思うこと
そして、寝起きで無性に腹が立っていた俺は、あっちの車両からこっちの車両まで何度も往復しているであろう久遠を捕まえ、食ってかかった。
「お前、昨日に帰れるとか言わなかったよな!どういうつもりなんだよ!新しい場所に降りるってことしか俺は聞いてないぞ!」
「……新しい昨日に降りることも、それは出来ますよ。しかし、言わなかったことに他意はありません」
「……そうかよ!なら、切符の話だ!切符は、たとえかけら一片になっても、持っていなければならない!何故だ?なくなったらどうなるんだ!」
「……なくなれば降りて頂き、永遠にそこで生きもらいます。もしくは……」
「もしくは……?」
「車掌になって、永遠にこの世界をさ迷ってもらいます」
「何?それじゃあ……!」
「えぇ。私は、迷える時の旅人ですよ。切符をなくしたことで、この世界を永遠にさ迷うしかないのです」
俺は言葉をまくし立てて、カラカラに渇いた喉を潤したいと思ったが、食堂車に行くのもバツが悪く、その場に立ち尽くしていた。久遠は口をへの字に曲げて閉じ、目を伏せて黙り込んだ。
どれくらい時間が経ったろうか。山本が、食堂車から出て来た。俺は、カラカラの喉のまま、言葉を絞り出した。もう止まらなかった。
「……帰ればいいじゃないか、山本さん!もう十分、懺悔しただろう!?昨日へ帰ればいいんだよ。その資格はあるよ!帰ればいいんだよ!」
いきなり強い語気で話しかける俺に、山本は一瞬目を丸くしたが、すぐに目を伏せ、うつむいた。
「そうはいかんよ……。資格なんてないよ……」
「そんなことないよ!そんなことないって!家族と会いたくないのかよ!?なあ!」
俺はまるで聞き分けのない子供だ。そして山本は、そんな俺としっかり向き合って言葉を返す。返してくれる。
俺は久遠を一瞬見る。こいつにもしっかり話をしてもらいたい。そう思った瞬間、山本が声を荒げた。
「会いたいよそりゃあ!でも合わせる顔がないだろ!」
「関係ないよ!会いたいって気持ちがあるんなら、帰るべきですって!だって、大切でしょう!?」
俺も声を荒げた。もはや絶叫に近いものがあった。気持ちを抑えられなかった。山本にも、久遠に対しても。
「そりゃあ……!」
「俺は、嫁と娘がいなくてもいいって気持ちになったこともあった。でも、この世界に迷い込んで、結局は家族に会いたいって気持ちばかりが大きくなって行った。俺は帰りますよ!俺は明日、昨日に帰ります!山本さんも、帰りなさいよ!」
「俺は、重いもの背負う必要があるだろ!人を殺したんだから帰れないよ!都合良く昨日に帰るなんて、俺はしちゃいけないよ!」
「勝手に相手の明日を奪ったまま逃げるなよ!山本さんが帰れば、やり直せるじゃないか!山本さんも相手も!背負うなら、帰ってからでも出来るだろ!本当に背負うなら、帰るべきだよ!」
俺は泣きそうになって、声が震えた。
あんたが幸せになったっていいじゃないか。
俺のその一言に、山本は、ぽたりと一粒、涙をこぼした。




