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ここは人類最前線8 ~攫われた勇者様を救え!~  作者: 小林晴幸
班別行動A班! ~鬱陶しい男神たち~
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19.酒は飲んでも呑まれるな! ~先祖の因縁~

 皆様、一か月ぶりの投稿となってしまいました……このシリーズで一か月も間が空くのは初めてかもしれない……。

 お待たせして申し訳ありません。




 さて、私達は御先祖様に、会いに行く相手は鍛冶の神様だと窺っていました。

 ……鍛冶の神様だって聞いていた、筈なんですけど。


 なのに、なんで私達の前に、鍛冶とは関係なさそうな神様が立ちはだかっているのでしょうか。


 場所は、未だ危険地帯の真っ只中。

 私達を前に、立ち往生する謎の神様。

 足下を支える足場は巨大なゴブレット。

 それを溶岩の上にぷかりと浮かべたお椀舟状態。

 その上に堂々と立って此方を正面から見返してくるのは……天界にいるんですし、神様ですよね?

 濃い葡萄色の衣を身に纏い、葡萄の葉や蔓で編まれた草冠を装着した金髪の男神(推定)さん。手には葡萄の彫刻が施された杖を持っていて、全身を葡萄モチーフで統一した姿は「葡萄への愛」の主張が鬱陶しい程です。

 私は間違ってもこの神に「葡萄、好きなんですか?」と問いかけはしますまい。問う問わない以前に、見るからに好きに決まっているという結論しか出ないんですから。

 しかしこんな葡萄塗れの神様が私達の前に立ちはだかっている訳ですが。

 思いっきり私達を凝視している時点で、待ち構えていたんじゃないかって気がします。でもこんな葡萄塗れの神様に待ち受けられる覚えはないんですが……何しろ私達は、この天界に来たばかりで因縁のあるような相手も程々に少ないですし。

 ……実験台にした門番かその縁者くらいしか、因縁つけられる覚えはありません。

 私達が此方に足を向けた目的を思えば、鍛冶の神様かとも思うのですが……不細工って雰囲気じゃありませんし、違いますよね?

 はて、この神様は何者なのでしょうか。

 首を傾げる私の近くで、御先祖様がうんざりしたような溜息を吐きました。

 御先祖様が呆れの色濃い眼差しで、私達の前に立つ方を見下ろしています。

 牛の上に座っている御先祖様と、牛の前で仁王立ちしている謎の神。

 御先祖様のお知り合いですかね?

 どうやら御先祖様も天界暮らしが長い分、顔は広いようですし、友人知人が出現してもおかしくないと思うんですが。

 でも何だか、そんな雰囲気とも違いました。

「お前、なんで此処にいんの?」

「決闘だ!!」

「は?」

「もしくは再戦(リベンジ)だ!!」

「説明になってねーよ、頓馬(とんま)が」

 御先祖様が投げた言葉のキャッチボールは、凄まじい暴投で返ってきました。

 え、なんでいきなり決闘……?

 御先祖様を相手に、なんて無謀な。

 天界で今まで見てきた御先祖様のご乱g……他の神々の反応を見る限り、無謀としか言えません。アレです、結果の見えた戦いというヤツです。

 命知らずな突貫野郎に、御先祖様は胡乱な眼差しのままに言いました。

「別に良いぜ? 受けて立ってやっても」

 そう言いながら、指の関節を鳴らして臨戦状態に移行しようとする御先祖様。

 一方、謎の神様はそんな御先祖様に顔面を青くさせました。

 えー? 自分で勝負を持ち掛けたのに?

「待て待て待て! 誰が暴力での争いを望んでいると言った!?」

「あ゛? どういう料簡か知らねぇが、人に喧嘩吹っ掛けておいて今更知らねえ存知ねえで通じっとでも思ってんのか。あ゛ぁ゛」

 そう言って、拳を突き付けて凄む御先祖様。

「流石はまぁちゃんの御先祖、ガラの悪さがそっくりです」

「そうだね、リアンカちゃん。因縁の付け方が見事に子孫に遺伝してるねー」

 そう言って、何故かチラリと私を見る方が、数名。

 え? なんでこっちを見るんですか?

 何だか妙な含みを感じるのは気のせいですよね。

「御先祖様、御先祖様」

「ん? なんだ、リアンカちゃん」

「お知り合いみたいですが……此方の方はどなたですか?」

 とりあえず、わからないことは聞いてみましょう。

 御先祖様が謎の神様のお顔に凹を形成する前に、試しに聞いてみました。

 答えたのは、御先祖様じゃありませんでしたけど。

「その疑問には疑問の対象である俺自身を以てお答えしよう!」

 そう言って、大仰にバッと両手を広げる謎の神様。

 わあ、テンションたっかい上にノリが良さそうな気配がしますね! ハテノ村の人間は割とそういう空気に敏感です。多分、同類の空気とかいうのを感じ取っているのでしょう。

「俺は酒と狂気と豊穣を司る、通称『酒の神』! ここの神群一の大酒豪とは俺のことだ!」

 あ、やっぱり鍛冶の神様じゃなかったんですね。

 でも、酒の神ですか。

 じゃあ体中の葡萄モチーフはもしかして葡萄そのものではなく、全身でワインへの愛を叫んでいるだけなんですかね。

「お酒と狂気? あはははは、それはなんとも……魔境の住民と気質が合いそうだね」

 画伯が、言わなくても皆がわかっていたことを敢えて口にします。

 確かに魔境と相性が良さそうですが。

「そんな神様が、私達に何か御用ですか? あ、御先祖様に挑戦するんでしたっけ。御愁傷様です」

「違う! ……先祖?」

 一瞬、怪訝な顔をして。

 次いで酒の神様は私と御先祖様を交互に見比べると、指差し確認みたいな動作を繰り出してきました。

 咄嗟に言葉が出ないみたいですけど、言いたいことは分かります。

「ええ、はい。フラン・アルディークは私の御先祖様ですが」

 私と御先祖様は髪と目の色が同じです。

 顔はそこまで似ていませんが、此処まで色が一緒だと一目瞭然でしょ?

 同じ特徴を備えていることで、酒の神様も納得がいったのでしょう。

 うんうんと納得するように、頷いて。

 とんでもないことを言いました。

「ということは、君がアルディーク家の末裔か! こいつぁ重畳、俺からの決闘を申し入れる!」

「お断りします」

「即答!? ちょ、武神の末裔にしては闘争心が無さ過ぎやしないか!」

「戦闘能力ほとんど皆無なのに神様となんてタイマン張れる訳ないじゃないですか。か弱い乙女に何をさせるつもりです? 常識で物を言って下さい」

「あっはっはっはっは、リアンカちゃんが常識だって! それ皮肉?」

「画伯、一服盛りますよ?」

「……何の薬を?」

「性転換させる薬と痺れ薬を呑ませて動けなくしたところを、好みのタイプは『女体化した画伯❤』とかほざいている何処ぞの某天狗の手に引き渡しますよ?」

「ごっめんリアンカちゃん、俺いまからお口にチャックするね☆」

 画伯の物言いにも怒っている訳じゃありませんけど、あまり放置して調子に乗られても困りますし。

 時には脅迫してでも釘をさしておかないと、ですよね。

「……俺の知る『アルディーク』とはまた違ったタイプだ」

「あれ? お酒の神様、私や御先祖様以外の『アルディーク』を御存知で?」

「今回、挑みに来たのは他でもない! そう……俺も、酒の神としての威信がある。他のアルディーク? ああ、知っているさ。知っているともさ! 再戦は奴に由来する!」


「……誰か酒の神様と接触したことのある人で、うちのはっちゃけた先祖でも混ざってたんですかね」

「奴の名は……アビシニアン・アルディーク! この世で唯一、私に膝を屈させた男!」

「アビシニアン? アビシニアン、アビシニアン……六百年くらい前の人で……」

「え? 屈服させた」

 名前を聞いて、私もぴんと思い当たるものがありました。

 ああ、そっか。そうですね、酒の神。

 そして、『再戦』……。

 なんか、この神様の言いたいことが何となくわかりました。


 六百年前、長く続くアルディーク家でも魔境にこの人ありと名の知れた男が存在しました。


 その名はアビシニアン・アルディーク。


 大の酒好きで……真竜王だろうが魔王だろうが問答無用で魔境に生息するありとあらゆる酒豪生物を軒並み飲み比べで潰した、大酒豪として名を馳せた村長さんです。

 それ以外は凡庸な人物だったそうですが、とにかく酒が絡むとヤバい方だったようで。

 どんだけヤバかったかというと、当時の魔王様が酔い潰されることにもほとほと嫌気がさして、ハテノ村の薬師達や魔王城の配下達と共同研究を重ね、アビシニアンを酔い潰す為だけに特別強い酒を開発しまくったという逸話が残っているくらいです。

 ちなみにその時生まれたのが、魔境でも特別な強い酒として知られる名酒『ドラゴンスレイヤー』だったりします。

 そんな魔王をも(二日酔いで)苦しめた、ある意味偉大な御先祖様の逸話には、確か酒の神を逆に酔い潰して飲み比べを制したというものがあったような……

 その酒の神が、目の前の神だとして。

 再戦ってもしかしなくっても、飲み比べのことですか?

「でもそれって、私には直接関わりのないことなんですが」

「そんなことは百も承知! だが俺も、アルディークと聞いては挑まずにおれん! この身に受けた屈辱……どうして晴らさずにいられようか」

「そんなものは直接本人に再戦挑んで下さいよ! 大体、同じ血を引いても別の人間なんですから……代替相手に勝っても虚しいだけなんじゃないですか」

「そんなことはないとも! この砕けた心が充分に慰められる」

「はあ……私としては、お酒の神様になんて微塵も用はないんですけど。それに私達今、急いでるんです。下手すればこの里も滅びるぞって瀬戸際にいるって知ってました?」

 せっちゃんに何かあったら、まぁちゃんが確実に滅ぼす方向で動くこと間違いナシです。

 例えそれが八当たりに近いものだったとしても、まぁちゃんだって暴れないことには収まりのつかない事態ってヤツがあると思うんですよ。

 せっちゃんのことだけでも心配ですけど、せっちゃんに何かがあった末に起こる惨劇だって心配ですとも。

 ……まあ、生活圏(まきょう)じゃないんで滅びても崩壊しても私に支障はありませんけどね

 だけど勇者様は関係ない方まで無為に巻き込まれたと聞くと、きっと気に病むでしょうから。

 だから。


 勇者様が思う存分ツッコミを入れられるよう、やっぱり一刻も早く勇者様の枷を外せる鍛冶神様に接触を図るべきですよね!


「という訳で!」

「どういう訳で!?」

「とにかく、私達は先を急ぎますので! 酒飲み合戦やってる暇はないんですよ。鍛冶の神様に会わないといけないんですから」

鍛冶の神(ブラザー)に?」

 私の言葉に、酒の神様の身体がぴたりと動きを止めました。

 って、ん……? ブラザー?

 見ると酒の神様は、なんだか気まずそうな顔をしています。

「今は、ちょっと……会いに行くのは控えた方が良いかも?」

「なんですか、その曖昧な物言いは。というか、ブラザー?」

 困ったような笑顔を浮かべるその額に光るのは、冷汗ですか?

 私が疑問もたっぷりに凝視していると、御先祖様が手ををぽんと叩いて言いました。

「そういや此奴、鍛冶神の野郎と親しかったような……」

「えっ本当ですか?」

 正直、構っている暇はないと思ったんですけど。

 これからお願いをしに行く神様に親しいとなれば話も微妙に変わってきます。

 酒の飲み比べなんてする気はありません。

 ありません、が……鍛冶神様に頼みごとをする立場としては、取り成してくれる方の存在は重要です。

 私はますますじぃっと酒の神様の顔を眺めました。

 その額の冷汗はますます量を増し、口を引き攣らせてそっぽを向いています。

鍛冶神(ブラザー)は今、とても人前に出せるような精神状態じゃないんだ……頼む、そっとしといてやってくれ!」

「あ? お前ら、そんな気遣いあうほど仲良かったのか?」

「そりゃな、もちろんな! 何しろ同父兄弟の中でも俺とブラザーは特別浮いている者同士! 変わり種同士で仲良くなったっておかしくないはずだ!」

「お前の兄弟浮いてるヤツばっかじゃねえ? むしろ皆がみんなオンリーワンだろ。その中で浮いてるって言ってもな……」

「言い方を変えよう。浮き方の種類が似ている、と……! そう、こう……他から距離を置かれる感じ! 腫れ物に触れるような!」

「つまり同族意識の芽生えた仲良しさんってことですね!」

「その通ぉーり!! 正解だ、アルディークの娘さん!」

 酒の神様の主張を聞いて、思いました。

 それって全然なんの自慢にもならないよね、と。


 どうやら酒の神様と鍛冶の神様は仲が良いようで。


 そしてどっちに対しても、私は笑顔のまま無言で『はみ出し者』というレッテルを貼り付けました。







 誰も新キャラが『鍛冶の神』だとは言ってない。




次回:酒は飲んでも飲まれるな!

 のんべの神様との酒飲み対決が始まるよ☆


酒の神

 常に何かしらアルコールを摂取している神。

 お酒を飲むと気が大きくなり、酒の力で対人関係を成立させている。

 酒精が切れると対人能力が退化してコミュニケーションがままならなくなる。素面の時はとにかく布団に潜り込んで世界から隔絶されたがり、会話を振られても「お布団に帰りたい」しか言わなくなる。

 その時々で摂取しているアルコールによって性格に変化が生じる。

 鍛冶の神様とは里のはみ出し者同士とっても仲が良いらしい(酒の神談)。

 酒の力で気が大きくなっている時に生きずりの美しい娘さんに割と強引な求婚をかまして勢いで結婚した黒歴史がある。嫁さんは昔誰かに裏切られたことがあるらしく、人間不審気味の引籠り。ちなみに夫婦仲は意外にうまくいっているようだ。

 ちなみに嫁さんの口癖は「あんな男信じるんじゃなかった……」。



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