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93.望まれない30%off

 



 ヨシュアンさんの脅迫手腕はアレですね。

 人間さん達の想像する『魔族』ってあんな感じでしょうか?

 邪悪というには外見が……場違いに可憐ですけど。

 浮気のネタで脅迫される少年と、それを取り囲む女装野郎三名……わあ、なんてシュールな光景(笑)

 奥方様にバラすぞ、と突きつけられたら主神様には抵抗の術なんてないのでしょう。

 張り詰めた顔に冷や汗を垂らし、主神は女装野郎を睨み上げています。

「お前達……何が望みだ」

「取り合えずお宅の肉食系美の女神に超狙われてる勇者君の後ろ盾になってほしいかな。保護して! 保護して!」

 あ、ちゃんと本来の目的覚えてたんですね。

 そうです。私達は勇者様のこれ以上の異形化を食い止め、あわよくば何かしら勇者様にとって有利に働くような便宜を図ってもらうべく、ここまで……主神に会いに来たのです。

 どうしようもねー浮気男でも、主神は主神。

 主神(おさ)なんて肩書背負ってるくらいですし、実力に期待しても良いですよね。そう、勇者様の人外さんへと突き進む歩みを止める……もしくは遅らせるくらいの力はあるって! 美の女神に関しても、自分とこの里の女神が相手ならその魔手の一つや二つ、軽々阻んでほしいものです。

 程良く強請のネタも手に入ったことですし、密告せずとも既に露見しているこの状況なら奥方様への義理も果たせます。

 これ以上にない好条件です。

 後は主神の出方次第、なんですけど……


 進退窮まり、切り抜ける手段なんて微塵もない筈なのに。

 何故か、主神はつーんとそっぽを向いてしまいました。


 ………………まだ、ご自分の立場というものを理解されてないみたいですね?

 がっちり浮気の尻尾を掴まれて逃げ場のない筈の主神。

 その反抗的な態度に、りっちゃんが厳しい顔を見せました。

 あ、りっちゃんってば額に青筋……。

「聞こえなかったんですか? 私達は貴方に、勇者さんへの庇護をお願い(・・・)しているのですが。……確かに騙し討ちのような手段を用いたことが引っかかるかもしれませんが、自分で観念して下さると我々にとっても手っ取り早くて助かるのですが?」

 主神にしてみれば私達の要求も物言いも、随分なものだってわかってはいます。

 要求に対して、反抗したくなるのも仕方がないことでしょう。

 でも散々浮気男の最低な実態を見せつけられた後ですしね……なんか、アレを経ての今、って前提があるからか、なんかこの主神に容赦とか遠慮とか、加減とかする気にならないんですよねぇ。

 きっとそれはりっちゃんも同じ気持ちの筈!

 魔境の住民にとって、相手が姿通りの幼気(いたいけ)な少年だったら手を緩めるところですが……中身は懲りずに浮気を繰り返す節操なしの最低野郎かと思えば、外見がどうであろうと意に留める気は失せます。

 というか外見が少年でも、主神が子供みたいな態度とったって可愛くありませんから。

 いっそ逆に小憎たらしくなるだけですから。

 だって大人が自分の見え方計算して装ってる感が凄まじいし。

 当然、りっちゃんや画伯も手加減をするつもりはなく。

 主神の自分の首の締まりっぷりを(わきま)えない態度に、りっちゃんは静かに何かを取り出しました。

 あ、乳切木。

 思いっきり凶器の鈍器、撲殺待ったなしの逸品で、一体何をするつもりなのか。

 幸いにして、私が自分の目でそれを確認するよりも、早く。

 主神を取り巻く彼らの話はさかさかと進んでいきました。

 殴られては堪らないと思ったのでしょう。

 乳切木を両手に握ってにじり寄るりっちゃんを前に、主神が叫んだからです。

 頑なな態度を見せてまで、勇者様の支援を拒む……その理由を。


「冗談じゃない! 魔境由来(・・・・)の呪いに侵された者を庇護するなんて!」


 寝耳に水でした。

 え、呪いって何それ……?


 呪いというのが、何のことだか本当にわからなくって。

 ちょっと私達も混乱してしまいましたが……

 確かに、確かに勇者様は運のない人ですよ?

 それはもう、呪われてるんじゃ……ってうっすら思っちゃうくらいにいは運が悪いし不憫だし。

 正直、幸運の女神様に加護を受けてあの有様かと思うと不思議で仕方ありません。

 ……あれ? なんか呪われててもおかしくない気がしてきました。

 そっか。勇者様の運があんなに悪かったのは、呪いのせいだったんですね!

 私はてっきり人間の範疇に収めるには生物としての性能が突出しすぎているせいで、自然界に淘汰でもされかけてるのかと……

「隠そうともわかるぞ。その呪われし腕輪に込められた破滅の魔力が! 呪いを身に宿した者の責任を引き受けるなど、飛んでもない」

「……うでわ?」

 皆の目が、思わず勇者様の腕に集中しました。

 そこにはつい先程、勇者様に無理にでも装備してもらおうとした結果、うっかりダブってしまった【業運の腕輪(×三)】がはまっている筈ですが……答えは……どうやら、勇者様の腕に嵌った三つの【業運の腕輪】にある?


  【 業運の腕輪 → 業欲の腕枷 】

    (因果応報):欲深き者に相応の報いを

     効果:全能力値が(個数×十)%off


 前からではなく、呪われたのはついさっきだったんですね。

 誰もが腕輪(?)を凝視する中、真っ先に反応したのはやはりこの方。

「なんだこれ――!!?」

 自分の腕を見ながら叫ぶ、勇者様。

 白銀に輝いていた筈の腕輪はいつの間にか形が変わり、色が変わり。 

 三連の腕輪は癒着したようにくっついて、幅広の一つの腕輪と化していました。

 この時点で元の意匠は潰して伸ばしたかのように失われています。

 色もくすんだような黒銀になっていますね。

 最初とは見るからに色々違うんですが、今気づいたんですか勇者様?

 あまりの変貌ぶりに気を引かれ、ついでに奥方様はともかく勇者様が主神の誘惑に失敗した今、私までかくれんぼしている意義が見当たらなかったので。

 絶賛身を潜め中だった草叢からガサゴソ這い出て勇者様の近くまで見物するべく近付きました。

 何の前振りもなく無造作に姿を現した私に、勇者様がぎょっとした顔で仰け反りました。

 いけない、どうも驚かせてしまったようです。

「ちょ、ちょっと待て……! なんで出て来ちゃうんだ、リアンカ! 君は、隠れてる予定の筈だろう!?」

「勇者様の誘惑★が失敗した今、細かいことは言いっこなしです! それより腕輪を見せて下さい」

 私は身振りで「そのまま、そのまま」と告げながらも腕輪の変化に夢中で、あまり勇者様が慌てていることを意識できませんでした。

 そのくらい、腕輪に気を取られていたといいましょうか。

 勇者様の驚きを軽視してしまうくらい、捨て置けない問題に気付いてしまったんです。

「えっと、これ、本来の鍵穴が潰れちゃってるんですけど……どうやって外せっていうんです?」

「 え゛ 」

 一つになってしまった、三つの腕輪。

 それぞれの鍵穴があった筈の場所は、綺麗につるりと滑らかに……穴、塞がってるんですけど。

 私の指摘に改めて思い至ったのか。

 勇者様は顔から血の気を失いつつ、その指先で触って腕輪の感触を確かめ……

 穴を見つけられなかったんでしょうね。

 その麗しのご尊顔が、盛大にひくっと引き攣りました。


 そう、私達は見失ってしまったのです。

 マジで呪いのアイテムと化した、腕輪を外す方法を……

 ……うん、これ本気でどうしよう。

 こんな時には『困った時のまぁちゃん頼り』が定番なのですが。

 そもそも腕輪を外す為の鍵を持ったまま、現在まぁちゃんは行方不明。

 っていうか本当に今どこにいるの、まぁちゃーん!?


 思わず現実逃避から、この場にはいないまぁちゃんに思いを馳せる私。

 諦めが良すぎて、地面に両手をついて項垂れる勇者様。

 だけど状況の推移を冷静に見つめながら、私達と違って現実を見失わなかった方々がいました。

 そう、この場には交渉材料を持った方々がいましたね?

「呪われた勇者君は、自分の庇護下に置けない、かー」

「それでは要求を変えて、庇護下に置くのではなく……勇者さんの呪いの解除、それでどうです?」

「あ、もちろんだけど、勇者君が天界に来たことで変貌しつつある肉体の変化も止めてほしいかな。姿を元に戻せれば上々だけど、戻せないならこれ以上変化しないようにしてほしい。姿を元に戻す手がかりももらえれば上々か」

「そうですね。この二つが条件としては妥当でしょう。どうです、私達の要求二点を呑んで下さるのなら、この世に生まれたばかりの貴方の浮気証言録を廃棄しても構いませんが?」

 りっちゃん&画伯……!

 こんなところで私の『頼れる大人』評価が鰻登りです!

 そうですよね。呪われているんなら解呪すれば良いんです。

 目の前には主神……神なんていう、それもその一部族の長なんていう字面からして呪いに超強そうな生命体がいるんです。ここはどんどん活用して、呪いをどうにかさせるのが定石ですよね。

 私達が期待を寄せて主神に目をやりました。

 だけど主神は、私達の要求に難しい顔をするばかり。

「……魔境の呪いだ、と言っただろう」

「聞きましたね。ですが、それが何か?」

 呪いは呪い、だと思うんですけど。

 確かに魔王由来の装備品が呪いの品と化したなら、それは間違いなく「魔境の」と枕詞をつけるに相応しい呪いの道具となるでしょう。

 でも今そこ、そんなに重要ですか?

 わざわざ強調しなくちゃいけないようには思えないんですけど。

「我ら神の力と、魔境の……魔族や魔王の保有する『魔力』は異質だ。どこまでも交わらず、どこまでも反発する。しかもその腕輪は魔王の力を秘めているだろう。神による解呪は不可能、そう思ってくれ」

「え? でも、主神様は『主神』なんですよね? ここのお里で一番強い……ん、ですよね?」

「強かろうが偉かろうが無理なものは無理だ。例えていうなら、『卵』と『剣山』のようなもの。ぶつけて壊し、傷つけあうことは出来てもそれ以外は……相手を害することばかりで、『全部破壊する』行為以外に干渉するのは難しい。

――勇者とやらの腕ごと、いや力の規模からして存在丸ごと呪いと共に吹っ飛ばしても構わぬのなら、やってやれないことはないが? その場合は呪いの『解呪』ではなく『消滅』になるだろうがな」

「消滅って、勇者様ごとですか」

「その選択肢は却下だ……!」

 自分が爆裂四散の危機とあって、勇者様は腕を庇いながら急速に後退りました。

 そんなに怯えなくても、腕ごと破壊しようだなんて……

 …………勇者様の頑丈さと回復力なら、イケますかね?

 いえ、いえいえ、流石にまぁちゃんのお祖父ちゃんの魔力が籠った腕輪ですし、その爆破に巻き込まれては勇者様もただじゃ済まないでしょう。……済みません、よね?

 私達は勇者様にかかった呪いなんていう、急遽発覚した問題に直面して途方に暮れました。

 一瞬だけ。


 ええ、途方に暮れるには暮れたんですけど、ね。


「いきなり存在が明らかになって、気を取られましたけど!」

「リアンカ……?」

「いま考えてもどうにもならない事案なら、頭を悩ませたって仕方ありません! 後回しにしましょう!」

「俺には実害たっぷりなんだけど、リアンカさん……!?」

「そこは原因の一人として申し訳ない次第です。だから」

「……だから?」

「私の出来る全力(・・)で、勇者様を支援します」

「待て」

 呪い、それも魔王由来の力を持った呪いなんて、対処に凄まじく困る代物です。

 それがどんな効果をもたらすのか、不明ですけど……それが『呪い』と表現される物なら、対象者である勇者様の不利益になるのは確実です。

 勇者様に無理に腕輪を嵌めてしまった一人として、私だって責任を感じます。

 呪いの効果は、どんな形で勇者様に降りかかるのか……まだ、わかりませんけど。

 それがどんな形での不幸だったって。

 責任のある人間の一人として、補い、挽回できるように力を尽くすのが責任の取り方だと思うんです……! 責任を感じて気に病むことは何時だって出来ることですし、後でまとめてやれば良いんです!

 しょげしょげと自分が大変じゃないのに落ち込んで、勇者様に逆に気を遣わせるのは御免です。

 今は勇者様にどんな不幸が訪れるのかわからないんだから。 

 私は落ち込んだり悩んだり、罪悪感で動揺するよりも、まず先に。

 勇者様が呪いの不利益なんて感じないよう、力を尽くすことを優先するべきだと思いました。

「リアンカの全力って。リアンカの全力って……! 凄まじく怖い予感がするのは俺の気のせいか!?」

 私がやる気を出すのに比例して、何故か勇者様が狼狽しているんですけど。

 その反応は、ちょっと私に失礼じゃないかと思うんですけど……どうして不安そうなお顔をするんですか、勇者様。私が非戦闘員だからですか。

 大丈夫です、勇者様が不安になる必要なんてありません!

 心配をさせてしまっているみたいですけど、そこはご先祖様やせっちゃんにも手を貸してもらって、万全の態勢で勇者様を支援しますから!





勇者様の呪いが明らかに……!

現在、全ステータス値が-30%になっています。

それはつまり、幸運値も……?

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