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わかれ

 気付くと数時間がゆうに経過していて、俺と少女の間には奇妙な友情が生まれていた。俺の話はもちろん、少女の話も存分に聞いた。彼女はどうやら同性愛者の様で、内面は男であるらしかった。


「俺はよぉ、ウジウジ考える方じゃねぇんだわ。あ、今は別な。うん。……でよぉ、女が、俺のことを好きって言ったけど、俺的にそんな対象じゃなくてよぉ、ないないっつって突っぱねた話しただろ?そしたら塞ぎ込んじまってよぉ。そんでそれを見てたらこっちも心配になるじゃん?気になってくるじゃん?そんで気付いたら、俺も向こうのこと好きになっててよぉ、それとなく逆告白のタイミング窺ってたらよぉ、もう恋なんてしないとか言ってるの知ってよぉ。お前俺をその気にさせといて何じゃそりゃってならねぇ?そりゃ傷ついたんだろうけどよ、逆にこっちも傷ついたわ。俺のことずっと好きぐらいの気持ち持てよって思うわ。お前の好きって何なんだって思うわ。俺の好きの気持ちだけが育ってよぉ、俺だけ取り残されとるんだわ。もうよ、女ってわからんわ」


 俺は頷きながらも苦笑した。この少女、内面は完全に男だ。美貌と男前な性格でモテるのだろうが、本人は剛直でピュアで、スレていない性格だ。そしてそれを相手に受け止めてもらいたいのだ。普通なら自分が傷付かない距離感を堅持すればいいとアドバイスするところかもしれないが、この年頃の子には言うべきではないかもと思い、単純に、過去を変えればいいんじゃないかと意見してみた。この列車にはそれが出来るんじゃないかとも。


「まじかよ、乗る乗る!過去に戻れるとか、電車すげぇ!そんで告白を受けちまえばいいってことだろ?テツオ悪い奴だわぁ~☆」


 少女は俺の思い付きの提案を聞き、意気揚々と列車に乗り込んだ。ポケットには切符が入っていたらしく、乗車については問題ない様だった。そして次の日の朝、列車は駅に停車した。駅名は「の昨日」だった。の、の前には少女の名前が書いてある様だが、よく見えない。


「着いたみたいだわ。わくわくだわ」

「本当に昨日に帰れるのか……?駅は用意されているものだけではなく、降車する者の願う場所に、元の世界にも帰れるのか?」

「テツオ、お前が言ったんだろうが。まぁ何でもいいわ。サンキュな。ダチの証に、切符ちょい破って破片交換しようぜ」


 いつの間にか俺の切符をスっていた少女が、勝手に俺の切符の端を少し破る。そして俺の切符を返してきた。何て手癖の悪い子だと、別れを前に少し呆れたが、少女はにやにやと笑いながら、「テツオお前無用心だぞ、切符はちゃんと持っとけよ、しょうがねぇ奴だわ」と言った。しょうがねぇ奴はお前だろうと思い、俺は二度呆れたが、不思議と不快感はなく、自由でどこか憎めない少女には愛着の様な気持ちさえ湧いていて、何だか別れるのが寂しくなっていた。緩む涙腺をかんじながら少女をじっと見ていると、少女の大きな瞳も次第に揺れて水っぽくなり、遂にはぽろぽろと涙をこぼし始めた。少女は泣きながら自分の切符を大きく破り、俺に手渡した。少女の切符の破片は、約半分もの大きさで、もはや破片という大きさではなかった。こんなに大きく破って大丈夫なのか、と言ってみたが、「大丈夫だろ、サービスサービス」と、楽観的かつ、よくわからない気前のよさを見せた少女は、ややもするとがさつと見られやすそうな性格と裏腹に、容姿に見合った優雅な足どりで駅に降り立ち、そしてこちらに振り返った。


「じゃあなテツオ」

「俺の名前はテツロウ、だよ」

「……まじかよ初耳だわ。悪かったなオイ、テツロウ。名前間違えて覚えてたわ」

「……テツオでいいよ」

「んじゃテツオ」


 少女はぽろぽろと、依然として涙をこぼし続けている。とってもいい子だと思う。女にもこんな子がいるんだと思うと、嫁ともちゃんと話せば理解出来るんじゃないかと少し思えるし、娘はやはり、この子の様に真っ直ぐ育ってほしいと思った。今の嫁の育児が悪いわけじゃない。けれど、俺がもっと育児に介入せねばと思う。この子の様に真っ直ぐ育てるには、嫁に任せっきりではなく、一緒に育てなきゃだめだと、何だか思った。


 俺は少女の頭を撫でる。


「オイ、触んなよ~!」


 そう言って泣き笑いで俺の手を振り払った少女は、拳を前に突き出した。言葉遣いだけは、この子の様にはならない様に教えないとな、と思う。これはこれで味があるが。


「んじゃなテツオ。俺の切符、車掌に渡してやってくれよな。頼むわ」


 何故車掌に?あぁ、切符をきらせろということかと思い、俺は頷く。そして拳を突き出して、少女の拳に合わせた。少女は満足気な顔でこっちを見ている。


「またな車掌って言っといてほしいわ。あとバコヤシにもよろしく。お前の笑顔に価値はないって言ってやってほしいわ」

「絶対に言っておくよ。……ところで、君の名前は?」

「名乗る程のもんじゃねぇわ」


 扉が閉まる。そして列車は、少女の駅を後にした。

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