てた。

「一つ、この二人がすごく親しいこと。ずっと出会ってなくても、お互いに誰かがわかるぐらいの仲かもしれません。幼馴染とか、旧友ですね」

 ああ、なるほど。

「ですけど、この考えはちょっとなさそうですね。これが間違い電話だったからです」

「うんうん」

 相槌を打つ。

「間違い電話だったということは、これをかけた人は番号をいちいち押して電話をかけたことになります。親しい仲なら登録ぐらいするでしょう。まさか《アリウム》が電話帳登録の仕方もわからない・面倒くさいという漫画みたいな機械音痴なんてことはないでしょうし」

 続いて中指が伸びる。

「二つ目の考え。親しくはないけれど、二人の間に忘れることができないような約束などがある場合。忘れることができないんですから、割と大事なことです。要するにこの催促についてですね」

 椿ちゃんは立てた指を元のこぶしに戻して手を下げた。

「ではこの約束とはなんなのか……」

 彼女は少し間を置いた。考えているらしい。

「《水仙》に何かをもらおうとしている《アリウム》……。『平等に権利はあります』から、《アリウム》だけそれをもらうことができなかったんでしょう。思うに、《水仙》は《アリウム》に何かをしてもらって、その報酬という形で何かをもらう約束をした」

「ただで渡してもらったという考えは全くないの?」

「ないと思います。厚志で渡しているのなら、潔く《アリウム》は諦めるべきですから」

 椿ちゃんの能力を試しているのだけど、わたしも頭を使ってみる。

「それなのに、《アリウム》は諦めずに二度目の電話をかけた……いや、かからなかったんだけど……あっ」

 一つひらめいた。

「例えば、こんなのはどう? 『先輩の《水仙》が数人の後輩に言いました。おうお前ら、この屋上から隣の建物の屋上に飛び移れたら、俺の一万円くれてやるぜ――その賭けに乗った後輩達は皆、成功しました。約束通り先輩は後輩達に一万円を渡しましたが、何かが気に食わなかった後輩のうち一人アリウムはもらうことができませんでした。それに怒った彼は、《水仙》に連絡することにしたのです』」

「……そうですねぇ」

 椿ちゃんは細い腕を組んで考えているらしい。わたしはじっと椿先生の答えを待った。そして待つこと十数秒。やっと彼女は口を開いた。

「わたしは……いえ、あやめさんの考えが間違えているとは断言できませんけれど、ですが、なんというか……違うような気がするんです。くれないことも予想できる相手の言葉に乗ってしまう点とか、そんなことをいう関係なのに電番を登録していないこととか、です。――わたしは哀れなアリウムがほとんど知らない相手の誘いに乗ってしまったと思うんですよ」

 わたしは眉を寄せた。どういう意味かわからない。

「わかりやすく説明して頂戴」

「つまりですね、わたしは――《アリウム》が《水仙》の下で短期のバイトをしたと思うんです。一度目、約束をすっぽかされ、二度目も無視され、彼はさらに三度目も来ようとしている。絶対に貰わないといけない、貰って当然、というような意思を感じます。『自分はあなたの下で働いたのだから、報酬を受け取らなければならない』というような」

「ああ……。あ、ちょっと待ち。短期のバイトをしたというのはどういう意味?」

 一瞬納得しかけた。危うく訊き逃してしまうところだった。

「今もずっと働いているのならば、職場で手渡しでいいじゃないですか。坂月駅で渡す必要なんてありませんよね? 電話をかける必要もないし、電番を知る機会はあっても、登録をしようとは思わないかもしれません」

「ふうん。え、じゃあ」

 わたしのできない頭がやっと追いついてきた。

「この《アリウム》の状況って、働いたのにお金がもらえなかったってわけ?」

「給料の未払い……労働基準法違反ですね」

 わたしは思ったことを言った。

「しょぼ」

 彼女は首を振った。

「いえ。これだけじゃ終わらせませんよ。まだ続けます」

 意地なんだろうか。

「じゃあ、その前にさ、椿ちゃん」

 かなり喋った。喉も乾いたので、わたしは椿ちゃんに年上の優しさというのを見せてあげることにした。

 わたしは伸びをしながら、

「ジュースとかどう? おごるよ。さすがにこれだけだったら、太らないでしょ?」

「積羽舟を沈むという言葉がありますけれど――」

 椿ちゃんは『今回はお言葉に甘えさせてもらいます』と言って、苦笑いした。

 ――どれくらい甘いものを控えてきたのかは知らないけれど……じっと、我慢の子であった。

あと、もう少しだけ、続きます。無茶したと反省してます。

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