その79:巻き戻しと裏話
▼その79:巻き戻しと裏話
(※数日前、キャーティアシップの中)
「……というわけで、何か欲しいの、ある?」
「兵器が駄目、文明変えちゃうようなのは全部駄目、となると……」
(中略)
「うん。それぐらい帰りの地図が貰えたんだから安い安い……というか、情報の共有は別に報酬の範疇に入らないから、別に何かオーダーある?」
「さっさと還って貰ったほうが一番の報酬という気もしますが……」
「ナビさん黙ってて、今考えてるから……そうだ。量子アンカーから本体まで、位置を辿ったり、本体を見つけられたりするような装置、出来る?」
「まー、うちの船のナビゲーションシステムをコピーしちゃえば出来るよ。ついでにおまけ機能もつけたげようか?」
「それなら、いくつかお願いがあるんだけど」
「ほいほい」
「あのさ、クローンって、作れる?」
「クローン?」
「そう、クローン」
「んーと、意識があるのは駄目」
「意識があるの?」
「まあ、独立した意識ね。つまりあなたが相談相手として、もしくはリアルなリアクションを求めて身代わりにクローンを作るのは駄目」
「じゃあ、意識をシンクロさせるロボットみたいなのならOK?」
「まー、それぐらいはね。誰かに痛みを肩代わりして貰うんじゃなくて、それだと自分にも痛みや衝撃は来るわよ?」
「そのほうがいいと思うんだ、少なくとも僕の場合は」
「?」
「でさ、それってちょっと僕以外にも作って欲しいんだけど……」
「ほー? 何? 乱交プレイの幅を広げるの?」
「……」
「どったの?」
「君らの僕たち地球人に対する考えって、なんかやっぱり差別入ってない?」
「ないないー、相互理解難しいデース」
「デース」「でーえっす」「でしゅー」
「なんかやっぱり腹立ってきた」
「まーまーまー、そー怒らないで。異文明同士の接触にはなかなか難しい壁があるんだからー」
「だからー」「だーらー」「たこらー♪」
「で、なんでそんなの必要なん?」
「実は敵……というか魔王軍というかパラレルワールドの日本株式会社(仮)というか、からの次の手をナビさんに予想して貰ったんですが」
「えーと、だいたいこの一週間以内に撃ってくるであろう手が3872通りから4921通りありまして」
「ふむ」
「うち三割が僕か、僕の知り合いを捕らえて人質、並びにその……洗脳ということになってるもんで」
「なるほど、となると分身にかけられた洗脳やらなにやらを無効化するフィルターも搭載が必要ねー」
(※キャーティアの少女、空中に指を走らせると立体映像のコンソールが出現、それを操作し始める)
「だから、僕と、その知り合い120人のクローンをお願いしたいんです」
「随分剛毅なこと言い出したわね」
「お願い出来ますか?」
「うーん……そーだ、君、武器持ってる?」
「はい……えっと」
(※A、ナイフを取り出す)
「OK。じゃそれをあたしに向けたまま『僕の言うことを聞け』って言って」
「えーと『僕の言うことを聞けー』」
「きゃー。凶悪な現地住民に脅されたので従うしかないですー(※キャーティア少女、天井に向けてわざとらしい声で)。はいOK。作ったげる」
「……」
「なに、その冷えた眼差し」
「いや、宇宙人でAppleOSだと思ってたけど、とんだ役人根性の宇宙人だなーって」
「あー、傷つくわーそれ、偏見だー!」
「偏見だー!」「ヘンケンダー!」「ヘンタイダー」
「でもまあ、これって詭弁でしょ?」
「いいじゃないの詭弁でも! っていうかうちの種族も色々面倒いのよ。規定とか色々あるから」
「……自己保身(※ボソっと)」
「悪い? あんまりごちゃごちゃいうなら作らないからね!」
「アーソレハ困ります困りますお客様」
「ごめんなさいごめんなさい」
「まーいいわ、キャーティアは寛容な種族なので許したげる」
「げるー」「るー」「るーるーるるるー♪」
「でも、一ヶ月以内に使用しなかったら自動分解するようにしておくからね……あと、どこに保管しておくの?」
「そこに関してはいい建物を持って来てるんで」
「?」
「とにかく、今すぐ僕とBとFさんのクローンを作らないと」
(※キャーティアたちが去った後。戻ったヘクトパスカルがE王女を連れてラジオ会館までやってくる)
(※E王女、マントとフードで姿を隠して入ってくる)
(※同じくマントとフードで顔を隠してる小柄な侍女、マスク状のアイテムを外すと中身はA、周囲を確認)
「いいですよ、王女様」
「いきなり姿を誤魔化して、こっそり戻ってくると言うだけでも驚いたのに、こんどはココへ案内とはの」
「安全な場所というとココしか思い浮かばないものですから」
「うむ……ほう……外もだが、中はもっと凄いな……この磨かれたように滑らかな混合土に明かりの煌々とした……いや。で、妾の身代わりとやらはどこじゃ?」
「えーと、ちょっと待って下さいね……髪の毛一本頂きます」
(※A、E王女の髪の毛を一本摘まむと、腕に巻いた時計状の装置を作動、中に入れる……あっという間に空間が歪んで王女そっくりな女性が現れる)
「おお、まさに妾とうり二つ……妾の髪が欲しいと聞いた時は呪詛でもかけるかと思ったが」
「でもこれ、こいつで操作しないといけないんです」
(※A、懐からワイヤレスイヤフォンのようなものを取り出す)
「これを耳に入れて押仕込むようにするのか?」
(※言われ通りにした王女、目元をバイザーが覆う)
(※それまで目を瞑っていたE王女のクローン、眼を開ける)
「ほう、なるほど……(※E王女クローン)」
「これは凄いな(※E王女本体)」
「……というわけで、これから、僕がいうような事態が起こると思うので、躊躇なくこれを使って下さい」
「うむ、一種の傀儡か。よかろう……で、終わらせるにはどうしたらよい?」
「もう一度耳の奥の機械を軽く押してください」
「ふむ……しかしこれなら大丈夫だの。お前等だけで行くと聞いた時は無謀に過ぎると思ったが」
「僕らはここから、それぞれのクローンを操ります」
「よかろう」
「でも、殺されたり傷つけられたりするとそれは直接自分に来ますから、そうなる前に離脱してください」
「ふむ……なるほどな」
「友よ、本当に危険ではないのだろうな?」
(※奥からヘクトパスカル、BとFが出てくる)
「だれじゃ、この奇妙な細っこいのは?」
「ヘクトパスカルさんです」
「なに? 龍が人の形を取るのか?」
「我は、特別優秀な古龍であるからな(※腰に手を当てて反り返る)」
「なるほど、これは失礼した……しかし感服したぞ、ヘクトパスカル殿」
「王女も、ここに来て冷静とは剛胆であるな。まあ、我が友と付き合っていれば慣れてくるか。先ほども我を見送ったはずのAとB、そしてFがコンテナの中にいるのを知った時はかなり驚いたが、すぐに慣れたしのぅ」
「…………でもない。だがAが側にいてくれるならどこでも妾は楽しい」
「…………(真っ赤)」
「何赤くなってんのよ、A!」
「いやあの、なんでもないです、なんでもないです……ていうか、クローンのほうは?」
「自動モードにしてあるわよ!」
(※B、E王女に向き合う。大人と子供の背丈差)
「王女様、このバカあんまり舞い上がらせないでくださいね!」
「怒るなB。正妻はそなたにやると言っておろう?」
「せ、正妻とかそういうのはその……」
(※F、苦笑しながら奥から出てくる)
「あーあ、もうまったく見てられねーなー……で、今、オレ、奴らに捕まったらしいや」
「え?」
「あんたの用心深さにちょっと笑ったけど、ホント、元部下だったオレも想像してなかったくらい、洒落にならない相手みたいだな、あのYザキ・カチョー」
「じゃあ、僕も僕のオートモードを終わらせないと……」
(※A、耳に装置をつけて作動)
「えーと、とりあえず布鍋でいいですかね?」
「あたしも戻る」
(※Bも同じく装置を作動)
「用意いいわね」
「今回、長い逗留になるかも、って思ってたから」
(2人そのまま会話をする)
「あーあ、あたし多分なんか光が明滅してる空間にいるみたい」
「おそらくそれは、洗脳魔法の一種だな、F」
「そうなんですか? ヘクトパスカル様」
「呼び捨てで良い、友の愛人であれば私に取っても友と同じ」
「あ、ありがとうございます」
「さて……ここからが大芝居じゃぞ、ふたりとも」
「大芝居か……一度、味方のはずの王宮関係者相手ではなく、敵を相手の大芝居を打ってみたかった」
(※呵々大笑するE王女)
(※今現在、ヒノモト22の地下施設の廊下を走るA、B、そしてF)
「まさかホントにこっちが想像した一番最悪のシナリオを打ってくるなんて」
「まあ、彼らは効率化に取り憑かれてる部分がありますからねえ」
「何ブツブツいってるんだA! ここは敵地だ、気合い入れろ!」
「Fさんの仰ることが正しいと思います、暫く無駄口は止めて私はナビゲーションに徹しますね」
「よろしくお願いします!」




