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鎧暮らしの首だけ姫〜おひとり様おひとつ限り〜  作者: 風見鶏
第二章「初級迷宮アレスト廃村でゴブリンを爆殺しよう」

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7


「––––ぇ?」

「はい、これで止まったでしょ。火が付いてなかったら爆発しないよ」

「……」


 切れた導火線は地面に落ち、燃え尽きるのと同時に魔力として霧散する。ただ、イリアの背後に浮いている爆弾はそのままだ。残っている導火線に着火すると、また使えるのかもしれない。


「うーん、見るからに強そうだ。ねえ、これを支配者との戦いに利用できないかな。投げ込んで爆発させたらそれで勝てそうな気がするんだけどさ」


 思いつきを言葉にしてイリアに顔を向ける。


「……どしたの?」


 イリアは、口を小さく開けて、ぽかんと僕を見ている。すると、大きな瞳から一粒、ぽろっと涙が溢れたかと思うと、イリアの表情がくしゃりと歪んだ。


「う」

「う?」

「うええええええん!」

「ええええ」


 動揺するのはこっちだ。イリアはまるで幼子みたいに大口を開け、ぼろぼろと涙をこぼし、顔を真っ赤にさせて泣き出したのだった。


 思わず後ずさった僕の代わりに、クロエがイリアに駆け寄った。宥めながら抱きしめて言葉をかけている。僕は見ていることしかできない。

 ミドがそっと寄ってきて、僕の肘をつついた。


「トモスさま、泣いてますよ」

「え、僕のせい? なんで?」

「女の子を、泣かせてますよ」

「悪いことしてないよね? え、だめだったの!?」

「罪な方ですねえ」

「記憶ないくせになんで分かった風なんだよ」


 泣かせたからには謝ることに異議はないのだけれど、何を謝ったらいいのかも分からないんじゃ誠意の込めようもない。困ったな、とおろおろして待っていると、クロエに肩を抱かれながらイリアがそばにやってくる。

 まだしゃくりあげながら、イリアが目尻を赤くして僕に頭を下げた。


「すみません、急に泣きだしてしまって」

「いや、こちら、こそ? ごめん、何が悪かったのか分かってなくて。教えてくれると助かるんだけど」

「違うんですっ、トモス様はなにも悪くなくて!」とイリアが首を左右に振る。「その反対で、あの、嬉しくて、驚いて、それで急に涙が出てしまって」

「嬉しい?」


 戸惑う僕に、クロエが説明してくれる。


「……イリアは、優しくてとっても良い子なんだけど、このスキルのせいで昔から困ってたの。急に爆弾が出るし、導火線はどうやっても消せないから止められないし。一緒にいていつ爆発するのかって、みんなから避けられてたのよ」

「ああ……それは苦労、したね?」


 いつ爆弾が出てくるか分からないとなると、たしかに怖い、のか?


「寝てる間にも爆弾が出るの?」

「……いいえ、意識がないときは、発動しません」

「じゃあ、爆弾が出てもイリアがちゃんと対応してきたわけだ。導火線もついてるし、そんなに危なくないんじゃない? 酒場で酔ってる冒険者のおっさんとかの方が怖いけどなあ」


 安全装置があるぶん、むしろ安全な道具の類だと思うのだけど。

 酔っ払いの喧嘩で刃傷沙汰になるのがこの世界だ。倫理観の弱い乱暴者が振り回す剣の方がよほど危険だと思う。


「うぐう」

「いや、また泣かないでよ。泣き声も変だし」

「トモスさまっ」


 ごす、とミドに肘打ちされる。鎧の肘は硬くて痛いんだけどさ。思わずうずくまった僕を見て、イリアは涙を拭いながら笑うというややこしい感情表現をしている。


「わたし、あの、このスキルのせいで、たくさん迷惑をかけていて……迷宮でなら、この爆弾も役に立つかもしれないと思って、冒険者になったんです。でも、冒険者の方々にも疎まれてしまって……だから、あのっ、わたし、お邪魔じゃありませんか」


 ああ、冒険者は嫌がるかもな、と冷静には思う。

 命懸けで迷宮を探索する冒険者にとって、いちばん嫌がられるのは不測の事態だ。爆弾がだめなのではなくて、スキルとしての能力を使いこなせていないことが危ぶまれたのかなと思う。万が一にでも急に爆発するかもしれないという可能性を抱えることを避けられたのだろう。


「うーん、危ないことは危ないけど。ちゃんと使いこなせてないし」

「はうっ」

「でも今後に期待かな? スキルなら使えば慣れるだろうし。慣れたら便利そうだし。いざとなったら僕が止められるから、別に邪魔じゃないかな」

「––––! じゃあ、あのあのっ、これから二人でご一緒しても良いでしょうか!?」


 イリアだけでなく、隣にいるクロエも不安そうな表情で僕らを見ている。


「そういえば、一回探索してから決定するって話だったっけ? 自分で言っておいてなんだけど、それを忘れるくらい不満がない働きぶりだった。ミドはどう思う?」

「はい、トモスさまが賛成なら、私も大賛成です!」

「委任ありがとう。そういうことだから、これからよろしく」


 イリアとクロエの歓声が響いた。




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