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ここは人類最前線8 ~攫われた勇者様を救え!~  作者: 小林晴幸
班別行動A班! ~鬱陶しい男神たち~
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21.突撃! お宅訪問 ~鍛冶神様編~

一度書いていた内容が全部吹っ飛んで頭が真っ白になりました。

USBがバグってデータがご臨終あそばすという絶望は大変痛いものでしたよ……(本当にあった怖い話)。

一回吹っ飛んだ内容と全く同じものはどう足掻いても書けやしないとすっぱり諦め、一から書き直しになりました。

皆さんも、バックアップにはお気をつけて。



 最後のお皿は、骨ペンギンの素揚げと目玉魚の目玉焼き、それから塩漬け暗黒塩昆布の盛り合わせプレートをご用意しました。

 盛付け方に変な方向で拘っちゃって、見た目がとっても禍々しくなってしまったのは御愛嬌。

 平然とジョッキ片手に平らげてくれました。

「リャン姉、やっぱ料理上手いな」

「うふふ、ロロイったら! 味覚大雑把一族の御曹司が何を言っているんだか」

 一方、酒神様の方は……

「ふんだばー」

「ふんだばだばだー」

「ふんだばーか」

「く……っアスパラの抵抗が激しくて食えない!」

 まだ、一皿目で躓いているようでした。

 最初にアスパラへの抵抗感を示したのが、お野菜達の気に障ったのか何なのか。

 ロロイには割と素直に食されていたアスパラさん達が、酒神様にはとっても反抗的です。

 お皿の上で逃げ回る、フォークを避ける、果ては酒神様の口に近づけられるとそのほっぺをぺちぺち叩いて拒絶を示します。

 お口の中に詰め込まれた後も口内で地味に抵抗を続けているらしく、酒神様は飲み込むのも一苦労。

 一回なんて、飲み下そうとして喉のあたりで抵抗を受けたらしく、盛大に詰まってのたうち回っておりました。

 神様でも内部から攻められると辛いんですね。

 まあ、何はともあれアスパラ達の嫌がらせのお陰で、酒神様の分のお皿は遅々として減りません。

 その間に食べるとなったら大食い楽勝の竜であるロロイがさっさかお皿を空にしていきます。

 ……とっておきも何点か揃えていたんですが、ロロイに一切の躊躇はありませんでした。

 酒神様へのトラップ目的で、魔境の住民でも食べるのを躊躇うようなモノがあったんですけど。その辺りを意に介さず噛み砕いて行く姿は、流石は真竜といったところでしょうか。


 そうこうする内に、ロロイは自分用に用意された酒樽の最後の一滴を呑み干して…………最後は樽ごと一気でしたよ、この子。

 とにかく、ノルマを先にクリアしたのはロロイの方でした。

「この勝負、私達の勝ちですね!」

「なあ、卑怯だろ。この勝負凄まじく卑怯だろ!?」

「矮小なる人の身で神を相手に奮闘しようって言うんですから少々の小細工とハンデは当たり前でしょう。なんですか、元から公平じゃないのに正々堂々とか言っちゃいます? 能力面で圧倒的に劣るのに、対等な勝負じゃないから無効とか言うんですか」

「いや、実際に勝負したのはそっちの竜だろ……!?」

「竜でもロロイは私の使役です。魔境ルールでいくなら配下の力は私の力! だからロロイの勝利は私の勝利です。試合開始前に酒神様がハンデを認めた時点で、文句を言う資格は自ら放棄しちゃっているのも同然なんですよ!」

 これ以上、ごちゃごちゃ言うなら仕切り直しをしても構いませんが……その場合はもっと、どぎつい試合形式を採択することになりますよ!

 そう言ったら、今度こそ酒神様は黙りました。

 例として提示した魔境の呑み比べでもヤバいヤツを何点か説明してみたら一発でした。

 お酒の神様でも黙り込む。そんな呑み比べを敢行し、伝統として残した魔境の先達は本当に偉大です。

「魔境、変わってねーな」

 説明した呑み比べの幾つかは、御先祖様の時代からあったのでしょう。

 懐かしそうに目を細める姿が印象的でした。

 ……御先祖様、さては貴方もやったことありますね?



 何はともあれ酒神様を下したのは確かです。

 少々の小細工に対する卑怯との(そし)りは矮小な人間の特権ということで甘んじて受け流しましょう。

 とりあえず、約束したんですからそこは守ってもらわないと……ですよね?

 私はにっこり笑って、酒神様の目元に指を突き付けました。

「さあ、酒神様! 伏して拝んで奉ってお願いしますから、どうか鍛冶神様の元へと案内して下さいませ」

「伏して拝むとか言っておいて、この指はなんだ」

「今、私の指先に何が付着しているかわかりますか?」

「……見当もつかんが嫌な予感ならする」

「良いですか、酒神様。私の指に現在塗布してある物、それは……


  バジリスクの毒液です。


お願い聞いてくれないと、酒神様の両目に突っ込んじゃいますよ☆」

「言葉と行動が一致していない! それは拝んでも奉ってもなく脅迫!」

 自分の手指に直接塗る。これは状態異常耐性の高い私だからこそできることです。良い子は真似しちゃ駄目ですよ?

 さて、バジリスクは(ちまた)で蛇の王とも呼ばれる魔物です。

 その毒は強烈の一言。神々にも効くのかどうかわかりませんが……何事も挑戦だと昔の人は言いました!

 ちょいとここらで試しておくのも経験ですよね?

 にこりと微笑んだ私の顔に、酒神様は何を見たのでしょうか。

 神様らしく整ったお顔を、ひくりと引き攣らせて。

 その両肩を落とし、気落ちした声で「わかった、案内する」と言ったのです。

 酒神様ったら良いひと! ちゃんと案内してくれるって。やったね☆


 そうして案内された先は。

 聞いていた通り溶岩地帯のど真ん中。

 そこそこの敷地面積を有した岩山の、側面に開いた黒い大穴……此処が鍛冶神様のお住まいですか。何とも素朴で無骨です。

 良く見ると洞窟の少し行ったところには、大きな鉄門扉。

 頑丈そうですし簡単には開きそうにない堅牢な扉です。

 黒く光る鉄の表面には浮き彫りにされた模様があり、どことなく洗練された美を感じます。

 抜群の美意識を誇る画伯も、扉のレリーフをみて唸ったくらいですから本物ですね。

「これで扉の中央に糞ばb……美の女神様のお姿が彫られていなければ、素直に絶賛出来るんですが」

「いや、モチーフとしては……題材としては文句なしに一級品だよ、あの女神様。だって芸術は喋りも余計な真似もしないし」

 どんな愚物だろうと、見た目が美しければモデルにするに不足はないとのこと。流石は画伯、それって芸術家としての観点でのお言葉ですよね。創作を行う方に特有の、美に厳しい目で冷静に判断しているようです。

 創作に私情を挟まない、そこだけは『画伯』の文句なしに尊敬できる部分だと思います。挟まなさ過ぎてヤバいギリギリの境界をいっちゃう攻めの姿勢は嫌いじゃありませんよ。傍観する立場なら!

 結果的に犠牲になったりっちゃんの憤りも、ちゃんと関係者以外には類が及ぶことなく集中しちゃっていますしね!

 私に被害が及ばない限りは笑って見守る立場に徹しようと思います。

「それじゃあ入るけど、鍛冶神(ブラザー)は本当に繊細なんだ。間違っても、振り回すような暴挙は勘弁してくれよ?」

「そんな、頼みこむ立場で暴挙なんてしませんよ」

「俺に対しては思いっきりやっちゃってなかったっけ!?」

「売られた喧嘩は話が別です」

 酒神様は納得がいかないと呟きながらも、鉄門扉にふらふらと近付いていきます。良く見たら扉の脇にノッカーが。

 酒神様は鉄門扉を、不思議な抑揚を付けて叩きました。

 ――たんたんたん、たんたんたん、たんたんたんたんたんたんたん、たたたたたたたた、たんたんたん、たたん!

 もしかしてこれ、合図か何かでしょうか?

 酒神様が扉から三歩離れると、それを待っていたかのように扉がゆっくり開いていきました。

 上に。

 観音開きと見せかけてスライド式だったようです。上に。

 なんとなく、この感性は嫌いじゃありません。

 やがて扉は完全に開き、塞がれていた通路の奥が目の前に開けます。

 そして、扉のあった場所からすぐ内側。

 通路の真ん中に、立ちはだかる影が……


 それは、大柄な人影で。

 片目は潰れてしまっているのでしょう。顔にはたった一つだけ大きな目玉が鎮座し、筋肉質な逆三角形の肉体にはごつごつした腕と足が……此方も、それぞれ一本ずつ。

 たった一本しかなくとも女性の腰くらいの太さがある腕には岩をも砕きそうな重量級のハンマーを握り、腕よりも更に太い足は泰然として揺れることなく重々しい身体を無理なく支えています。

 厭いも恥じもせず各部位が不揃いな体を、むしろ誇る様に。

 その姿は堂々としており……大きな器を感じさせる(たたず)まいです。

「この方が、鍛冶神様……」

「いんや、居候の一本だたらだ」

 酒神様からのご紹介を受けて、魔境でも(たま)に見かける妖怪さんは腰を落として洗練されたお辞儀を見せてくれました。

 どこかで見た外見だと思えば、一本だたらですか!

「何故、地上の妖怪が此処に……」

 疑問に思ったのか、りっちゃんが一本だたらをしげしげと眺めながらポツリと呟きます。

 確か一本だたらって、鍛冶に関係のある妖怪だったような……え? それ繋がり?

「此奴は一本だたらの(ちん) 素交(すこう)。前に鍛冶神(ブラザー)が地上に降りて鉱石採取していた際、採掘の場で偶然一緒になったらしくてな。鍛冶神の豊富な鍛冶知識と技量に惚れ込んだとかで、弟子入りを志願して居候中だ」

「いらっしゃいアル」

「お前どこの出身だよ」

 妖しげに怪しいと重ねて妖怪。彼らの言動が怪しいのも、そういう種族特性なのでしょうか。

 胡乱な御先祖様の眼差しは、半眼。

 明らかに一本だたらの陳さんとやらをいぶかしんでいます。

 酒神様曰く、鍛冶神様はあまり身の回りを世話するような下僕をお持ちでないとかで……一本だたらが使用人の代わりに私達を先導します。

 一本しかない足で、器用に。

 ……どうやって歩いてるんでしょうか、これ。

 『飛び跳ねる(けんけん)』とかではなく、明らかに『一本足で歩いている』んですけど、何をどうやって歩いているのやら、足運びが完全に謎です。

 やがて洞窟感丸出しの長く暗い通路を抜けて、私達は少々広めの部屋に出ました。

 入口から向かって、部屋の両脇から室内に溶岩が流れ込んでいます。

 床に彫られた溝を伝い、流れる灼熱。

 お陰で明るいんですけど、溶岩の熱気で部屋は凄いことになっていました。

 なんというか、寛げないお宅です。

 こんな家で満足しているんでしょうか、鍛冶神様。

 床の溝を伝って溶岩は集束し、どこかへと流れ込んでいくようですが……流れの先には、やはり廊下があります。

「あの先が師匠の作業場ネー」

「ははあ、成程。この溶岩はお仕事用の設備なんですね」

「そゆことアル」

 ……なんかこの一本だたら(ひと)の喋り口調、不自然で落ち着きませんね? 一体どこの方言か知りませんが、なんだか背中がむずむずします。

 違和感から逃れる様に、室内をきょろきょろ。

 ……彷徨った視線が、作業場へと続く通路の先に大柄な人影を発見しました。

 無骨で、堅牢な印象を抱かせるその体躯。

 巌の如く頑丈そうな見上げる姿。

 ――造形美。

 目の前の姿は、その言葉を思い起こさせます。

 荒削りな顔面は、まるで計算されたかのように絶妙なバランスで配置された目鼻立ちで。作り物めいた顔って、こういうのを言うんでしょうか。

 そして体の前面、分厚い胸板から太腿までを覆う、ピンクのふりふりエプロン。わあ、前身頃はハート形だぁ☆

 両手に握ったスコップは、人を殴り殺せそうな輝きで。

「こ、この方が鍛冶神様……!」

「いや、アレはお手伝い用ゴーレムだから」

 私の驚愕に水を差すように、酒神様が仰いました。

 あれ? ゴーレム?

 ……ああ、はい。言われてみればドッからどう見てもゴーレムでした。むしろ人造物(それ)以外の何物にも見えません。

 鍛冶神様のお宅にあるってことは、人じゃなくって鍛冶神様が御造りになったんでしょうけど。

 人の顔でいうところの目に当たる部分、そこに開いた小窓から、頭部の中に納められた魔力光がまるで眼光のように見えます。

 重い物が擦れるような、軋む様な音を立てて新妻エプロンを身に纏ったゴーレムは何かの作業中のようでした。

 溶岩の流れる溝にスコップを突っ込んでは、何やら黒い物を掻き出しているようですが……

 …………邪魔しちゃいけませんね。先を急ぎましょう。


 一本だたらに案内されること、暫し。

 ようやっと辿り着いた場所は、私にも一目で何の用途を目的とした空間か分かりました。

 鍛冶場です。

 事前に作業場とは聞いていましたが、そこにあるのは鍛冶場そのものでした。それも、今までに見たことのないくらいに大規模な。

 そんな部屋の、真ん中に。

 巨躯の人影がぽつんと一つ。

 逞しい体つきの、それは……人型の屈強な肉体に、闘牛を彷彿とする雄牛の頭部を有した(シルエット)

「なんでミノタウロスがこんなところに」

「いや、あれが鍛冶神(ブラザー)だけど」


 赤々と燃える溶岩の洞窟、その最奥で。

 暗い室内に一人、雄牛の頭部(かぶりもの)を被って佇む男がひとり。

 それが私達と、鍛冶神様の最初の出会いでした。


 うん、というかなんで牛の頭なんて被ってるんですか。鍛冶神様!


 うっすら、ニオイを感じます。

 魔境で生活する私達にとっては馴染み深く、間違えようのないソレ……変人臭ってヤツを!

 印象的な第一印象は、繊細という言葉をお空の彼方に吹っ飛ばすような代物でした。

 

 



 






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