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その76・戦記は語る(前)


▼その76・戦記は語る(前)


※歴史小説「E王女の肖像」第3巻四章より抜粋。(注:歴史書「魔王軍討伐記録(全六巻)」、「ある兵士の日記」「宮廷魔導士の備忘録」「0001盗賊都市史」などに基づく歴史小説)

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「ある兵士の日記」「宮廷魔導士の備忘録」によると、勇者Aの裏切りにより、E王女とを失った魔王討伐軍のもとへ、空から魔王軍が現れたのは、勇者の身体が燃えつきる前だった。

 連続する不気味な羽音と共に、遙か暗い、空の彼方から、回転する羽を持った飛翔装置に乗って、魔王軍は軍勢へと殺到した。

 数千発を一斉に放てる特殊な銃や大砲が吼え、次々と討伐軍を襲う。

 咄嗟に魔法陣を展開した討伐軍の魔法使いたちはこれを良く防いだが、精神の力を源にし、偉大なるアカシックレコードに接続し続けることは体力の消耗を意味する。

「ある兵士の日記」の作者は名を伏せているが、「宮廷魔導士の備忘録」の記録と付き合わせると、この時、最も天幕から離れて最前線で防御を担当していたらしいから、この時の集中砲火を浴びたということになる。


「ある兵士の日記」の一部を抜粋する。


「あの時、炎が一斉に空で花開いたと思ったら、天幕目がけて最初は迸るように弾丸が集中して花開き、何秒か撃ち込んで、防御魔法が強固だと知ると今度は周辺の兵士たちをぐるりと時計回りに襲い始めた。

 俺達はまだ新兵で、いただいた長銃槍を抱きかかえてうずくまりたいのを堪えて、必死になって空に筒先を向けては撃っていた。

 兵士ひとり辺りに与えられた弾薬の数は84発、7発ずつクリップ式で装填するんだが、右から左へと弾帯ポーチ4つにに七発のクリップが三つ入る。あっという間に三つの弾帯ポーチがクリップだけになった(※作者注・当時はクリップを装填のたびに回収していた)

 軽くなっていくポーチ、騎士様たちは魔法が使えるからいいが、俺達には魔法使いはいない。

 部隊の魔法兵たちはまだ新米で、ろくに障壁を張り続けるのも難しい。

 それでも頑張ってくれてたよ。15分ぐらいは保たせてくれた。

 その間に輜重兵が回ってきて、お代わりの弾薬をくれたよ。でも「これきりだ」と言われて俺達は不安になった。

 だって姫様が死んだんだぜ? しかも勇者の裏切りで。

 俺達は怒りを勇者に向けたが勇者はあっさり死んじまった。

 頭を失った混乱が俺達の間にも広がり始めたところへ敵襲だ……でも悪いことばかりでもなかった。

 その時間で上の連中の何人かは頭が冷えていたんだ。

 冷静沈着に、陣形を建て直し、一度は天幕前に集まりすぎた騎士や魔導士たち、魔導士と呼ぶにはまだ若いかレベルの低い魔法使いたちを元の配置に戻して、指揮系統を復活させていた――――近衛騎士団の女隊長さんが指揮を執ってたよ。綺麗な人でね、E王女の横にいつもひっそりといるような感じだった人だが、その時はE王女様の魔剣を高々と掲げて号令していた。

 いやあ、E王女のご加護がそれだけであると判るぐらい魔剣も輝いていてよ、おれたちは少し落ち着きを取りもどしていた。しぶとさもな……だかそこへ天から爆裂弾が降ってきやがった。

 阿鼻叫喚って言葉があるが、その意味を俺は嫌って程味わったね」


 この頃、魔王軍が使用していた爆弾は一個につき、密集隊形にあるヒト、エルフまでならば100人、ドワーフ80人、オーガーでさえ10人、岩巨人(ロックジャイアント)でも一人を一撃で跡形もなく吹き飛ばすとされていた。


 それが一斉に落ちて来た。

 

 恐慌(パニック)になるのは当然と言える。

 だが、彼等は死ななかった。

 恐慌を(きた)した兵士が15人ほど、誤って持っていた槍銃の引き金を引いたり、あるいは振り回したりすることで大怪我をしたが、騎士団長の指示は的確だった。

 魔法陣が展開され、破滅の爆弾は全て兵士たちの頭の上数メートルで炸裂しまくったが、誰もその破壊力の犠牲にはならなかった。

 ただ、混乱は起こる。

 混乱は刃紋のように広がった……何しろ防戦一方で攻撃しようにも当時の槍銃は黒色火薬がメインであり、上空に向けて撃って20メートル進めばやっとだったし、距離を稼げる魔法は防御に専念せねばならず、魔法のかかった弓矢は防御の盾である魔法障壁を降ろさねば飛んでいかない…………このすぐ後に魔法障壁が改良されるが、少なくともこの当時はまだ、爆弾が防げるほどの魔法障壁を展開した状態で内側から同時に攻撃を仕掛けることは不可能だった。


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