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鎧暮らしの首だけ姫〜おひとり様おひとつ限り〜  作者: 風見鶏
第一章「どうしてここに生首が?」

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「身体を取り戻さなきゃいけないよな」

「はい。自分のことさえはっきりしませんが、身体が必要なことはわかります」


 そりゃそうだ。生首のままじゃ不便だろうし。

 素焼きのカップに入った果実酒を舐めるように飲み、その匂いの豊かさ、アルコールの香りに感動しながら、僕はふむと悩んだ。


「いや、普通は断るでしょ」

「うっ。それは、そうです。私もそう思います……なにかお礼ができれば、よかったのですが……」


 ミドが生首のまましょんぼりと目を伏せる。

 どこの誰とも知れず、おまけに首ひとつ。この場合、美少女だからという言い訳は加点にも何もならない。生首というだけで社会的に死ぬ可能性すら高いのだから。


「取り返すって言っても、どこに行けば良いのかも分からないし」

「……はい。その通りです」


 迷宮の中で奪われて以上、手がかりを頼るのは迷宮しかない。けれど迷宮なんて広すぎるし、そもそも迷宮の外にあるかもしれない。


「しかも、あのヤバいやつがまた来るかも」

「……うう」


 ミドが弱りきった様子でうめいた。

 黒い騎士甲冑に、生命的な甲殻と、翼や尾を捻り合わせたようなヤバいやつ。あれが魔物なのかどうかも分からない。ただ、目にしただけで全身が震えて命が剥き出しになる。

 普通なら絶対にお断りだろう。絶対に。普通なら。


「––––でも、いいよ。一緒に探す」

「よ、よろしいんですか?」


 僕は頷く。酒が入ったおかげか、時間が落ち着きを取り戻したのか。死にかけたはずのあの一瞬はもう過ぎ去った時間になって、僕は平静となっている。また元通りに白い膜が視界を包み込んで、口にする果実酒に味はない。


 あいつに出会った瞬間、僕は生きている実感を取り戻せた。この世界が虚構や幻や作り物めいたものではなく、本物の現実なのだと思えた。

 あいつはミドの身体を目的にしていたのは間違いない。


 けれど、忘れ物をしている。

 僕はミドを見下ろす。縋るような瞳が僕を見上げている。


 ここに、頭がある。


 それに気づいたあいつが、ミドを取り戻しにくる可能性がある。そうすればもう一度出会えるだろう。そしたらまた、僕は生きる実感を取り戻せるんじゃないか、それが希望だった。


「どうせやりたいこともなかったし。ただ迷宮で生活費を稼ぐより、目標がある方がやりがいがある」

「トモスさま……本当に、ありがとうございます」

「礼を言われることじゃないよ」


 なにしろ善意じゃない。僕は僕の私欲の理由で、ミドに協力するというだけで。


「ただ、それにしたって生首のまんまじゃまずいよね」

「それは、はい。そうですね。不便ですし……」


 肩身離さず生首を持ち歩くのはどう考えたってヤバいやつだ。僕がいくら現実味を感じないからといって、ヤバいという判断はつく。迷宮に潜るのに生首という荷物を抱えているのも面倒だし。


「ううん。代用できる身体があればいいんだけど」

「代用、ですか?」


 僕は飲み干した素焼きのカップを屋台に返し、通りを戻ることにした。迷宮の門が存在するのは街の端っこに位置するギルドで、その周りには冒険者のための店や施設が集まっている。


 通りから店を覗き込んで眺めながら、裏路地に入る。大通りに面した店は、立地が良いぶん値段も質も高い。裏通りは昼間にも関わらず陰気臭い影が落っこちてはいるけれど、それはそれで落ち着くような雑多な雰囲気だった。裏通りを進んで、手頃な店を探す。


「あの、トモスさま? どこに向かってらっしゃるんですか?」

「ちょっと探し物。うまく行けば楽になる」

「はあ」


 通りすぎざまに店を覗き込みながら探して、お、と足を戻して一軒の武具屋に入った。

 こじんまりとした店内には武器や防具が乱雑に並ぶ。中古ばかりを取り扱った店だ。奥の隅に、目的のものを見つけた。


「ちょっと小さいけど、まあ手頃かも」

「あの、何を見つけられたんですか?」

「鎧」

「よろい?」



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