12
「お疲れ様。頼もしかったよ。ミドのおかげで切り抜けられた」
ぽん、と背中を叩く。
「……トモスさまぁ、怖かったですぅ……ッ!」
「もう終わったよ。大丈夫」
「えぐぅぅ」
やけに冷静だなと思っていたのだけれど、ミドなりに気を張っていたからだったらしい。甲冑の中で鼻を啜る音が響いている。まあ、記憶も経験もないのに、いきなり矢面に立って魔物と戦ったのだ。怖くて当然だろう。
意味があるのかどうかは知らないけれども、気持ちだけは示そうとミドの頭を撫でておく。
「……トモスさま、わたしも頑張りました」
イリアが頬を膨らませて、じっと僕を見上げる。
「あ、ああ、うん。もちろん。イリアがいなかったらあのハンター・ゴブリンは倒せなかったよ」
「そうでしょう? そうですよね? わたし、お役に立てましたよねっ! では」
何が「では」なのか。イリアが薄桃色の頭をちょこんと差し出している。これで正解なのだろうかと、その頭を撫でてみる。さらりと柔らかい髪の毛の感触。
「……これ、嬉しいの?」
「満足です」
むふふ、と微笑んでいる。それなら良いんだけれども。
「トモス、これ。落ちてたわよ」
「あ、僕の剣。ありがとう」
クロエが差し出してくれた剣を受け取り、鞘に納める。
「クロエもよく頑張ってくれた。ウォーリア・ゴブリンを仕留める大手柄だ」
「ありがと。けど、最初から最後まで作戦を立てたのはトモスだし。あたしは自分の仕事をしただけよ」
「……クロエも撫でようか?」
「い、いらない! 気安く撫でようとするなっ!」
手を伸ばしたら怒られてしまった。誰でも嬉しいというものでもないらしい。
兎にも角にも、戦いは終わった。支配者を倒したのだ。これで初級迷宮からも卒業ということになる。
僕らはウォーリア・ゴブリンから、討伐の証となる魔石と、大ぶりの斧を回収した。身につけていた鎧と兜は粗悪そうだし、熱で変形もしていたのでそのままにする。
それから連れ立って、坂を下っていく。ハンター・ゴブリンが陣取っていた家までやってきたけれど、二階部分は見事に吹き飛んで黒焦げだし、周囲には瓦礫やら木材が散らばり、焦げ臭いばかりである。
「……ハンター・ゴブリンの魔石は回収できないかな」
「すごい爆発でしたもんね」
とミドが興味深そうに辺りを見回している。
「死体ごと吹き飛んだんじゃない?」
とクロエ。
「そんなに褒められると照れてしまいます」
とイリアが頬を赤らめている。
褒めている……のか……?
実際にイリアのスキルである爆弾のおかげでハンター・ゴブリンを討伐できたのだから、手柄はイリアになるだろう。ただ、これほどの破壊力を秘めた爆弾が不規則に出てくるというのは不安が残るかも、という引き攣った笑いが出てくる。
「––––あ、トモスさま、あれ!」
と、ミドが指差し、家から離れた場所にひっくり返っている屋根の一部に駆け寄った。「よいしょ」という軽い掛け声でそれを退けると、下敷きになっていたものを引っ張り出して持ってくる。
「これ、ハンター・ゴブリンが使ってた弓みたいだ」
黒拵えの弓には金地で装飾も施されていて、他のゴブリンが持っているような粗末な武器とは明らかに違って上質なのが見てわかる。
「ゴブリンには不相応よね? 冒険者のものを奪ったのかしら」
首を傾げるクロエに、イリアが「あっ」と小さく声を上げた。
「あの、もしかすると、これがセソラスではありませんか?」




