その85・古龍双剣
▼その85・古龍双剣
「!」
「おのれ、小賢しい!」
(※吹っ飛んだヘクトパスカル、すかさず立ち上がろうとするが、がくんと膝を突く)
「なに……」
「え?」
(※ゲホゲホと血を吐きながらなんとか立ち上がったAの横でナビが顔を青ざめさせる)
「まずいですよ、Aさん、あれは対ドラゴン用のミサイルです! 中身は【龍王の毒】を凝縮したものです!」
「へ?」
「特殊な毒藥につけ込んだ龍の脳から作る毒で、人間にはまるっきり無害ですが、ドラゴンにとっては命取りですよ! 接触、吸引、注入、どれでも30秒以内にその部位を切除しないと毒が全身に!」
「まずい! ヘクトパスカル!」
「わかっている!」
(※ヘクトパスカル自らの身体を稲妻を使って右脇から左の脇腹まで斜め半分に切断、切断面が炭化して煙が上がる)
「ぬう、身体に力が入らぬ……再生機能に異常がでておる……毒が防ぎきれなんだか……」
(※横倒しになるヘクトパスカル)
「わわわ!」
(※駆け寄ろうとしてAも、倒れる)
「ムチャしないで下さい、あなたも肋と右腕が折れてます!」
「今言わないでくださいよぅ……なんか痛みが急に凄いことになり始めたんですけれど……治癒のスクロールは在庫切れだし」
(※A、それでも立ち上がってヘクトパスカルを起こす)
「逃げよう、ヘクトパスカル、作戦失敗だ」
「我を置いていけ! ここは我が何としてでも破壊する!」
「ひとつ、秘密にしてることがあるんだ」
(※A、ニッコリ笑う)
「あのビルの一階にあるコンビニエンスストアのからあげクンはとっても美味しい、って言ってただろ? 実はまだ在庫があるんだ。一緒に食べよう! みんなには内緒で!」
「何を言ってるんだA! 頭でも壊れたのか?!」
「こ、こういうとき、格好イイセリフが言えればいいんだけど、僕、基本ヘタレなんで……とにかく、せっかく出来た友だちを見捨てて行けない、ってこと!」
「Aさん、まさかあなたスキル発動を狙ってるんですか?」
「こ、ここここの状況で発動して、勇者に勝てるスキルってあるんですか?」
「ないから心配してるんです! 今のあなたに発動するのは戦闘力30倍、反射速度20倍、被攻撃、攻撃補正35倍ですが、それでもカンストしてるあの勇者には勝てません!」」
「ああ、でしょうね……でも、やっぱり引けません。ヘクトパスカルは友だちだから」
「Aさん!」
「……魔王、部下に情けをかけるか」
「そんなところだよ、勇者様……僕はいい魔王だ」
(※A、青ざめ、震えながらも辛うじて洗脳勇者に向けて不敵な笑顔らしいモノを浮かべてみせる)
「ならば一撃で屠ってくれよう……必殺剣・破邪顕正!」
(※脇構えにした勇者の剣の刃が分解されるようにして光の剣になり、背後の壁を切り裂いて伸びる)
「喰らえ! 邪悪よ!」
(※閃光が走る)
「!」
(※激しい閃光と共に爆発するような衝撃波、吹っ飛ぶ洗脳勇者、亀裂が入る天井と床、崩れて量子アンカーの部屋まで丸見えになる)
(※地面に突き刺さる青白く全体が輝いている巨大な剣)
「え……?」
(※剣が青白く輝いたまま震える)
【聞こえるかA! 時間になっても来ないと言うことは何か苦戦しておるのであろう。妾の剣をそなたに貸す! 王家伝来の宝剣、粗末に扱うな、壊すときは戦って壊せ!】
「E王女様……」
(※意を決して剣の柄を掴むA。青白い輝きが全身を包む)
【よし剣を手にしたな。これより3分、お主の身体の傷は癒え、5倍の能力を全てにおいて得る、戦え! 戦って勝って参れ!】
「はい、王女殿下!」
(※意を決した半身のヘクトパスカル)
「友よ、我からも汝に餞別をやる!」
(※ヘクトパスカル目を閉じる)
「我龍としての形を放棄し、友のための剣とならん!」
(※ヘクトパスカルの姿形自体が変化して、片手半剣となってAの左手に納まる)
「へ、ヘクトパスカル……!」
「安心せよ友よ。以前とは違い自らの意志で剣と変じた。故にいつでも我の意志で元に戻れる、それにこのほうが人の姿であるよりも能力の再編成がはかどる。何しろ動く部分が何もないからな……ついでにお前のスキル徒やらの効力も少し分けて貰うぞ」
「ありがとう……」
「これなら、勝てるかも知れません」
「うん、そんな気がしてきた……っていうか、こういうの、昔アニメで見て憧れてたんですよ!」
「あー、ロードス島戦記OVAのクライマックスですね?」
「ええ! まあ、僕は戦士じゃなくて盗賊ですけれど!」
「あ、そうだ。ついでに、カーラのサークレットの位置が分かりました」
「え?」
「もう1分過ぎてます……それに今の武器と能力値なら出来ると思います」
「で、どうすればいいんです?」
(※瓦礫の中から立ち上がる洗脳勇者)
「鎧です、鎧自体が洗脳装置であの勇者を操っています、正確には認識を攪乱し、意識を半ば混濁させているんです……ただし、一撃で全部破壊しないと駄目です」
「やれる! っていうかやるしかないんだから、やる!」
「勝て、友よ!」
「うん!」
(※もうもうと立ちこめる炎と煙の中、2本の剣を持って仁王立ちになるA、目を閉じる)
(※剣を構えて走り出す洗脳勇者)
「!(※洗脳勇者の裂帛の気合い)」
(※目を見開くA)
(※衝撃波で、一瞬で散っていく煙)




