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鎧暮らしの首だけ姫〜おひとり様おひとつ限り〜  作者: 風見鶏
第二章「初級迷宮アレスト廃村でゴブリンを爆殺しよう」

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「いや、さびれた市役所の相談窓口じゃないんだからさ」

「しやくしょ?」

「なんでもない」


 僕はギルドの受付カウンターからさらに通路を進み、奥まった小部屋群の一室を前にしていた。扉の上にはプレートがかけられ、そこには「迷宮探索支援室」とご丁寧に書かれている。

 ギルドの職員に、ボスについての情報収集なんかを相談してみたところ、面倒くさそうにここを案内されたのだった。


 周囲を見回す。薄暗い廊下に扉が並んでいるが、僕ら以外には誰もいない。廊下を出たすぐ先では冒険者たちの喧騒が溢れているのに、ここばかりが急に辺境の気配を漂わせていた。


「……何事も準備が大事のはず、なんだけどな」

「はい、準備は大事です!」

「冒険者は例外なのか、ここが相当、評判が悪いのか」


 まあ、行ってみない事には分からないか。

 ちょっとばかり気負いながら、僕は扉をノックした。


「……」


 反応がない。

 もう一度。


 ガタン! と慌ただしく何かが倒れ、どさどさどさ! と本が崩れ落ちるような音。それからバタバタと走り、「あっ」と小さな悲鳴。どたぁん、と何かが倒れる。


「……よしっ、帰ろうか。情報収集は別のところでやろう」

「え、あ、いいんですか?」

「大丈夫。さっさと離れよう」


 と踵を返したそのとき、扉が開かれた。


「お、お待ちください! すみません! 滅多に訪ねてくださる方がいらっしゃらなくて!」

「人違いです」

「間違えてませんよ!? さあ! さあさあ! どうぞ中へ!」


 出迎えてくれたのは、くすんだ金髪をひと結びにした二十代半ばの女性だった。濃い赤色のタートルネックに白衣を羽織る姿は、研究者か医療関係者の雰囲気がある。大きな丸眼鏡を両手で支えながら、女性が扉の中へ誘導する。

 タイミングを逃したのなら仕方ない。僕は諦めて中に入った。ミドも後ろについてくる。


「さあ、その椅子に……ああっ! ごめんなさい! すぐに片付けますからっ」


 部屋は狭かった。窓もないせいで息苦しいのに、壁は本棚で埋まっていて余計に圧迫感がある。中央には応接用のテーブルと椅子が並んでいたが、そこまで本や書類で埋まっていた。


 明らかに来客がいない、店構えも店内も寂れ切った田舎のラーメン屋に入ってしまった気分だった。まるで期待ができないけれど、席に案内された以上はもう帰ることはできない、なんとも言えない気まずさがある。


 女性はどさどさと椅子の上から本や書類を床に移し、さあどうぞ、と笑顔で示す。

 僕らが渋々と椅子に腰掛けると、女性も対面の椅子に腰掛けた。視界の下半分が書類の山で隠れていて、女性の鼻から上しか覗けない。


「改めまして、ようこそ迷宮探索支援室へ。わたし、担当官のクラルスと申します!」 

「はあ……どうも。トモスです。青銅級です」

「ミドと申します! トモスさまの盾をする予定です!」

「まあ、それはご立派ですね」


 人によっては誤解を生みそうなミドの言葉にも、クラルスはにこにこと頷きを返した。人が良いのか、鷹揚なのか。


「それで、今日はどんなご用件でしょう!」


 適当に嘘をついてさっさと帰ることも考えたのだけれど、久々の仕事にきらきらと瞳を輝かせるクラルスを前に、まあ悪い人ではないかと、素直に相談してみることにした。


「いま、初級迷宮の、なんちゃらの村を探索しているんですけど」

「アレスト廃村ですね! 村からは街道が延びているのですが、一定の距離を離れると勝手に転移門に戻されるんです。明らかに人の暮らしが見られるのですが、村民の痕跡はまるでありませんし、教会も歴史書に残る限りのどこの宗派にも属するものではなくて、いまも研究が進んでいてですね」

「あ、そういう文化的な話は大丈夫です」

「えっ……そう、ですか」


 しょんぼりされても困るんだけどな。


「初級迷宮を攻略するために、ボス––––支配者について聞きたいんですけど」

「あ、支配者ですね! でしたら」


 とクラルスは机の上の書類の山を指でなぞり、半ばほどから「がさっ」と薄い冊子を引き抜いた。

 いや、背表紙も見えてないのに判別ついてるのかよ。


「アレスト廃村の魔物生態はすごく単純で、基本的にはゴブリンしか存在しません。ゴブリンの侵略によって呑み込まれた村、ということなのだと思います」


 冊子が開かれ、僕の方に差し向けられた。そこには中々にリアルな魔物の絵が描かれていた。迷宮で嫌になるほど見てきたゴブリンである。クラルスがページを捲る。


「初級迷宮の支配者は、教会からは反対側にまっすぐ村を出た丘で出現します。ギルドは『ウォーリア・ゴブリン』と名付けています。危険度はランク2。初心者の冒険者でしたら、二人以上での討伐が推奨されていますね」


 描かれているゴブリンは確かに戦士と名乗るのに相応しい見た目をしていた。普通のゴブリンは背も小さく、貧弱な肉体で、ろくな防具も武器も装備していないものだ。


 けれどウォーリア・ゴブリンは角の生えた兜に、丸盾、斧というやる気に溢れた武器に、肩当てから腰巻まで身につけ、戦うための準備は万全に整っている。


「ぱっと見は、ちょっと強そうなゴブリンって感じか」

「討伐された方からのご意見もありますが、お聞きになりますか?」

「口コミ評価あるんだ……」



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