その67・勇者対策会議
▼その67・勇者対策会議
(※暗闇の中、会議室)
「転生勇者というのは本当か?」
「はい、間違いありません…………これを」
(※共有情報スクリーンに映し出される各種データと、囚われたときのAの写真)
「彼の記憶のデータを」
「なんだこの二層になっている部分は? 偉く長いな?」
「はい、この人物は肉体年齢は間違いなく15歳ですが、その倍、あるいはそれ以上の記憶も保有しているのは間違いありません。それと」
(※スクリーンに映し出される、Aが自作した銃、そしていかにも近世~近代初期的な金属薬莢銃)
「左が、この世界で我々が捕獲した銃器の一部、右がこの少年が持っていた銃です」
(※Aの自作した銃の横にセマーリンオートマチックの画像)
「銃身が2インチ、銃把が2インチ延長されていますが、基本構造も含め、これはこのセマーリン手動式拳銃とほぼ同一設計のものです」
「二重記憶、有り得ない技術の所有……『転生勇者』の確率は98.98989…………」
「つまり一致である」
「同意」「同意」「同意」「同意」「同意」
「我々の世界からの転生者なのか、Y崎課長」
「いいえ、41号専務。彼の記憶スキャナーによると、彼が転生する直前の世界と我々の世界にはこれほどのズレがあります」
(※Y崎課長、グラフ的なモノを提示)
「ほぼ我々の世界と同じ文明曲線と情報量を示していますが、重要点の相違が122箇所あります」
「つまり果てしなく我々と近い世界であるが、間違いなく違う並行世界の住人であったということか」
「御意」
「だが、転生勇者は厄介だ。前回は予算超過で作戦を打ち切らざるを得なかった」
「今回もそうなる可能性は75%以上ある」
「同意」「同意」「同意」「同意」「同意」
「前回、転生勇者に手こずった理由は既にレポートがでております」
(※画面に出てくるレポート)
「では読み上げます。
1、射撃、兵器類の攻撃照準制度に対する量子レベルでの介入能力。
2、常人の数千倍にも及ぶ身体能力。
3、こちらの反応兵器なみの威力を持つ魔法武器、兵器、防具の所有。
4、異様なカリスマ性。
5、大量殺人、攻撃を躊躇わないサイコパス、あるいはソシオパス的精神構造
6、生物としての再生能力の増強。
7、攻撃兵器、武器に対する異様な順応性
8、科学技術への理解と応用、及び近世的魔法世界での再現能力。
…………これらの事情を推測できる情報を集めながら、決断できなかったこと、これが最大の被害をもたらす原因となり、皆様AI重役とAI社長による決断システムへの移換を進めることとなりました」
「同意」「同意」「同意」「同意」「同意」
「故に当方は、今回は前回の愚を犯さず、可及的速やかに特別予算枠を計上し、皆様に裁可を頂いた上で、作戦を実行したいと考えております」
「許可」「許可」「許可」「許可」「許可」
「全重役陣の全会一致で許可とする。Y崎課長の提出した書類全てに許可を下ろし、転生勇者Aを抹殺することをここに命ずるものである」
「ありがとうございます7号社長」
(※宇宙船内)
(※A、ベッドの上で寝ている)
「はっ!」
(※跳ね起きたA、頭のてっぺんを触る)
「え? 穴開いてない? キャトルミューティレーションもトレパージも無し? それとも僕、ロボトミーされて、今見てる風景は映画の『エンジェル・ウォーズ』みたいなこう……現実逃避の夢の中、とか……」
「大丈夫よ」
「わ!」
「転がり落ちることないじゃない。だいじょーぶ、って言ったでしょ?」
(※猫耳少女、先ほどAの頭に突き刺した針付きコードを取り出して自分の頭に刺す。あっという間に鋭くて太い針……に見えたモノは分解、頭皮や髪と一体化する)
「あたしたち一応AppleOSなみに地球より進歩してることを自慢できるぐらいの宇宙人よ? 本物の針なんか使うわけないでしょ? これナノテクのシナプスチェンジャー」
「……なんでそんな形に?」
「ジョークグッズの文化を取り入れたの!」
「いや、そんなの取り入れなくていいから……」
「まーまーまー。硬いこと言わずに」
「言うよ!」
「ごめんごめん、こーゆーの大好きなんであたしたち」
「……まあ宇宙人だから仕方ないか(溜息)」
「まーまーまー。ところでさ、お礼何がいい?」
「お礼?」
「おかげであたしら無事に元の世界に戻れそうだから、お礼に何かあげたいなーって」
「お礼ねえ……」
「あーと、大量殺戮兵器とかは駄目ね? あたしら自分の母星の領土外で、国家レベルの事柄に介入するのは禁止されてるから」
「え?」
「だってあなた転生勇者でしょ」
「そりゃそうですけれど……あ、そうだナビさん、なんで出てこないんだろう?」
「あー、あなたの側にくっついてる異世界転生の管理者ね? 多分宇宙船の外郭構造と構成物質が介入の波動システムに介入しちゃってるんだと思う、ちょっと待ってね」
(※猫耳少女、なにやら空中で指を動かす)
「……さん、Aさん?」
「あ、ナビさん!」
「ああ、ご無事でしたか、急に消えちゃうんでビックリしましたよ……ってこの猫耳尻尾付きの少女たちは……」
「や、どーも。あたしたちキャーティア、並行世界から来た宇宙人です」
「あら、古龍のヘクトパスカルさんに続いて私の姿も声も見えるんですか?」
「そりゃもー。宇宙人ですんで!」
「困りましたねえ……私の姿ってそうそう見られたりすると困るんですが」
「見え過ぎちゃってこまるのー♪」
「?」
「あ、Aさんは知らなくて当然ですが、なんで知ってるんですか?」
「地球大好きなもんで! 特に日本の文化!」
「YOUは何しに地球まで、って感じですな」
「まー、すぐこの世界出て行くので気にしない気にしない♪」




