第24話 虹色の勉強会再び
中間テストが間近に迫り、学園は異様な雰囲気に包まれていた。
その理由は無論、神々によるテスト対決が行われるからだ。
「今回は絶対に赤澤さんだ。勉強も運動も完璧な最強アイドル様だぞ」
「海未ちゃん……はコンテストを辞退してるからやる気ないっぽい」
「だから月夜様に決まってるでしょ!」
「いいや今回こそは真雪たんだね」
「絶対に犬山君だから!」
それぞれの女神派閥だけでなく、蓮司の支持者である女子生徒も論争に参加している。
ちょっとばかり物騒な感じもするが、この雰囲気は嫌いではない。熱気というか、やる気みたいなものがあちこちから感じて心地いい。神々の対決に呼応するように多くの生徒がテストに意識を向けているのも悪くない。
俺はといえば、その様子を遠目で見ながらまったりしていた。
勝負のほうは蓮司に任せておけば問題ない。今回の件には何一つ関わっていないし、どうあがいても関われない立場だしな。
「今回も活気に満ちてるね」
隣で真広がつぶやく。
「神々の激突再びだからな。当然じゃないか」
「……だよね」
「青山はその、残念だったな」
青の派閥である真広は青山のコンテスト辞退から一貫して元気がなかった。一緒にゲームした時は吹っ切れたように見えたが、完全に立ち直ってはいなかったらしい。
「ようやく気分が落ち着いてきたところだよ。青山さんにも自分の道があるし、僕としては受け止めるしかないかなって」
「……そうだよな」
「気にかけてくれてありがとね」
まっ、当の本人は今までで一番気楽な様子だけどな。
青山は普段と変わらず配信を行っている。ゲームも高頻度でプレイしているし、勉強に力を入れている様子は一切ない。
「元気出せよ。女神じゃなくなっても青山にはいつでも会えるだろ」
「そうだよね。推せないのは残念だけど、会えなくなるわけじゃないからね」
同級生を推すという感覚は良くわからないが、真広が元気になってくれればいい。
「で、さっき話があるとか言ってたけど何の用だ?」
「約束してた勉強会のことだよ」
「その件か。確か今日の放課後だったな」
本日、俺は真広と勉強会を予定している。
これは前々から約束していたことだ。
紫音のほうはクラスメイトと勉強会を行うらしい。遊び歩くわけではないから大丈夫だと言っていたが、信用するしかないだろう。
「僕等だけの予定だったけど、1人追加してもいいかな」
「追加って?」
「ほら、彼女だよ」
真広がある場所に視線を向けた。
そっちを向くと、ある少女が立っていた。
「不束者ですが、今回もよろしくお願いします!」
姿勢を正して深々とお辞儀をする猫田の姿があった。
◇
「本当にありがとね!」
カラオケボックスの中で猫田が感謝の言葉を述べる。
前回はファミレスで勉強会を開いたが、あそこは猫田のバイト先になったので今回はカラオケに変更となった。
「気にするなって」
「そうそう。勉強会だし、お互いにダメなところは補っていこうよ」
「それに、感謝の言葉は結果が出た後に言ってくれよ
期末テストでも真広と猫田と一緒に勉強した。前回の勉強会も楽しかったし、猫田の参加を断る選択肢はなかった。
「あっ、今回の赤澤さんはどんな感じ?」
「気合い入りまくりで、かなり集中してるよ。今回は絶対に勝ちたいみたい。期末の時よりも目がマジだったから」
「それは結果が楽しみだね」
「楽しみ!」
本気の蓮司相手にどう戦うのか楽しみだな
「――お喋りもいいが、早速始めるか」
それから俺達は集中して勉強を開始した。
カラオケという空間は個室であり、他人の声や目が入らない。非常に集中しやすい環境で、かなり勉強が捗った。デメリットがあるとすれば金が掛かるところだろうか。
猫田は期末テストの時に比べると成長していた。
あの時の猫田は赤澤と仲直りして毎日遊び歩いていた。まさに紫音と同じ状態だったわけだが、今回の猫田は少しは勉強してきたようだ。
充実した時間を過ごし、全員がひと区切りしたタイミングで休憩を入れることになった。
「そういえばさ、虹谷って蓮司君と知り合いだったりするの?」
「っ」
休憩に入った途端、猫田が俺に聞いてきた。
突然の話題に言葉が詰まった。
「えっ、何かあったの?」
「うちがバイト先のファミレスに到着した時だけど、虹谷が蓮司君と一緒に歩いてるところを見かけたんだ」
「ホントに?」
「見間違いではないと思うけどね。ただ、遠かったから話は聞こえなかったんだ」
あの時、猫田に姿を見られてまずいと思った。
しかしその後に何のアクションもなかった。あえて俺のほうから何か言うのも変なので放置していた。
話を聞くかぎりではバイト先に到着して急いでいた時にチラッと見た程度だという。少なくとも俺達が親友という関係とは思っていないようだ。
これは助かったのか?
ただ、猫田は赤澤と親友だからな。一応誤魔化しておこう。誤魔化すにも注意しないと。蓮司の姿を確認しているので他人というのはまずい。
「実はあの辺りをぶらぶら歩いてたら、たまたま会ったんだよ。向こうから声を掛けられて、歩きながら少し喋ったんだ」
「蓮司君と接点あったの?」
「ほら、体育祭のリレーでお互いアンカーだっただろ。その時のことを話してただけだ。向こうが俺を覚えてたみたいで」
「なるほどね。体育祭の虹谷はやばかったし、顔を覚えられて当然かも」
紫音のクラスでも俺の活躍は話題になっていたし、これなら十分に言い訳として通用する。
「そういう事情だったんだね。納得」
「僕も納得したよ」
上手く誤魔化せたみたいだ。
その後は世間話みたいな感じの会話をした。話は天華コンテストの話題になった。
「名塚は女神の投票どうするの?」
「今のところ悩み中かな」
「じゃあ、一緒に夕陽の応援しようよ!」
「それもいいかもね。正直、僕は他の女神候補とほぼ接点ないから。厳密にはゼロってわけじゃないけど、投票するなら今のクラスメイトの赤澤さんかなって」」
猫田は聞くまでもないが、青山が辞退した。真広からしたら投票先が急に無くなった感じだ。
赤澤に入れるのは妥当だろう。あいつはクラスメイトだし、最も関係が深い。真広からしたら黒峰は同じ中学出身だけど仲良しではないし、白瀬は元クラスメイトだけど今は接点がない。
「名塚は他の学年の女神候補と面識あるの?」
「そっちもないかな。翔太の妹も候補みたいだけど、僕は面識ないしさ」
「天塚先輩とかは?」
「あの人も僕からしたら接点ないからね」
会話を聞いていた俺は引っ掛かりを覚え、口を挟む。
「ちょっと待て。その天塚先輩ってのは誰だ?」
「えっ、先代の女神様だけど」
「何度も話に出てたけど、気付かなかったの?」
そういえば、天塚先輩という名前は何度も聞いていたな。今まではサラッと流していたが、なるほどその人が先代の女神様だったのか。
……じゃあ、やっぱり違うのか。
名前に”黄”が付く女神候補と聞いて、知り合いかと思った。でも、俺の知っているあの人とは苗字が違う。
そうだよな。あの【4色の女神】と再会した時みたいな偶然があるはずないしな。思い過ごしだったか
「誰が選ばれるにせよ、今年の女神は大混戦みたいだから楽しみだよ」
「うちも楽しみ!」
「なら、文化祭を清々しい気持ちで迎えるためにも勉強を再開するか」
俺がそう言うと、真広と猫田は気合いを入れ直してペンを握った。
この調子なら中間テストも無事乗り切れそうだ。
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