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51.視覚的暴力に満ちた心の砦



 取敢えず、アレが凄まじい異常であることには間違いないと思います。

 というか異常以外の何物でもないと私が決めました。

 だからこそ様子を知る為に接近してみることにします。

 それにしても、心の中のお城とか……アレですかね、心の砦とかそんなヤツでしょうか?

 水鏡に映るお城は大変優美で、防衛施設としてはそこまで堅固には見えませんが。

 ああ、でも、湖から水を引いて堀を作っているみたいですし、よく見るとさり気無く水に映る城壁は高いし。

 水鏡越しなので一見して判り難いんですけど、実は堅い城のようです。

 外見の優美さと兼ね備えた防衛力に感心しながら、この時の私は呑気に歩いていました。

 歩きながら、これからお城(ダンジョン)に突入かと思って、ポーチの中を整理してみたりなんかして。

 ごそごそと手持ちの薬を確認しながら歩いていた訳ですが。

 濃硫酸の入った瓶の蓋を開けて、中身の状態を見ようとしたその時。

 ……何やら遠くから、ぱからっぱからっという特徴的な音が響いてきました。

 馬の蹄の音です。

 ここがただの森なら、聞こえてきても異常とは思わないんですけど。

 何しろここはアスパラに浸食された勇者様の心の中。

 初めて聞こえてくる種類の音に、否応なく警戒してしまいます。

 だから私とロロイとリリフは、ほぼ同時に音源の方へと振り返ってしまいました。

 私より反応速度の速いロロイとリリフが、私の両隣でぎくりと体を強張らせる。

 その反応を気配で察しながらも、既に振り返っていた私は目がソレを捉えるのを……止めることが出来ませんでした。


 そうして、私達は見てしまったのです。


 ぶっといホワイトアスパラ……に、四本の角材がぶっ刺さったあの物体は何でしょう。

 馬ですか。馬のつもりなんですか。

 ホワイトアスパラで白馬とか言っちゃうつもりなんですか?

 そしてその白馬(ホワイトアスパラ)の背に乗る……探し求めた、あの姿。

 しかし無残に変わり果てた、あの姿が。


 白馬(ホワイトアスパラ)の背に跨った美貌の青年は。

 ああ、何と言うことでしょう。


 勇者様がいました。


 そこには久々に見る王子様としての正装に身を包んだ勇者様。

 ……と、人間と同程度の大きさの、ドレスを着こんだアスパラが。

 勇者様の両腕の中に囲われる形で白馬(ホワイトアスパラ)の上に横座りする、ドレスを着たアスパラが。


 わあ、なんて狂気に満ちた光景。


 思わず濃硫酸の瓶、ポロリと零してしまいました。

 自分の膝に引っ掛けて大慌てです。

 お陰で、見ちゃった光景に対する衝撃が薄れましたけどね!

 引き換えにスパッツに大穴出来ちゃいましたけどね!

 ……うん、スパッツに大穴が空いちゃったんですよ。

 そのままにしておくのは乙女の身嗜み的にセーフでしょうか、アウトでしょうか。

「だけど着替えが……画伯に「念の為!」って渡された靴下しかないんですよね」

 とても薄くてよく伸びる生地で、仕方なく穿いてみたらあら不思議。

 膝上までいきました。

 靴下がまさかこんなに伸びるとは?

 それでも若干太腿がスカートの裾から覗いているので、まぁちゃんに見つかったら怒られそうです。


 私がスパッツに気を回しているのは、別に現実逃避じゃなかったんですが。

 結果的にそんな感じになっていたことは否めません。

 だって、ほら。

 私達が目を逸らしている間に、湖のほとりで白馬(ホワイトアスパラ)の足を止めさせた勇者様が。

 勇者様が、腕の中のアスパラ(人間サイズ)をぎゅっと抱き締めて……!

 なんか、なんか口説き出したんですけど……!!

「君を束縛しようなんて欲深いな、俺は。だけど許してくれ……君の事を、離したくないんだ」


 どうしよう。

 笑うに笑えない。


 アレがアスパラじゃなくって、可愛い姫君とかなら大変絵になったことでしょう。

 うん、勇者様が超絶美形なので物語の一幕そのものって感じになったことと思います。

 しかしドレスを着たアスパラじゃ、正気を疑うナニかにしかなりません。

 あまりにも正視に耐えかねる光景だったので、私は。

「ロロイ」

「了解」

 ロロイにそっと声をかけると、そちらも目を逸らしていたロロイ君が神妙な顔で頷いて。

 それから近くの茂みから木の枝を一本折り取って来ると、軽く助走をつけて。

 

 槍を投げるように、投擲しました。


「チッ……外したか」

 しかし直撃には至らず、此方に害意ある生物がいると認識したのでしょう。

 勇者様はさっと顔色を甘やかなモノから警戒色高めな表情に変えます。

 そのまま腕の中のアスパラを庇うようにして、白馬(ホワイトアスパラ)を疾駆させました。


 異様な緑に包まれた、あの湖のアスパラ城へと。


「リャン姉さん、あれを見て!」

 城へと注意を向けたことで、見つけちゃったのでしょう。

 リリフが顔を強張らせ、注意を促します。

 私は彼女の指差す方へ目を向けて……

 …………城(?)のテラスに、勇者様の姿を見つけました。

 壁際にアスパラを追い詰めて迫る勇者様の姿を見つけてしまいました。

 なんてものを見せやがるんですか。

 服装やタイミング的に、明らかに白馬(ホワイトアスパラ)の勇者様とは別口で。

 それどころか城(?)の別の窓には、やはりアスパラと肩を並べる勇者様の姿が。

 どうやら、あの城にはアスパラといちゃつく勇者様が複数名存在するようですね?

 なんて狂気に満ちた城でしょう……

 発狂したアスパラ城とでも呼びましょうか。

 これは、ますますあの城へと赴かねばならないようです。

 私達は既に半ば確信していました。

 あの城こそが……勇者様の心を侵食する、病巣に違いないと。

 

 しかし同時にこうも思いました。

 あの城に踏み込めば……否が応にも、視覚的暴力に満ちたアレコレを目にする羽目になるだろうと。

 特に色々な意味でトチ狂った勇者様とアスパラの組み合わせを何度も目にする羽目になるだろうと。

 …………なんだか踏み込むのに勇気と心の準備と覚悟が必要そうなんですけど。


 それでも、行かない訳にはいかないから。


 何より、あんな狂ったままじゃ勇者様が可哀想過ぎるから。

 

 勇者様を救い出す為に、いざ行かん――狂気の城へ。




 ……が、城に踏み込もうとしたは良いモノの、最初の一歩で頓挫しました。

「何でしょうかね、この頑丈そうな大扉」

 城の門扉が、固く閉ざされていたんです。

 先程、白馬(ホワイトアスパラ)の勇者様を襲っちゃったせいでしょうか。

 敵襲とでも思われたのか、跳ね橋も上げられちゃっています。

 まあ、跳ね橋程度はお空を飛べちゃう人材が二人もいるので問題ありませんけど?

 本当は城壁を無視して乗り越えても良いんでしょうが……。

 ますます心の扉を固く閉ざされてしまいそうな気がするので、一応ここは手順を踏んでみましょうか。

 私は門扉に手を当てて、構わずノックしてみました。

「勇者様ー! 私ですよ、私わたしー。開けてくださーい、勇者様のお友達の私が来ましたよー」

 声をかけてみると、なんと!

 半ば予想はしていましたが、大扉に変化が!


 さっきよりもますます固く閉ざされました。


 扉の上から、格子が降って来ましたよ?


「リャン姉……」

「リャン姉さん……」

 物言いたげな、二人の視線がびしびし刺さりますね?

「つい出来心で」

「出来心で、余計酷いことに……」

 ……手順とはなんだったろうか。

 そんなロロイの声が聞こえたような気がしましたけど、きっと気のせいですよね!

 ええ、気のせいです!

 しかしこうなると、私達に取れる手段も限られてきますね。

 ざっと選択肢はこんなところでしょうか?


 a.根気強く開けてくれるのを待つ

 b.扉をこじ開ける

 c.他の入れそうな場所を見つけて潜り込む

 d.取敢えず破壊する

 e.いっそのこと城丸ごと破壊する

 f.城に火をつけて燻りだす

 g.その辺で適当にアスパラの皮を調達して変装のち潜入を試みる


 さあ、どれにしましょうか。

 個人的には手っ取り早い手段を模索したいところです。





キリが良いので、とりあえずここまで。

次回からお城(ダンジョン)攻略編。

次回か次々回あたりで当座のツッコミを登場させるつもりです。


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