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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第3章 無色の再会

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閑話 青色の決意

『それじゃ、また次の配信で』


 いつものように挨拶して、ボクは配信を切った。


 今日は我ながら完璧だった。エイムはキレキレだったし、友達になったVtuberの人達との連携もばっちりだ。おかげで何度も優勝できた。


 最近のボクは絶好調だ。

 

 二学期が始まった頃が嘘みたいに毎日が楽しくなっていた。ゲームをすれば勝ちまくるし、体は羽が生えたみたいに軽い。今なら何をしても上手くいく気がした。


「……色々あったけど、ようやくスタートラインに立てた」


 大きく息を吐き、夏休み明けからの日々を振り返った。


 二学期が始まった直後、ボクは翔太の元に突撃した。白の派閥に入ったという信じられない話を聞いたからだ。

 

 意味がわからなかった。白瀬に脅されていると思った。


 そう考えて翔太の元に突進したけど、翔太は脅されていないという。あの時は嘘だと思ったね。白瀬と仲直りしているなんて想像していなかったし。


 食い下がると、翔太は白瀬以上に魅力があることをアピールしろって言ってきた。


 あの時のボクは白瀬から翔太を引きはがそうと全力だった。自分の持ち味が発揮できるのは体育祭しかない。


 迎えた体育祭当日。


 青組を任されたボクは全力で頑張った。個人としても活躍したし、青組の士気上げにも力を注いだ。その結果、青組は高い順位を維持していた。

 

 最終種目である対抗リレーが近づいてきた時、緊張をほぐすために校舎の中を歩いた。座っているのが落ち着かなかっただけで、特に理由はない。


 彼女と遭遇したのはたまたまだった。


 ボクには天華院学園で唯一と言えるくらい苦手な相手がいる。嫌いって意味なら悪魔共がそうだけど、苦手と嫌いは意味合いが違う。


 苦手な相手の名前は赤澤桃楓。


 大嫌いな赤澤夕陽の妹だけど、桃楓ちゃんのことは嫌いではなかった。むしろ素直で可愛い彼女は昔から好ましいと思っていた。


 ボクと桃楓ちゃんの関係は小学生の頃に遡る。翔太と一緒に何度か遊んだことがあった。彼女は病弱だったので激しい遊びはできなかったけど、かくれんぼだったり、テレビゲームをした。


 昔は良好な関係だった。

 

 でも、今は違う。彼女はボクのやらかしを知っている。中学時代、体が元気になった桃楓ちゃんは翔太がいなくなったことを悲しんだ。桃楓ちゃんは事情を聞くためにボクのところにやってきた。そこで、包み隠さず全部話した。


 彼女は昔から翔太にベッタリだった。当然、ボクとの関係は険悪になった。


『海未さん、少しいいですか』


 高校に入学してから面と向かって話すのは初めてだ。天華院に入学したのは知っていたけど、卑怯なボクは彼女を避けていた。


 久しぶりに会う彼女はあの頃とは別人だった。


 体は成長し、顔立ちも大人っぽくなっていた。赤澤夕陽に比べると少し幼いけど、アイドルみたいに整っている。一番特徴的なのは瞳だ。ジッと見ていると吸い込まれそうなくらい綺麗で、力強い瞳だった。


『ひ、久しぶりだね。どうしたの?』

『はい。丁度いい機会なので宣戦布告しようかと思いまして』

『っ、宣戦布告とは物騒だね』

『今年の女神には私がなります!』


 真っすぐな言葉だった。


 顔も声も名前も可愛らしい桃楓ちゃんだけど、放たれた言葉にはずっしりとした重さと力強さがあった。


『いつかここに翔太兄さんが戻ってきた時、私は女神としてあの人を迎えたいんです。今の女神の方々では翔太兄さんが嫌な気持ちになってしまいます』


 自分で言うのもアレだけど、ボクもそれがいいと思う。


 翔太がすでに戻ってきているので何とも言えないけど、その発言に関しては全面的に肯定だ。実際、ボク達が女神呼ばわりされていて翔太はかなり嫌だったと思う。


『海未さんには憧れていました。体が弱い私から見たら、男子に混じっても負けないくらい動けるあなたは本当に凄い人でした。でも、今は違います。私ならどんな状況でも翔太兄さんの味方になります。例え学校中が敵に回ってもです!』

『……』


 ボクは何も言えず、唾を飲みこんだ。


『翔太兄さんはずっと私を励ましてくれた恩人です。私はあの時の恩を返したいんです。そのためにも、私が女神になってこの学園を翔太兄さんが過ごしやすい場所にしてみせます。お姉ちゃんを含めた今の女神ではダメです』


 不思議な感覚だった。


 自分が貶められているのに、それを口にしている桃楓ちゃんが凄くまともで素敵な人間に映ったのだ。


 確かに彼女なら、ボクが保身に走った時も逃げなかったはずだ。翔太の援護に回っていて、そしたら状況も違ったかもしれない。


『……そっか』


 ボクに言えたのはそれだけだった。

 

 会話が途切れた後、桃楓ちゃんは唐突に顔を寄せてきた。


『一つだけ質問させてください。ずっと聞きたかったんです。誰もいないみたいなので、思い切って聞かせてもらいます』

『な、何かな?』

『海未さんは、翔太兄さんを好きになったことありますか?』

『えっ』

『あれだけ翔太兄さんと仲良しだったんです。恋愛感情はあったんですか?』

『えっと――』

『もしかして、付き合ったりしてませんよね?』


 桃楓ちゃんから詰め寄られたボクは困惑しながら後ずさりした。後ずさりしたのは何とも言えない圧があったからだ。


 質問には答えられなかった。


 後ずさりしている途中で犬山がやってきたからだ。犬山は中々戻ってこない桃楓ちゃんを心配して探していたらしい。


 そして、この時に気付いた。


 いつもの犬山ならボクを睨みつけるけど、それがなかった。刺々しい雰囲気は無くなり、優しい空気を纏っていたように思う。桃楓ちゃんの前だからとも思ったけど、違う気がする。


 翔太の不自然なくらい元気だったのも気になっていた。だから何となく、翔太と犬山が再会を果たしたのだと察した。


 ……これでもう大丈夫だね。

 

 ボクよりも遥かに信頼できる相手が近くにいる。犬山なら何があっても大丈夫だ。例え悪魔共が仕掛けてきても対応できる。


 安堵したと同時に、自分の半年間を後悔していた。


 そもそもボクは間違っていた。


 翔太が転校してきた当初は「いつか自分の口で告げてくれるまで黙っていよう」とか思っていた。その上で友達になりたいと意味不明なことを考えていた。


 でも違った。


 翔太と遊ぶのは楽しいけど、昔みたいにとは行かなかった。当たり前だ。過去を清算してからじゃないと、スタートラインにすら立てないのだから。半年も過ごしてようやくそこに気付いた。


 とぼとぼ歩いていると、翔太の姿を見つけた。


『っ、虹谷!?』

『お、おう。その声は青山じゃないか。奇遇だな』


 下手に誤魔化す翔太の姿に笑いそうになった。理由はわからないけど、さっきのやり取りを見ていたのだろう。


 翔太と少し話をした。


『……じゃあ、もし自分が悪いことをしたって自覚してたら?』

『それなら謝るしかないだろ。一択だ』


 誰でも同じような答えをするであろう質問をしたのは、翔太にそう答えてほしかったからだ。ここでボクは翔太にすべてを話す決意をした。


 グラウンドに戻り、最終種目である対抗リレーを全力で走った。結果的に逆転優勝できたことは嬉しかった。周囲は世紀の大逆転劇と沸いた。


 優勝した翌日の朝、職員室に行って次回のコンテスト辞退を申し出た。その日の夜、一緒にゲームをプレイした後で翔太にメッセージを打った。


 そして、ボクと翔太は数年ぶりの再会を果たした。


 あの時のことを必死で謝った。謝ったところで過去の出来事を変えられないのはわかっていたけど、とにかく謝った。


 翔太は許してくれた。


『ただ、全部を許したわけじゃないし、あの時のことは忘れない。仲直りってほど大層なものじゃないぞ。だから昔みたいには戻れない。正直なところ、友達なのかって聞かれたら俺は首を横に振るからな』


 ボクは許された。でも、許されただけだ。


 昔のような友達の関係に戻ったわけではない。それは当たり前だ。いきなり友達に戻ろうって考えは図々しい。

 

 それでも、一つの区切りになった。今まで心の中にあった枷が外れたみたいに気が楽になった。


 完全に自己満足だ。それはわかっている。だけど、過去の出来事に一応の決着をつけたことで解放された気分になった。


 中間テストが近づくと、神会議が開かれた。


 黒峰が勝負をしようと提案したが、これには参加しなかった。勝ったところで学園内で少し注目されるだけだ。今後女神を目指すつもりはないし、女神に最もふさわしいと思った人物を推すつもりだから。


 全然勉強しなかったから結果は散々だった。

 

 驚いたのは黒峰だ。満点を獲得して、あの犬山に勝利して学年トップになっていた。ボクにはどうあがいても出せない点数だ。今回のテストに賭ける気迫は桁違いってことだ。何がそこまで黒峰を突き動かしたのか。


 もっと驚いたのはその後、何故か黒峰と犬山がコンテストを辞退したことだ。


 黒峰のほうはさっぱり事情がわからない。


 ただ、犬山のほうは何となく黒峰の命令だろうと思った。あいつはテストで個人的に犬山と賭けをしていたらしい。恐らくそれを行使したのだろう。


 それをしてメリットあるのかな?


「……まっ、ボクには関係ないよね」


 学園中が大パニックになったけど、ボクには関係ない。翔太絡みでもなさそうだしね。


 その日の帰り道だった。ばったり桃楓ちゃんと会った。


 桃楓ちゃんについては翔太から聞いている。正体を明かしてもいいけど、犬山が成長させるために止めているらしい。


 あの時と違い、ボクは自分から話しかけた。笑顔で話しかけると、桃楓ちゃんは驚いていた。


『――いい顔になりましたね。コンテスト辞退に関係があるんですか?』


 鋭い子だ。


 翔太と再会したことを言うか迷ったけど、それはボクのする役目じゃないよね。


『何があったかは言えるようになったら言うよ。それより、あの時の質問に答えておくよ』

『答え、ですか?』

『ボクにとって、翔太は友達だ』

『えっ』


 何度考えても答えは変わらない。


 ボクにとって翔太は友達だ。それ以上の気持ちはない。少なくとも今はない。どれだけ考えても答えは変わらない。


『はっきり言っておく。翔太に対して好きって気持ちはない。今までもなかったし、多分これからもないと思う。もちろん、付き合ってたとかもないから安心して』

『っ』

『だからボクは友達……また、友達って胸を張って言い合えるように頑張るだけだよ』


 我ながら良い台詞だと思ったけど、桃楓ちゃんはジト目だった。


『よく言いますよ。海未さんはそんな友達を裏切ったんですから』

『っ、痛いところを突いてくるね!』


 事実だけど。

 

『まあいいです。私は私で頑張るだけですから。話がそれだけなら失礼します』


 去ろうとすると桃楓ちゃんに「待って」と声を掛けた。桃楓ちゃんは不思議そうに振り返った。


『天華コンテスト、頑張ってね』

『えっ?」

『応援してるから』

『――海未さんに応援されなくても私は女神になります!』

『はいはい。それじゃ、勝手に応援させてもらうよ』


 去っていく桃楓ちゃんの背中を見ながら、ボクは改めて決意した。今度こそ絶対に裏切らない。


 ボクは立ち上がると、閉じていた窓を開けた。

 

「良い天気だな」


 窓を開けたボクの瞳に映ったのは、どこまでも澄み切った青空だった。

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