15
僕とミドは顔を見合わせる。僕は肩をすくめて、兜を拾い上げてミドに被せ直した。
「様子見を見てくる。待ってる?」
「いえっ、ご一緒します!」
「やる気だけは一人前なんだけどなあ」
その気力をゴブリンにも向けてくれると僕は楽ができるんだけれど。
処刑剣を抜き身にして扉に向かう。隙間から外を見れば、冒険者がゴブリンの集団に囲まれているところだった。村から教会の広場まで逃げ込んできたのか、坂を登って囲いに加わるゴブリンが増えていく。
「……ええぇ……? なんであんなにゴブリンいるの? 集団登校中? あ、これがトレインってやつ?」
「トレイン、ですか?」
後ろで立っているミドに顔を向ける。
「敵を後ろにくっつけて逃げ回る姿が電車ごっこみたいでしょ。ネトゲの用語だった気がする」
「でんしゃ? ねとげ?」
「また今度教えるよ。話すと長いから」
記憶に昔になりつつあるのだけれど、例え話なんかのときにはついつい元の世界の用語を使ってしまうものだ。説明するにも難しいことは誤魔化しておいて、僕はそっと扉を狭めた。細い視界で状況を観察する。
「あー……新米冒険者がふたりで囲まれてるっぽい。なんでこんなことになってんだろ」
「こんなこと?」
ミドがずずいと僕の下に潜り込んで、隙間から外を眺める。兜の視界の狭さにもぞもぞもと顔を動かしながら、ようやく外を確かめたらしい。
「え、あ、た、大変ですよ!? あんなに凶暴なゴブリンさんがたくさんいますっ!」
「あんなに凶暴っていうか、まあ本当は雑魚なんだけどさ。これだけ数も揃うとまずいよね。さ、裏手から逃げよう」
「ど、どうして扉を閉めるんです!?」
「いや、巻き込まれたまずいでしょ。助ける義理もないし、こっちが危険だし」
いくら雑魚とはいえ、こっちだってまだまだ雑魚なのだ。ゴブリンの脅威は数。囲まれて生き残れるほど容易くはない。
「……そ、それは、そうなのですが」
僕はさっさと踵を返して歩き出す。振り返ると、ミドは扉の前から動いていない。
「ほら、早く行くよ」
「––––トモスさまはお逃げください! 私、ここで時間稼ぎをしますっ!」
拳を固めて声を振り絞り、ミドは扉に手をかけた。それは恐怖かためらいか、ぐっと何かを溜め込み、押し殺し、身体ごとぶつかるようにして飛び出していった。
「時間稼ぎって、武器も持ってないだろ」
扉は開け放たれている。ゴブリンの集団に両手を振り回して突っ込んでいくミドの背中を見る。わああ、と、気持ちだけは一丁前な掛け声。
「……分かった。分かりました。やりますよ、僕も」
ため息。なんだってこんな危なくて得がない事を……と思いながらも、ほんの少しだけ世界を妨げる白い膜が薄くなるような気がして、それもまた不思議だった。
剣を肩に担いで、僕も駆け出した。




