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鎧暮らしの首だけ姫〜おひとり様おひとつ限り〜  作者: 風見鶏
第二章「初級迷宮アレスト廃村でゴブリンを爆殺しよう」

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「セソラス、ですか?」


 ミドの疑問げな声に、イリスが「はい」と頷いた。


「迷宮の仕組みはまだ解明されていないことばかりなのですが、魔物が貴重な武器防具を持っていたり、魔術の呪文書(スクロール)や、不思議な効果を秘めた魔道具を落とすことがあるそうなんです。他にも、迷宮の隠された小部屋に貴重なものが隠されていたり……そういう、迷宮でだけ手に入る希少なものを魔物の宝物(セソラス)と呼ぶんです」

「はええ、それは不思議な話ですねえ」


 感心して頷くミドに、僕は苦笑した。自分自身がほとんど同じ状況だということは気づいていないらしい。僕にとってはミドもまたセソラスみたいな拾い物なんだけれど。


「これがセソラスだとしたら、売ると良い値段がするのかな」

「そういうものを好む好事家はいますし、冒険者にも欲しがる人はいると思いますけど……」

「手に入れるほうが難しいんでしょ? 自分で使うほうが長く見たら得なんじゃないの? セソラスの武具ってそれ自体にスキルが付与されてるって話、聞いたことあるけど」


 クロエの言葉にミドが驚いたように肩を上げた。表情は見えないのに、動きだけで感情表現ができるのは才能かもしれない。


「物にもスキルがあるんですかっ!」

「変な話だけどね。正確には魔術がかかってる、って感じかも。切れ味がよく上がるとか、風の刃を飛ばせるとか。なんか色々あるわよ」


 セソラスの話はよく耳にしていた。貴族というのは物珍しいものを手に入れて自慢するのがステータスだ。貧乏貴族のうちには縁がなかったけれど、有用なスキルが付与された武具に金貨を山積みにする、という話は珍しくない。


「この弓にもそういうスキルがあるといいね。良い値段がついたほうが嬉しいし」

「トモス様は売る方向でお考えですか?」

「まあ、その方が話が早いかな。イリアとクロエは、弓は使える?」


 ふたりともが首を左右に振る。


「ミドは、その鎧じゃ弓を引くのも難しいだろうし」

「トモスも使えないの?」


 とクロエ。

 僕は黒い弓の張り具合を確かめるために弦を引く。


「使えるよ。よく鳥を射ってた」

「使えるんじゃないのよ!」

「なんで怒るかな」

「まるで自分はさっぱり使えない、という口ぶりでしたよね……?」


 イリアにも苦笑されてしまう。

 弓の扱いは習熟が必要で、普通は狩人か兵士でもないと実戦じゃ役に立たない。しかし曲がりなりにも貴族になると、狩りが嗜みになる。貴族の偉い人はとにかく鳥やら鹿やらを山で狩るのが趣味になるから、お付き合いする格下の貴族もそういう技術を学ばざるを得ないのだ。


 もっとも、うちはもっぱら狩りで手に入れた肉で食費を削減するのが目的だったけれども。

 ゴブリンが使っていたにしては弦の張り具合も悪くない。むしろ今の僕には少し強すぎるくらいだ。


「悪くはないけど……」

「けど?」


 とミドが首を傾げる。


「これを売って、その代金で安い弓でも買ったほうが効率的な気もするなあ」

「冒険者にあるまじき節約思考ね……普通、セソラスの武具ってさ、冒険者の憧れみたいなものじゃない? 一度は手にしてみたい、っていうかさ」


 クロエが呆れた目で僕をみている。まさか年若い少女に男のロマンを諭される日が来るとはね……。


「そうは言ってもさ、これ、みんなで手に入れた物でしょ。僕ひとりが使うのは不公平になるし」

「べつにならないわよ。こっちは命を救われてるし。むしろ喜んで権利を譲るわ」

「わたしもクロエと同じ意見です。使えるのでしたら、トモス様がお持ちになるべきかと」

「私もそう思います!」

「ええ……うーん……そこまで言ってくれるなら、試しに使ってみようかな」

「それでいいんじゃない? 売るのなんていつでもできるし」

「ちょうど頼もしい前衛が増えたからね。僕の立場がなくて困ってたんだ。これからは後衛に回るよ」

「……ちょっと。あたしが責任感じるでしょ、それ」

「冗談だよ」


 奇しくも弓という新しい武器が手に入ったのは、確かに都合が良いかもしれない。ミドも大楯があれば十分に前衛となることがわかったし。


 その時、イリアが「トモス様」と声をかけた。

 顔を向ければ、町の方からゴブリンが数体、走ってくるのが見えている。


「……ちょっとゆっくりし過ぎたか。これだけ騒げばゴブリンも集まってくるよね」

「どうしますか、トモスさま」


 ミドが大楯を構えて僕の前に出る。


「さて、大激闘のあとなんだけど、今度は尻尾巻いて逃げ帰ろうか。ミド、先頭に立って突っ走れ!」

「はいっ!」


 ミドが大楯を構えて走り出す。ゴブリンを弾き飛ばして進む後ろ姿は、それはもう戦車かブルドーザーみたいで、見ているこっちが爽快だった。




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