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その73・裏切り者の契約


▼その73・裏切り者の契約

「…………貴様ぁ!」

(※怒りの形相のA)

「おお、そんな顔も出来るんですね。うん…………ですが、彼女を見なさい、痙攣が始まってますよ? ショック症状です。まもなく死にますよ? 我々だけが彼女を治療できる」

「殺してやる!」

「すでに一度私が殺されるのは見たはず。それが不可能だと理解してますよね? さあどうします? ここで私の分身の一体を殺して彼女を見殺しにするか、彼女を救って裏切り者になるか」

「……くそ、くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそ!」

「どうします? E王女を暗殺しますか?」

「判った、やる! 王女を暗殺する!」

(※きゅい、とY崎課長の背広の上着から音)

「これで君は、契約をしました、うん」

「え?」

「…………君は小賢しいので、我々は口約束では安心出来ないんです、うん」

(※上着のチーフポケットからスマホを取り出すY崎課長、画面ないに魔法陣が回転していて『隷属契約完了』の文字)

「これは簡易の契約魔法陣です。君の行動はこれから完全に我々の呪的監視下に置かれます。これから先、『天の声』に相談することも、他の人間に打ち合わせをすることも出来ない。考えた瞬間、君の理性は飛び、周囲の人間を片っ端から殺しまくることになります……そうそう、これをお返ししますよ、うん。すぐに装着しなさい」

(※Y崎課長、目で合図すると草むらからAの作ったセマーリンがブレストホルスターと予備弾倉ごと飛んできて、目の前に落ちる)

「誰が……」

(※拒絶しようとするAの意志に反して、手が伸びてブレストホルスターを装着)

「え……」

「君はもう私の命令に逆らえません、うん。E王女の暗殺が完了するまで、それは解除されません」

「貴様……」

「我々は効率性を重んじます。君を真っ正面から叩きつぶしてもいいがそれでは経費が無駄になる、うん。君という存在を資産化し、とことん利用し尽くしてこそ、我々の利益に繋がる。無駄な時間は残されていないのです、うん」

「早くBを治せ!」

「いいでしょう」

(※片手をあげるY崎課長、茂みの中から複数の兵士が現れ、Bを金属ポッドの中に押し込める)

「待て!」

「大丈夫、我々のバイオポッドは優秀です。彼女とFさんは我々がお預かりします。裏切ればまあ……わかりますよね、うん」

「……クズ野郎」

「ほう、『天の声』に訊ねなくても言葉が使えるんですね?」

「……」

(※咄嗟に銃を抜こうとするAだが、腕が停まる)

「さて、『天の声』が復旧したときに君が無事だと色々勘ぐられそうですから、誤魔化さないといけませんね」

(※迷彩服の男たちゆっくりとAに近づき、次々に持っていた武器を振り下ろす。殴られるままのA。やがて一人がAの腕を持って伸ばす。もう一人がアサルトライフルの銃床を振り下ろす……骨の折れる音)

「~~~~~~~~~!(※絶叫)」

(※転げ回るA)

「レイプもしますか?」

「それは止めておきましょう、うん。性的被害までやると、本人のトラウマになって、それが呪術を解除しかねません。精神崩壊するのはE王女の暗殺を終えるまでだめです」

「判りました」

(※涙と涎とでぐちゃぐちゃになったAを見下ろすY崎課長)

「絶対にお前を殺してやる」

「それは無理というモノです、うん」

(※Y崎課長、頷くと部下がAの右脚を石の上に置く。Y崎課長Aの右の臑をブーツで思いっきり踏みつける。骨の折れる音、Aの絶叫)

「これで、連れ去られたBさんとFさんを追っていけない理由が出来ましたね」

(※手を挙げるY崎課長、部下たちそろって移動開始、Bを納めた金属カプセルごと空間を歪ませたところへ消えていく)

「では我々が消えたら『天の声』は戻ってきます、うん。生き伸びるためにしっかり相談しなさい。私たちのことは一切喋らないで、うん」

(※消え去る空間の歪み)

「……さん、Aさん! どうしたんですか!」

(※ナビ、現れる)

「…………やられました……待ち伏せです……BとFさんを……連れて行かれて僕は……僕は……」

「喋らないで下さい! ああ、酷い怪我だ……私がいれば……今、近くにヘクトパスカルさんが来てますから! 気をしっかりもって」

(※僕は、裏切り者の契約を、と口を動かすAだが声が出ない)

「しっかりしてくださいよ、Aさん!」

(※空の彼方にヘクトパスカルの姿)

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