表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/114

83.そうだ! 主神をハメよう☆



 主神の奥方は、やっぱり全方位どの角度から見ても十二歳くらいの少女にしか見えませんでした。

 思わぬお姿に、まだ顔も知らない主神の性癖が透けて見えたような気がして私達は困惑を隠せません。

少女(ロリ)趣味かー……魔族、というか魔境じゃ反発強過ぎて、こっちの方向性(ジャンル)は反応悪いんだよね。というか需要がないっていうか……。実年齢的には合法って場合も割とあるけど、やっぱ見た目の抵抗感は無視できないかな」

「このくらいの年齢なら、魔境じゃ確実に保護対象ですからね……というかヨシュアン? その実感の籠った物言いはどういうことですか。もしかして、既に描いたことがあるんじゃないでしょうね」

「あははははー(棒) 魔境じゃ評判悪いよ? けど人間の国じゃ需要あるらしくってさー……バードに販路拡大の為だって幾つか描くようせっつかれたことはあるかな」

「ああ……人間にはいますからね、弱年齢層の相手にも見境の無い節操なしが」

「この場合、ここの主神も見事にその例に当てはまる疑惑が強まってきているんだけど」

 中でも不評を呈したのが、地上で恐らく最も児童愛護の習性が強い魔族のお二人です。

 画伯の感想はなんかずれてましたけど、でも珍しく難しい顔をしているのでやっぱり不快なのでしょう。画伯も小さな女の子を養ってますしね。副業は頑張って隠して、そこそこ真っ当にお世話しているらしいって話なので、やっぱり画伯も小さな女の子を創作活動の糧にするのは抵抗が強いのでしょう。これでそっち方面も大好物です!なんて宣言しようものなら漏れなくこの場で、りっちゃんによる制裁が待っていたでしょうけれど。

「神って……彼らに良識を期待するのは、儚い夢だったんだろうな」

 一方、この里に所属する神様がモロに国家規模で故郷のお国の信仰対象という、微妙になんか巻き添えで被弾しているっぽい事情を抱えた勇者様は虚ろな目で遠くを眺めておいでです。

 麗しの女装姿なので、いつも以上に儚い魅力が増大していますね。

 そんな今にも消えてしまいそうな儚い表情の原因は、信仰する神群の、頂点に位置する神の変態疑惑という大変哀しいモノでしたが。

 勇者様自身にはなんら悪いところはないのに……信仰対象の長が、変態かもしれない。そんな切ない現実を前に、勇者様の心が受けた打撃は如何程でしょうか。打ちのめされ過ぎて、また引籠りでもしないか心配です。天界(ここ)、勇者様が引籠れるような丁度いい場所どこにもありませんけれど。強いて言えば、精神世界がアスパラに支配されて正気がオサラバしていた状況がちょっと『心の奥底に引っ込んでいる』という意味では引籠りっぽかったかもしれませんけど。

 

 それぞれが微妙な気持ちを隠せないまま、私達は暫し悩みました。

 ここには、この幼いようにしか見えない奥様に用があって来た訳で。

 だったら、起こさないと話にならない訳ですが。

 ……奥さんの口から、更なる衝撃事実が飛び出したりしないか、と。

 なんだか起こすのが怖くて、二の足を踏んでしまいます。

 でも、起こすのを躊躇ったとしても……それで私達が静かにしているかというと、そういう訳でもなく。

 主神の変態疑惑という都合の良い燃料(ネタ)もあった訳ですし。

 女神を起こすに起こせないまま、私達は喧々囂々、好き勝手に主神に対する根拠の怪しい憶測を語り合いました。

 詳しい内容は私にも意味の分からない単語が多用されたのでちょっとよくわかりませんでしたけど、概ね、主神の変態疑惑に対する自由度の高い冤罪と推定容疑に関してだったような気がします。気のせいかもしれませんけど。

 また、この話題(ネタ)が弾む弾む。まるでゴム鞠のように弾みます。

 弾み過ぎて、ついつい五月蝿くしちゃったんでしょう。


「――騒々しい」


 場に、初めて聞く冷徹な声が切り込んできました。

 鋭いけれど、声質が子供特有の高いものだったので、ちょっと印象がちぐはぐですけど。

 でも子供らしい背伸び感がなくって、なんというか……堂に入った厳しさがあります。

 思わず皆で声の発生源に目をやると、そこにはむっくりと上半身を起こした女神の姿。

 ……うん、やっぱり目を開いても幼さの残る少女にしか見えない。

 だけど目に宿った冷徹な光は、ちっとも子供らしくないですね。

 女神は、私達を厳しく見据えたまま、再度口を開きます。

「騒々しい。お前達、何者だ。――下界の民のようだが、お前が連れ込んだのか、フラン・アルディーク」

 厳しいけれど、ただ本当に厳しいばかりで。

 そこには、裏に透ける悪意というものが見当たりません。

 粘着質なところが少しもなくて、怒りも不快も蔑みも、もちろん心配や妬みもない。

 色の見えない、無色透明な厳しさ。

 こういう、純然と厳しいだけっていう眼差しも、遭遇するのは初めてです。

 なんだか色々新感覚。

 始めてお会いする主神のお妃様という方は、私の予想したどんなお妃様像とも掠ることなく……どんな方なのか、凄く掴みづらい人でした。


 まあ、そう思ったのは、第一印象だけでしたけど。


 私はこの後、彼女が割とノリのいい方だと知ることになります。

 だって私の持ちかけた、とある悪戯に……良い具合に食いついて、とても楽しそうに参加して下さったんですから。


 ちなみに悪戯(ハメる)相手は彼女の旦那です。


 いや、うん……苦し紛れの提案だったんですけどね?

 だって奥方様ってば、私やせっちゃんや勇者様(女装)に鷹の目の如く鋭い視線を注がれて、ですね?

 厳しさ倍増の凍れるお声で、意味深なナニかを目線に含ませて仰るんですよ。

「お前達……女連れとはもしや、我が背の君にあわよくば情けをかけてもらおうなどと、そのような思い上がったことを考えているのではあるまいな」

「あ、それはないです」

 本当に、それはありません。

 思わず顔の前で手をひらひら左右に振りながら否定してしまいましたよ。

「即答は当然として、リアンカ? 尊い女神相手に反応が気安過ぎはしないか……?」

 化粧で普段より麗しいお顔を引き攣らせ、勇者様は若干腰が引け気味に私の裾を引っ張ります。

 もうちょっと態度に気をつけろと言いたいようですが、私も音が正直者なので。済みません。

 でも心外すぎる嫌疑をかけられたまま、否定せずにいる方が問題だと思うんですよね。

 濡れ衣は早々に脱ぎ捨て、生贄に投げつけるに限ります。

 私は奥方様の疑いを五月の晴天並みにすっきり爽やか晴々晴らす為!

 つい、その場の勢いで。

 口を突いて出るに任せて、こんなことを言ってしまったのです。

「私は浮気男は嫌いです! 浮気する男の人には近づきたくないどころか、ちょっと痛い目見てもらっても清々するくらいにしか思いません! そして浮気男に苦労している全女性の憂さ晴らしの一助になるのもやぶさかではないと思っていますから!

――そこで提案ですが、女神様! ちょっと旦那さんに痛い目見てもらっちゃおうとか思いませんか!」

「ちょっと待ておい――!?」

「ほほう……? 何やら面白げなことを言うな、娘。具体的に申してみよ」

「って、女神様が食いついた……!」

「詳しい説明ですね! ではでは、えーと……」

 予想以上に食いついてこられたものですから、そのまま企画を推し進めることになってしまいました。

 出まかせと言えば聞こえは悪いんですけど、嘘を吐く気はありませんがその場の勢いと思い付きだけで口を走らせます。

 そしたら自分でも吃驚ですけど、なんかこんなこと言っちゃったんですよね。

「当方、ハニートラップ要因に最適な女装……いえ、雄姫様(おひめさま)の準備がございますがいかがでしょーか!?」

「おい。おい……! 女装男ってもしかしなくっても俺か! 俺の事か!」

 勇者様がひくひくと顔を引き攣らせて私の肩を揺さぶって来ます。

 ですが私の口は止まりません!

 揺さぶられても、何のその! 私は笑いながら続きを口にしました。

「浮気を責めるにも、やっぱり確実な証拠なり何なりあった方が容赦なく追及出来てお得じゃないですか。だから、まず本当に浮気するかどうか、美味しそうな(エサ)をまいて検証するんです!」

「エサって俺か! 俺に何をさせるつもりだ!?」

「いちー! 勇者様と主神、ふたりの運命的な出会いを演出します!」

「やめて」

「にー! 勇者様に適度に誘惑してもらいつつ、主神を泳がせまーす!」

「やめて」

「そしてさーん!! 主神が食いつきやすい餌をばらまき終えたら、後は食いつくのを待つだけの簡単作業! エサに確実に食いついて浮気確定! 言い逃れ待ったなしの瞬間を狙って主神を取り囲みます! その為には囮役の人に浮気確定の決定的な場面まで耐えてもらわなくっちゃいけませんけど!」

「本当にやめて」

「罠とはいえ、旦那さんが浮気すると思うと奥方様も心穏やかではいられないでしょうが、そこはご安心ください! 今回は囮役に「実は(おとこ)」の女装野郎を起用することで余計な懸念は不要となります! 例え主神が甘えていちゃこらしても、どれだけどぎついギリギリのセクハラ行為に至っても、相手は男! 実は男なのであります! だからつまり、真の意味での浮気の心配はゼロ! 心配には及びません!」

「それって確実に甘えられるのもセクハラされるのも俺だよな!? 俺の自由意志と貞操の心配は!?」

「いやですね、勇者様ってば。まだ(・・)誰も勇者様が囮だなんて明言していませんよ?」

「まだって言った! 今、まだって言っただろう!? 語るに落ちたぞ!」

「じゃあ勇者様に聞きますけど……前提として、この場の面子で女装で本格的に野郎の心を掴めるような人材は他に可愛い系女顔の画伯しかいない訳ですが――画伯は、『魔族』ですので、多分主神の好みだろうと手は出されませんよ? そうなると消去法で……囮に適任なのは、勇者様以外に一人しかいないですよね」

 一人、つまりは私です。

 紳士な勇者様は、それがわかっていて私に囮役を押し付ける方じゃないと思うんですけど。

「それとも勇者様は…………私に、貞操を危機に晒せとか……言います? 相手は女性への見境がないことに定評ある、真性の浮気男ですよ?」

 ただのふりで、誘惑のまねごとですし。

 私にそれが出来るかって言われたら大いに疑問ではありますが。

 別に挑戦するだけはしても構いませんよ? 挑戦するだけは。

 だけどその場合……ほぼ、確実に、私の保護監督を父さんに任されているまぁちゃんが大変な事になると思うんですけど。具体的に言うと、過保護なまぁちゃんの事なので『鬼』になっちゃうかもしれません。

 

 まあ、まぁちゃんの前に……そこに立って私達の成り行きを見守っている、ご先祖様の、目が。

 ……目が笑ってないんですよね。

 

 もしかするとまぁちゃんが『鬼』になる前に、私が主神の罠要員として誘惑のまねごとをするなんてなったら……ご先祖様が、過剰反応示してナニかやらかしてくれそうかな、なんて。

 そんな気がしてならない訳ですが。

 ……それでも私に囮役やれとか言います? 勇者様。


 私は懸念を明言はしませんでしたけど。

 でも勇者様は、私がチラリと目線だけでご先祖様を見たことで、何かを察したらしく。

 絶望二割、嫌悪三割、諦念五割。

 そんな感情豊かな表情を浮かべた後……何やら、がっくりと項垂れてしまったのでした。



 安心してくださいね、勇者様!

 ちゃんと私達、物陰から勇者様の雄姿を見守りますから! 本当に危なくなったら助ける為に介入することも考えていますから。

 ……まあ、本当に危なくなったら私達が介入するより早く、奥方様が乱入する可能性が高いですけど。


 取敢えず、せめてもの保険です。

 【業運の腕輪】の一つくらいは、装着して臨んでくださいね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ