Episode.18 頼りになる助っ人
「あれが自分達の町、ウィンミルトンです」
翌日、準備を整えて出発するとすぐに目的の町ウィンミルトンが見えてきた。
ウィンミルトンは町の周囲が小麦畑や農作物の畑に囲まれており、その中を赤い風車が建ち並ぶ長閑な場所だった。
三人の話じゃ町の名前は、この風車からきているんだとか。
「いい眺めね」
思わず横にいたフィオがそう呟き、俺も全く同じ感想を抱いたので頷いた。
「ロストくん、町に着いたらトールの家で歓迎会をやるから楽しみにしててくれ」
「え、いいのか? ありがとう」
エリックが嬉しそうにそんな事を語り、悪い気がしない俺も自然と笑顔になる。
昨夜、三人と俺の呼び方について話し合った。
俺が何時までもさん付けだと緊張すると言い、それぞれ好きに呼んでくれとお願いしたのだ。
その結果、歳上だったエリックは俺をくん付けで呼び、他二人は呼び捨てにするという事になった。
ちなみに俺の年齢が24でエリックが25、トールが21でロナが19である。
歓迎会の事を楽しみにしながら、ウィンミルトンの入口までやって来ると何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「おうおう、さっさと酒と金を渡せやぁ!」
それは叫んでる言葉から、例の盗賊団の連中だと分かった。
「そうは言ってもですね? すぐに用意は……」
そんな奴らに絡まれて困った顔を浮かべているのは、この町の町長さんだと思われる。
「いいのかぁ? 素直に従わねぇと30人の仲間が町を襲うぞ?」
盗賊団の連中は三人おり、赤毛のギザギザ頭と緑髪のデブ、青髪の髭という構成だ。
面倒だから今後は赤ギザに緑デブ、青髭と呼ぶ事にする。
「お前ら、待ちやがれっ!」
立ち去るのを見守るべきか迷っていると、トールが何の策もなしに突っ込んで行った。
その様子を目にしたエリックが、困った様に頭を抱えながら見つめている。
俺も関わらない方が良さそうだ。
「何だぁ、お前はぁ?」
赤ギザが急に背後から現れたトールに睨みをきかせる。
「この町の者だよ、貴方達の好きにはさせないんだからっ!」
何時の間にかトールの隣にロナもおり、盗賊団を挑発する様な事を呟いている。
「嬢ちゃん、随分な態度だな」
後ろで様子を伺っていた青髭が二人に近付き、不気味に笑う。
どうやら、こいつがリーダーの様だ。
「殺されたくなかったら黙っているのが賢明だぜ、嬢ちゃん?」
赤ギザがロナに警告する様に呟き、トールの時と同じ様に睨みをきかせている。
「へっ、やられるのはお前らの方だ!」
トールは何処にそんな自信があるのか、盗賊団を挑発するのを止めない。
「そうよ、なんて言ったってこっちには賢者様……の居候がいるんだから!」
そのロナの一言で、無関係を貫こうとしていた俺の立ち位置が一瞬にして崩れる。
待って待って、ロナさん何て言いました?
「賢者様……の居候にかかればお前らなんか瞬殺だ!」
トールくん、君も待ちたまえ。
「さぁ、ロスト! やっちゃって!」
そこから始まるロストコール、引き返せるのなら今すぐ屋敷に引き返したい。
「あんた、呼ばれてるわよ?」
「……帰りたい」
フィオにそう言われ、泣きたいのを我慢しながら覚悟を決めて二人の元へ向かう。
向かっている最中、俺はどうすればこの状況を打破できるか必死に考えた。
その結果、俺が出した答えは――
「死にたくなければ立ち去るんだな、雑魚共!」
自分を強く見せるThe ハッタリ作戦だった。
Episode.18 頼りになる助っ人
「二度と舐めた口きくんじゃねぇぞ!」
「「すみませんでした!」」
立ち去る盗賊団に怒鳴られ、二人は土下座で謝罪する。
そして、その横にはボロ雑巾の如くフルボッコされた俺の姿……
The ハッタリ作戦は見事に失敗しました。
「……ロストくん、弱かったんだね」
哀れみに似た表情でエリックが俺に手を貸し、起こしてくれる。
「……言っただろ? 俺はただの居候なんだよ」
そんな事を呟きながら、突撃した二人を恨めしそうに見つめる。
「ごめんなさい、ロストがあんなに弱いなんて……」
ロナはそう頭を下げてくれるが、弱いという単語で俺の心が再び傷付いた。
「俺もすまん、賢者様の居候だから凄い奴だと思ったんだが……」
その冷ややかな視線やめて下さい。
「災難だったわね」
フィオも何時の間にか近くにおり、傷口を回復魔法で治療してくれる。
「そう思うなら助けてくれ」
「悪いけど、仲間が後何人いるか分からない状況で手は出せないわ」
その言葉にフィオは冷静な返答をし、反論出来なくなった俺は沈黙する。
「皆、大丈夫だったかい?」
そんな俺達の元に先程盗賊団に絡まれていた町長さんがやって来て声をかけてくれる。
「はい、自分達は大丈夫です、ただロストくんが……」
町長さんにエリックが応対し、俺の状態などの説明をしてくれる。
「それは大変だ、傷は塞がっているみたいだが念の為、私の家に来なさい」
町長さんのその申し出に一同頷くとエリックとトールに肩を貸してもらい、俺達は町長さんの家に向かった。




