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鎧暮らしの首だけ姫〜おひとり様おひとつ限り〜  作者: 風見鶏
第一章「どうしてここに生首が?」

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7


「はぃ!?」


 咄嗟に腕で庇おうとして––––いや、両手に生首を抱えているんだった。降り注ぐガラスから生首を守るために懐に抱きながら、とにかくその場から駆け出した。


「あ、待って、ください! 身体がっ、私のっ!」


 腕の中でくぐもった声。背後でガラスが地面に降り落ちる甲高い音。

 壁まで走りついて慌てて振り返ると、()()がゆっくりと降りてきたところだ。


 黒塗りの身体。あるいは鎧なのか、それとも甲殻なのか。直線と流線で構成された長躯の背中に、不釣り合いなほどに生々しい皮膜の翼が生えていた。トカゲのような尻尾を地面に引きずって、地面に足が立つ。ガチ、と鉄のような爪が地面に食い込んだ。


「……強制イベントのボス戦? しかも絶対に死ぬやつ」

「おっしゃる意味がよく分かりませんが……あの、私の身体……」

「いや無理無理無理。どう見ても化け物だろあれ」


 前世の記憶はなんの優位にも働かず、それどころかこの世界で生きるということに問題を起こしている。現実はどちらかも分からず、常に夢の中か劇場の幕の向こうを眺めるみたいに、人生を他人事のように感じる感覚がへばりついていた。


 なのに今ばかりは、垂れ下がっていた幕が開いている。背筋の寒気が止まらない。手足が震えて、頭から血が下がり、呼吸すらままならない。視界がかつてないほど––––世界が、はっきりと見える。自分がようやく一つとして定まっている。


 絶対的な恐怖。明確な死が、僕を現実という地面に引きずり下ろしたのだ。

 呼吸が荒くなっている。自分は呼吸をしている。恐怖。そして同時に……これは、喜びだった。生きている実感。ずっと離れていたその手触りが、いま目の前にあった。


 黒塗りの化け物は僕を見る。しかしすぐに興味をなくしたように首を回し、倒れたままの少女の身体を見つけた。


「お、おい! 待てよ!」

「待って! それは私の!」


 呼びかけたのは同時。けれど目的は違った。生首が求めるのは身体で、空虚を抱えた僕は化け物それ自体を。

 けれど言葉は平等に無価値で、化け物は少女の身体を小脇に抱えると、その場で翼を広げた。


 飛翔。


 ガラスと塵が暴風に巻き上げられ、僕は近づくことも叶わない。

 来たときと同じように唐突に、そして非情なほど呆気なく、僕に生を刻みこんだ化け物はいなくなってしまった。


「ああ……」


 抱えた生首の少女が力の抜けた声を漏らした。

 僕らは二人して呆然と、そして名残惜しむ気持ちばかりは共有しながら、ただ天井を見上げているしかなかった。



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