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その82・涙をのんでフェチを棄て


▼その82・涙をのんでフェチを棄て


(※とりあえず壁の配管の陰に隠れるA)


「あれは作り物です、作り物!」

「でもでもでも、芸術ですよ、芸術品です! だってアニメ版じゃなくて士郎正宗の原作版風なんですよ! それを破壊するなんて……」

「世界と自分のフェチと、どっちを秤にかけるんですか!」

「かかるとは思わなかったんですよぅ! かかちゃっうとは思わなかったんです!でももう僕の心の秤にふたつ乗っかってるんです!」

「あーもう、だれだろうこんなバカ選んだの!」

「ええ、バカなのは判ってますけど、女の人で、ドストライクひとなんですよ!」

「あーもう、考えてみれば転生勇者って業の塊だからしかたがないのかー!」

「どうしましょう!」

「撃つしかないでしょ! 今でしょ! 撃ちましょうよ、()っちゃいましょうよ!」

「いやでもあれは!」


(※Y埼課長・女性型、アサルトライフルの弾倉を取り替える)


「だから、撃ちましょうよ、撃ちましょうよ!」

「でも…女のひとの姿なんですよ!」

「あれは外見こそ攻○機動隊の少佐みたいに見えますけれども、中身は前世のあなたと同じでただのおっさんです! 40過ぎた中間管理職ですよ! 射ちしましょうよ殺っちゃいましょうよ!!」

「いや、そういうことを管理職の人が言うのはどうかなと思うんですけど…、大体あなたの天使みたいなもんでしょう? 言って良いの?」

「何馬鹿なこと言ってんですか、私はただの管理者です! 転生勇者とその世界の安全と平和をコントロールするのが商売です! これが殺人だったら決してお勧めしませんがね? あれ本体別にあるんですから! どっか安全な所で脳だけプカプカ浮いてるに決まってるんですから!」

「何をごちゃごちゃと!」


(※Y崎課長・女性型、位置移動しながらフルオートでぶっ放す)


「ぬわわわわ!」


(※慌てて逃げるA、別の配管パイプの陰に)


「くそ、転生型勇者は射撃武器に対してマイナス補正がかかるのがこまりますね、うん!」


(※走ろうとするY崎課長・女性型に銃弾、慌てて彼?も隠れる)


「ああ、やっぱり当てられない-」

「いいですか、あなたが今撃てないのは、高価なフィギュアを壊せない、っていう芸術を愛する感覚です! でもそれがあなたの今いる世界の厄災なんです! 勇者でしょう!」

「はい!」

「BさんやFさん、E王女とか犠牲にしてまで保存すべきものですか!」

「うーん……」

「悩まないで下さいよーっ!」

「判りました、涙をのんで破壊します……せえの!」


(※飛び出すA、Y崎課長・女性型。互いに一直線で発砲)


(※A、セマーリンを連射、Y崎課長・女性型SIG系のアサルトライフルにドラムマガジンを取り付けたモノを連射)


(※セマーリンの弾丸がY崎課長・女性型の背後の壁に着弾)


(※Y崎課長・女性型の銃弾が天井へと)


(※倒れるA)


(※笑うY崎課長・女性型)


「これだけ撃っても、肩と足に当たるだけですか、うん……勇者補正は……嫌い……です」

(※Y崎課長・女性型の胸部に二発の弾痕、倒れる寸前額にも開いている)


(※左肩を押さえて立ち上がるA、右の太腿にも被弾)


(※銃を持ち上げるY崎課長・女性型)

(※躊躇わず、その頭に銃弾をぶちこむA)


「これで、さよならです、課長さん」


(※半壊したY崎課長・女性型の頭部、まだ口がパクパク動く)


「充分に時間は稼ぎました、うん」

「?」

「全ての採決がおりました」

「どういう意味……」


(※ぱあんと弾けるY崎課長・女性型の頭部)


「機密保持のため遠隔操作でAIコアの部分を吹き飛ばしたんですな」

「まったく……どこまでもやる事にそつがないというか抜け目がないというか……」

「とにかく、ドアを開けましょう」

「はい」


(※A、壁のパネルをY崎課長・女性型が持っていたSIGのアサルトライフルで破壊、USBメモリスティックをPCを介して突き刺す)


(※開く扉)


「A!」

「このバカ! 大丈夫?」


(※BとFが駆け込んでくる)


「あ、いやあの……なんでいるの?」

「3分経ってないぞ」

「え?」

「敵の武器を使ってギリギリまで戦ってたの」

「なんでまた?」

「バカなの? ねえバカなの? あんたを置いて行けないからでしょ!」

「……ありがとう」

「ばーか!」

「やれやれ、お熱いねえ」

「…………それはともか……」


(※A、直感が働いてBとFを押し倒す)

(※閃光が走って、伏せる直前までAたちの頭部があった辺りを薙いでいく)

(※瓦礫が真っ二つになってズレて崩れ、それだけではなく周囲の壁が一斉に切断されて装甲部分がずれ落ちたり剥がれたり)

「な、何だいまの?」

「わからない、でも多分……魔法だと思う」

「正解です、Aさん」

(※ナビが背後を指差す)

(※崩れる瓦礫の向こうから、ふらりと誰かがやってくる)

「えーと、なんか凄い立派で、実用性よりも格好良さ優先の鎧姿で、派手な装飾をつけた、でもマジで危ない感じの光を刀身に宿らせてる系のロングソード持った人が来ますけれど……あれまさか……ナビさん」

「あー、はい、お察しの通り、あれはあなた同様、『勇者』ですね」

「うわあ……」

「3981通りの予想をしましたが、これは3982通りめのパターンですね……身体から放出されてる魔法の操作因子が、こちらの世界ともこれまでの魔王軍のものとも違います」

「というと?」

「こまかい説明を省きますと、分析結果は『別の異世界からの勇者で、むっちゃ強い』です」

「どれくらい?」

「えーとどの攻撃も、まともに当たると大抵、Aさんが死ぬレベル」

「しれっと言わないでくださいよ! っていうか予想しなかったんですかこの事態!」

「仕方がないじゃないですか、私のやってる事は予言じゃなくて演繹(えんえき)ですから、知り得ない情報から導き出せないんですよ! 不測の事態も有り得るって警告したでしょ?」

「あーもう!」

「大体、AさんがY崎課長の女体化の色香に迷うから決裁降りちゃったんでしょうが!」

「誰かを罵りたいけど、自分の顔しか思い浮かばなーいっ!」

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