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そもそも冒険者はパーティーを組むものだ。何が起こるかもしれず、集団で襲ってくることもある魔物を相手に、ひとりで挑むというのはあまりに愚かしい。ひとりよりふたり、ふたりより三人。多ければ多いほど、安全性は増す。
ミドがか弱い少女であれば、迷宮に連れて行こうとは思えなかったかもしれない。けれど今、ミドは生身を失い、鉄の身体を手に入れた。甲冑で全身を覆っていれば、並大抵の攻撃はものともしないはず。言い方は悪いが、盾役としてピッタリなのでは。僕の安全性も増すし、お金を稼ぐのにも効率的なのでは。
と能天気に思えていたのは三十分も前までだった。
「ひえっ、ごめんなさい、ゆるしてくださいっ、ああ、いたい! いたいです!」
「うーん」
「助けて! トモスさま! 助けてください! しんでしまいますっ!」
「うーん」
「ぴええええ」
「だめかあ」
腕を組んで眺める先で、ミドがゴブリンにボコボコにされていた。
うずくまって頭を抱えているミドの背中を、ゴブリンが必死に棍棒で叩き続けている。がぁん、ごぉん、と虚しい鐘のような音が鳴る合間に、ミドの悲鳴が響いていた。
「何事も思う通りにはならないもんだよなあ」
「トモスさまあああ!」
がぁん。ごぉん。
仕方なく見切りをつけて、僕は剣を抜いた。さくっとゴブリンを倒す。
「ありがとうございます……! でも、もし可能でしたらもっと早く助けてください……っ」
ミドが座り込んでぜえぜえと息を荒くしている。こんなに情けない甲冑姿を見ることはないだろう。
「ぜんぜん効いてないでしょ。甲冑も凹みひとつないし」
これでもちゃんとゴブリンを選別したのだ。刃物ではなく鈍器、それも粗末な木の棍棒を握ったゴブリンを探して、すぐに助けに入れるようにした上で戦わせたのだけれど。
「こ、こわかった、です……っ!」
ミドが怯えすぎなのか、世間一般ではこれが普通の反応なのか。判断はつかないけれど。少なくとも、盾役を任せるという目論見は無駄になりそうだ。
「前線で戦えない甲冑って、なんの意味が……?」
「はうっ……あの、頑張ります! 私、頑張りますから、捨てないでくださいっ」
がし、と足に縋りつかれる。
美少女にそんなことをされていると思うとモテる男の夢のような状況な気もしたが、よく見なくともそこにいるのは甲冑だし。長い鼻と犬耳が付いているし。せめて顔だけでも見えていれば雰囲気は出るのだけれど、甲冑相手じゃ気持ちもさっぱり動かない。
「うーん。荷物持ち、かなあ」
「はい! 私、荷物をたくさん持てます!」
「別にまだいらないんだけどさ……」
「そんなすげない事を仰らずっ」
探索中に試してみたのだけれど、どういう理屈でそうなったのか、ミドはかなりの力持ちだということは判明していた。そこら辺に放置されていた荷車をひょいと持ち上げられるくらいだ。だから大楯でも大剣でも持って振り回してくれたほうがずっと助かるのだけれど、本人の気質ばかりは如何ともしようがない。
慣れろというのは簡単だけれど、いざというときに崩れられたらそれこそ予想外のリスクになる。だったら最初から戦力に数えないほうが判断が容易だろう。とりあえず、ゴブリンにボコられる人間を鍛えるのは僕には無理だし。
「……じゃあ、まあ、結果は出たんだけど、せっかく来たんだしもうちょっと稼いでいくよ。後ろで見てて」
「はい! お任せください!」
「返事は自信満々なんだよなあ」
まあ、悪い子ではない。それにひとりでゴブリンとどつき合うよりも、後ろで一緒に騒いだり応援してくれる人がいるというのは、気持ちの面ではありがたいかもしれなかった。




