その75・燃えつきても
▼その75・燃えつきても
(※残されたA、天井を見つめる……目から涙)
[おやおや、泣いているのですか、うん?]
「Y崎……」
[喋るのは無駄に体力を消耗します、有益に体力を消耗しましょう、うん。君が契約をした時点で、私は君の脳と直結する権利を得ています。いわば君は私の召喚獣ですね、うん。現地契約ですが、よくあることです。うん]
(※A、顔を歪めるが声も出せない)
[さあ、君に景気よく前払いをしてあげましょう、うん]
「どういう……意味……」
[気にしないことです、うん……さあ、ホルスターの内側に貼り付けたカード型魔法陣を取り出すのです、うん]
(※ギクシャクと、操られるようにしてA、ベッドの枕元の服の上、セマーリンのホルスターの裏に貼り付けられた魔法陣の描かれたカードに触れる)
「!」
(※カードが発光。空中で魔法陣が描かれる)
(※商事会社ヒノモト22株式会社、戦略作戦部コマンドルーム)
(※多数のモニターが並ぶ中、部屋の真ん中に魔法陣が描かれ、そこに立っているY崎課長)
「ではいきなさい、うん。彼にそれの投与を忘れないように」
(※闇の中、女が頷く)
「では出発です、うん」
(※女ふたりの影、空中に描かれた魔法陣……召喚陣の中に歩いていき、消える)
「さて、これで本来の予算と時間を40%も削減出来ますね、うん」
(※E王女陣幕)
(※Aの前に魔法陣、展開して女がふたり現れる)
「B……Fさん!」
(※ピッタリしたスキンスーツにプロテクター、ベルト弾倉の納まったボックス弾倉付きMK46を持ったBとF)。
(※声を上げた途端、激しく咳き込むA、ベッドの上に血が落ちる)
[ああ、彼女たちの肉体は完全に再生を完了しています、うん。ただ頭の中を少し弄らせて貰いました……君以上に従順な私の部下ですよ、うん。機械的な反応しか出来ないのが玉に瑕ですが、うん。……それにしてもA君、相当弱ってますね、うん。それでは任務の早期達成が難しいのでお薬をあげましょう、うん]
(※B、Aの首筋に無針注射器を押し当てる。圧搾空気の抜ける音と共に中の溶液が減っていく)
「なにを……うあ、があああああ!」
(※のたうち回るAの口を咄嗟に押さえるB、手足を拘束するB)
[細胞活性薬です。細胞分裂の速度を速めてあなたのダメージを快復します。これも異世界の神薬と呼ばれるもののコピーです……もっとも元になった薬の完全な再現が出来なかったんで、あなたの寿命を20年ほど削りますが、我が社と我が国100年の経営戦略の重要性には代えられないでしょう? うん]
(※Aの身体から煙、髪の毛が伸び、倒れる。身体中の細胞が再生しているので皮膚が脱皮するように何度も剥がれていく)
「どうした? A、何事じゃ?」
(※天幕を開いてE王女が顔を出す)
「!」
(※E王女、BとFを見つける)
「FとB! どうしてここにおる、それにその格好は……」
[いい感じですね、A君、E王女を撃ちなさい]
(※A、のたうつような、ギクシャクした、しかし信じられない素早い動きでセマーリンを抜く)
(※何かを言いかけるE王女、BとF、銃を構える)
「来ないでE!」
(※Aの左手、銃を持った右手を下げようとするが硬直)
(※Aの右手、セマーリンの照準にE王女の横顔、頭部に狙いがつけられる)
(※引き金を引く指)
(※轟く銃声)
「A……」
(※振り向こうとしたE王女の額に穴が開き、後頭部から脳漿が噴き出して天幕の布に飛び散り、かがり火にもかかってじゅっ、という音)
「!」
(※仰向けに倒れるE王女)
(※一瞬、凍り付く周囲の警護の騎士たち)
(※構わず前に出るBとF、MKを撃ちまくる)
(※咄嗟に魔法防御を張り巡らせる宮廷魔導士)
(※銃撃とそれを阻む魔法障壁)
「勇者殿裏切り! 勇者殿裏切り!」
「姫様が殺された!」
「仇を討て」
(※目に憎悪で光らせながら兵士と騎士が武器を構え、宮廷魔導士が魔法を展開する)
[ありがとうA君、君の役割はここまでです、うん]
(※硝煙をたなびかせるセマーリンを握ったまま呆然としているA)
[君との契約は完了しました。あとはご自由に。BさんとFさんとお幸せに暮らしなさい、うん]
(※魔法が解放される。騎士たちの持った魔剣の力、兵士たちの持った銃の引き金が引かれる)
[さようなら、A君]
(※最初にBの胴体が真っ二つになる、次いで頭が輪切りになり、Fが展開した魔法障壁を貫いて飛んできた魔法の弓矢がFを針山のように変え、さらに銃弾が彼女の身体中に炸裂する)
(※Aの手足が銃弾で吹き飛ばされ、魔法の刃で両断され、脇腹を抉られる)
(※呆然と目を見開いたままのAの首を踏み込んできた騎士たちの槍が貫き引き裂く)
(※空中に飛ぶAの首。それをさらに突きだされた何本もの槍の穂先が貫く)
「汚らわしい裏切り者の首を灼け!」
(※魔導士の炎の塊がその首を燃え上がらせる)
(※炎が天幕を明るく照らす)
(※首のなくなったAの胴体にも、槍が、剣が突き立てられる)
「姫様の仇を取ったぞ!」
(※泣きながら魔剣を握った拳を突き上げる女騎士)
「いったいどうして……」
(※呆然と燃え上がるAの首を見ながら呟く宮廷魔導士)
「なぜ、勇者が姫様を……」
(※商事会社ヒノモト22株式会社、戦略作戦部コマンドルーム)
「暗殺終了ですね、うん」
(※Y崎課長振り返るとO山とその部下たち)
「総攻撃を開始します、各部隊に通達。ただちに進軍を開始!」




