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その52・全て偽りの朝

その52・全て偽りの朝


(※暗闇、声が聞こえる)

「ほら、起きなさいA。朝ですよ?」

(※ゆさゆさと優しく揺さぶられる感じ)

「え……あ……ベッドの上……ここ……どこ? ナビさん?」

「もう、いい加減高校二年生にもなってお母さんが起こさないと起きないってどういうこと?」

「え、あ……あなたは転生先のほうの爆乳でセクシーであららうふふなほうのお母さん!」

「やだ、この子ったら何言ってるの? 爆乳でセクシーなんていっても、全然お小遣いは上がらないわようふふ」

「あいや……あ、え?

(※A、窓ガラスに映った自分の姿を見て驚く。普通のパジャマ姿。家の中、ゲーム機本棚机、時間割、教科書、参考書、マンガにゲームのポスター)。

「ここ……誰の部屋?」

「あなたの部屋に決まってるでしょう? 最近はまってるなろう小説の書きすぎじゃないの?」

「あ、いやそんなはずは」

(※Aのパソコンのモニターつけっぱなしになっている)

「ほら、電気代が嵩むんだから、はやくシャットダウンして学校に行かないと、またBちゃんに怒られるわよ?」

「あ、はははい」

(※A、パソコンをシャットダウン、テキスト画面には「Aさん? どこにいるんです? 私ですナビです! 大丈夫ですか?」の文字がでているがそのまま画面が消える)


(※A、学校の制服に着替える。階段を降りて台所へ)

「やあ、お早うマイサン!」

(※Aの父も母同様異世界転生のほう)

「あ、と、父さん……お早う」

「うんうん、今日も勉学に励むんだよ、パパはこれから会社だが……なるべく定時に帰るからね!」

「まあ、パパったら本当にAが好きなんだから、妬けちゃうわ」

「ママも大好きだよ!」

(※A父、A母にハグ)

「なんか朝っぱらから熱いなあ」

「はははは、仕方ないじゃないか、パパは家族のみんなが大好きなんだー! だから商事会社のお仕事も頑張れる!」

「大声で怒鳴らなくていいから、パパ!」

「じゃあねー!」

(※ドアを出て行くA父)

「Aー! 学校行くわよー!」

「ほら、Bちゃんも来てる! ご飯急いで!」

「あ、う、うん……」

(※A、建売住宅の家の玄関に出る。同じ様な家が建ち並ぶ街角。玄関前でBが学校の女子の制服を着けて立っている)。

「お早うB」

「ハイお早う。さっさと行くわよ」

「はいはい」

(※学校への道を歩くAとB)。

「あのさ、B」

「なに?」

「好きだよ」

「この前聞いた」

「……」

「いきなり、何再確認するのよ? あたしら、幼なじみを越えて、何とかラブラブになったわけじゃない。それにその……あたしの初めてだって……あげたんだし」

「あれから、僕ら何回エッチした?」

「!?」

「今からでも、学校サボってエッチしたい、っていったらどうする?」

(※真っ赤になるB)

(※冷静なA)

(※朝のバス停、誰もいない街角)

「……い、いいわよ」

「ありがとう、確信が持てた」

(※A鞄を棄てて走り出す)

「まって、A!」

「都合のいい街だよな、バス停に誰もいない風景、優しい両親、何でも受け入れてくれる幼なじみ、オマケにエッチまでしてくれてる……悪いね、こういう『都合の良すぎる話』は世の中に無いことはとっくに知ってる!」

(※A、駆け抜けていく。同じ家が何軒も続く)

「でも、朝8時なのにドコにも影が落ちてない。バス停にバスの時刻が書いてない、そもそもうちの母親が専業主婦なのに朝ラジオもテレビもつけてない、父さんの髭面を通してくれる背広を着用する商事会社は有り得ない!」

(※A、そのうち一軒のドアをあける。母親が微笑む)

「A、どうしたの? 忘れ物?」

(※A、ドアを開けっ放しにしたまま次々他の家のドアを開ける)

「A、どうしたの? 気分でも悪い?」

「A、どうしたの? 辛いの? いいわよ、お休みしましょう?」

「A、どうしたの? お小遣いが欲しい? あげるわ。いくら必要なの?」

「A、どうしたの? お父さんと別れて欲しいの?」

「A、どうしたの? 母さんとエッチがしたいの?」

「おいおい、こんなものが僕の欲望とか思われてるのか!」

(※吐き捨ててA、空を見上げる)

「出てこい! こんなくだらない世界に僕を閉じ込められると思うのか!)

(※Aの後ろにB。制服を半脱ぎ)

「A、どうしたの? 私にあなたの赤ちゃん産んで欲しいの?……いいわよ、産んであげる。大丈夫うち裕福だから……」

「それとも、こんなシチュエーションしか書けない脚本家なのか?」

(※別のBが出現。ちゃんと服を着ている)

「A、どうしたの? 頭おかしいんじゃないの?」

(※Fが制服姿で登場)

「どうしたA、また徹夜で小説書きして世界観没頭しちまったか?」

(※E王女が制服姿で登場)

「どうしたのだA君。私の身体で慰めて欲しいのか? いいぞ、何もかも君になら捧げよう……」

(※A、冷ややかな目で三人を見つめる。背後の建売住宅からぞろぞろとA母が出てくる)

「A、どうしたの? 私に殺して貰いたい? そんなにつらい人生? いいわ、叶えてあげる」

(※A母、一斉に包丁を振りかざしながらゆっくりと近づく)

(※BやF、E王女もそれぞれ同じ形の包丁を握りしめて歩き始める)

(※Aのスマホが鳴る)

『ああよかった、ようやく繋がった! Aさん、今どこです? 脱出口は後ろのビルの屋上です』

「ナビさん、僕の最後はどうなりましたか?」

『最後? 竜の背中から落ちましたけど、あなたの人生は始まったばかりじゃないですか』

「無様なデッドコピーだなあ」

(※A、スマホを地面に叩きつける)

「……てことは、孤立無援か……」

(※迫ってくる女性達)

「どうせ出鱈目なハリボテの世界なら、映画のマトリックスと一緒だよね」

(※A、目を閉じる)

「『最強になりたいと願うな、最強だと感じろ』……だっけ…………違う」

(※迫ってくる女性達、ディティールもぼやけて、包丁だけが鋭い)

「そうだ」

(※目をあけるA)

「『スプーン(このせかい)なんて、存在しない』だ」

(※Aが思いっきり足を上げ、振り下ろす、地面に走る亀裂。爆発するように地面が内側から弾け、全てがバラバラになる。建売住宅は全てハリボテのセットで、玄関と台所と、Aの部屋までの階段以外何もない)

(※粉砕される中にAの父もいる)

「A、なんで壊した、お前にとっては居心地のいい世界……」

(※A手を挙げる。その手の中にセマーリンが現れる)

「パパを、僕の敵にしなかったことは安堵してるけど」

(※A、銃を構える)

「お前は、偽物だ」

(※引き金を引く寸前、Aの父口から牙が生え、怪物に変じようとするが頭を撃ち抜かれて死ぬ)

「さあて、現実だ」

(※崩壊する世界、光が視界に溢れてくる……目を閉じるA)

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