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手早く説明する。クロエもイリアも目を丸くして、ミドは「なるほど」とただ頷いて。今回は意見を募る余裕もなく、僕らはすぐさま立ち上がる。
ミドを先頭にして、そのすぐ背後にクロエが剣を手に待つ。
イリアは再び”火槍”の詠唱に取り掛かり、剣を外に置いてきた僕は、イリアの傍らでその時を待っている。
「ミドには囮役を任せる。怖いだろうけど、頼むよ」
「はい、おまかせを!」
「クロエは矢を避けることに集中して。ウォーリアを倒すのは後でいい」
「大丈夫よ。飛んでくるってわかってたら容易いわ」
「イリアは狙いをしっかり。当てようとは思わなくていいから」
詠唱しながら、ただ頷きが返ってくる。
そのとき、扉ががぁんと叩かれた。めきめきと割れ、斧の黒光りする刃が覗く。
「ミド、もてなしてやれ!」
はい、という返事とともに、ミドが大楯を構えて扉に体当たりをした。大楯が扉をぶん殴り、吹き飛ぶように開く。光が雪崩れ込む。
ミドの体当たりで押し戻されたウォーリアが地面を転がっている。外に飛び出したミドに目掛けて、すぐさま矢が飛んできた。大楯に弾かれるのを見て、クロエが身を低く表に駆け出した。
「––––トモス様、準備できました」
同時に、イリアの頭上に炎の槍が浮かぶ。槍の形に押し込められた炎が納屋を明るくしている。その光に照らされて、爆弾が浮かんでいる。
僕は手を伸ばし、その爆弾に触れた。冷たく、固く、ざらりとした鉄の感触。ずしりとした重みを抱え、火の槍に押しつける。
「––––”繋がれ”」
赤い光。それはすぐさま消えて、槍の下部に爆弾がくっついている。
「イリア、狙いはいい?」
「はい。見えます」
事前に短くしておいた導火線を槍に押し付けると、すぐに火がつく。じりじりと燃えていく導火線は、もうほとんど余裕がない。
「いくよ。3、2、1––––撃て!」
「––––”火槍”ッ!」
ごうっ、と熱風を巻いて、火槍が納屋から飛び出した。それはまっすぐにハンター・ゴブリンのいる家に向かっていく。飛び出したミドとクロエに矢を射掛ける事に夢中で、ハンター・ゴブリンの反応が遅れた。
慌てて家から飛び降りようと身を構えたときには、もう火槍は家に着弾している。
距離が離れていたことで、火槍の威力はほとんど残っていなかった。屋根を焼くことすらなく、火槍は霧散する。けれど爆弾がごろんと転がり––––導火線が燃え尽きた次の瞬間、盛大な花火が上がった。
「……すげえ威力じゃん」
「えへへ、恐縮です」
ドン引きする僕に、イリアが恥ずかしそうに俯いている。
爆弾は家の上部を丸々吹き飛ばし、炎を巻き上げ、黒い煙を盛大に上げていた。あれじゃハンター・ゴブリンも跡形なく消し飛んだだろう。
これでよし、と加勢しようと駆け出せば、すでに決着がつくところだった。
ウォーリア・ゴブリンの一撃を、ミドが弾き返す。たたらを踏んで姿勢を崩したその懐に、すかさずクロエが入り込んだ。地を這うような姿勢から振り上げた剣は、存分にウォーリア・ゴブリンの身体を斬る。その剣撃の勢いままにその場でくるりと回転し、とどめの刺突。それは喉を貫き、確実に魔物を仕留めたのだった。
どす、とウォーリア・ゴブリンの膝が崩れ落ち、そのまま背後に倒れ込んだ。
戦いの後には戸惑うような静寂が残る。達成感も満足感もない。誰かが試合終了の笛を鳴らすこともないし、ゲーム画面のようにリザルト画面が出ることもないからだ。
戦闘という非日常は地続きとなって、僕らの緊張の糸を引っ張り続ける。
それは貴族という温室育ちの僕よりも、剣術を学んだクロエのほうがより顕著で、彼女は剣を構えたままミドと背中を合わせ、倒れ伏したウォーリアだけでなく、周囲にも視線を配って警戒を怠らない。
イリアもまた杖を眼前に掲げ、遠く燃え盛る屋根を注視していた。ハンター・ゴブリンが生き残っていれば、すぐさま追撃を行えるようにしている。
戦い慣れしているふたりに頼もしさを覚えつつ、いちおう、僕もぐるりと周囲を確認してから、ミドに歩み寄った。




