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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第3章 無色の再会

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第23話 虹色の神候補

「よし、この辺りで休憩するか」


 キリのいいところで声を掛けた。

  

 直後、目の前にあった紫音の体が崩れ落ちた。地面に頬をくっ付けると、溜まっていたものを吐き出すように深々と息を吐く。


「ようやく休憩だ。あぁ、疲れた!」

「疲れたのはわかるけど、はしたないぞ」


 俺と紫音は中間テストに向けて勉強していた。


 ここ数日、用事が無い日はいつも一緒に勉強している。場所はリビングだったり、互いの部屋だったり様々だ。今日は紫音の部屋だ。


「いいの。それだけ疲れたんだから」

「しょうがない奴だな」

「けど、この疲れが心地いいんだよね。ここで頑張って、その後で全部忘れるくらい思いきり遊んでやるんだから」


 紫音はテストが終わるまで遊ぶことを禁じ、勉強漬けの日々を送っている。


 遊び禁止は厳しく感じるかもしれないが、これは紫音が自ら封じたのだ。さすがに成績の低下が深刻なのを自覚しているらしい。


「疲れただけあって、今日は順調だったよ」

「みたいだな」

「お兄ちゃんのほうは?」

「こっちも順調だ」

 

 教える立場ではあるが、俺も自分の勉強をしている。


 ここで俺の成績が落ちたら紫音が悲しむ。だから自分の勉強を疎かにするわけにはいかない。個人的にも成績を落としたくないし。


「ホントにありがとね。お兄ちゃんのおかげで大分マシになってきたよ」

「俺は何もしてないけどな」

「そうでもないでしょ。わからないところは優しく教えてくれるし。大体、近くに居てくれるだけで紫音がサボらなくなるんだから効果は絶大だよ」

「紫音は基礎が出来てるからな。手の掛からない良い生徒だ」


 元々、紫音は成績優秀だった。


 前回の期末テストも全然問題なかった。最近ちょっとばかり遊び過ぎていたので成績は下降気味だったが、勉強する時間を確保した今は徐々に上向いている。この分なら問題なく結果を出せるだろう。


 正直に言えば一緒に勉強を始めた頃は悲惨なものだった。だが、ここまで持ち直した努力は素直に褒めたいところだ。


 だから俺の役目は勉強を教えるというよりも監視だ。紫音がサボらないように一緒に勉強をするだけ。ただそれだけだが、効果はあるらしい。


「あっ、そうだ」


 起き上がった紫音は階段を駆け下りると、ジュースを持ってきた。片方は俺の大好きなジュースだった。


「これ、約束のジュースね」

「……約束?」

「ほら、体育祭の時に賭けたでしょ」

「あれか。すっかり忘れてた」

「悔しいけど、紫組の負けだからね」

「そういうことなら遠慮なく頂戴するよ」


 体育祭の賭けであるジュースを奢ってもらった。わざわざ俺の大好きなオレンジジュースを用意してくれるあたりに性格の良さを感じる。


「早くテスト終わんないかな」

「中間が終わっても期末が待ってるぞ」

「嫌なこと言わないでよ」

「事実だからな。学生である以上はテストというバケモノからは逃げられないぞ」

「でも、その間には文化祭があるでしょ。高校の文化祭って昔から憧れだったんだ。男子が張りきるマンガみたいな展開とか超楽しみにしてるんだから」


 女子校出身だった紫音からしたら憧れなわけだ。


 文化祭の話題が出たので、いい機会だし聞いてみることにした。


「そういえば、天華コンテストも文化祭だったな」

「うん。初めてだから楽しみ」

「……紫音も女神候補みたいだな」

「らしいね。ビックリしちゃったよ。体育祭のちょっと前に先生がやってきて、いきなり紫組を率いてくれって言い出したんだよ」


 他人事みたいだな。

 

「女神になってみたいか?」

「……微妙かな」

「微妙?」

「お姉様と一緒の立場になれるのは嬉しいけど、お姉様を押しのけて女神になりたいのかと言われたらそうでもないし」


 紫音の反応は本当に微妙そうだった。


「じゃあ、なりたくないのか?」

「特に目指してもないけど、あえて拒否する理由もないって感じ。正直なところ自分がそういう立場になるって思ってなかったんだよね。天華院に入学したのも憧れのお姉様と一緒の学校に通うためだったし、この展開は予想外で驚いてるんだ」

「なるほどな」

「候補に数えられてるのも驚いたし、体育祭の時は緊張しちゃった」


 紫音の考えは一般的な考え方だろう。


 多くの生徒は「なりたい」とは言わないだろうけど、投票で選ばれたら嫌だとは言わないって感じだと思う。


 そもそも普通は自分が選ばれるとかも思っていないだろうしな。


 実際、青山とかも気付いたら女神に選出されたと言っていた。そういう感覚なのかもしれない。


「実は、ちょっと前にお姉様に相談したの」

「えっ」

「そしたら、挑戦したほうがいいって。いい経験になるし、紫音に女神は向いてるって言ってくれたんだよね」


 黒峰の発言の真意はわからないが、紫音は性格的に向いているとは思う。

 

 逆に黒峰は女神には向いていないだろう。体育祭の時も盛り上げるみたいな作業を苦手にしていたし。


「その時、お姉様は女神を辞めたいって言ってた」

「マジか?」

「笑いながら言ってたから本気はわからないけどね」


 蓮司に勝負を挑んだり、黒峰の行動はよくわからない。


 ただ、直感になるけど黒峰の女神辞めたい発言は事実な気がしている。


「色々と考えることがあるから、微妙って感想が出てきたのか」

「そゆこと。けど、紫音よりもクラスメイトが結構やる気になってる感じなんだよ」

「……八雲君か」

「一番乗り気だからね。どうしても紫音を女神にしたいみたいで、あちこちのクラスに行って勧誘してるみたい。今日も布教活動してたし」

「その光景が目に浮かぶよ」


 彼は彼で頑張っているようだな。ただ、個人的に言わせてもらえれば今の時期は勉強を頑張ってほしいけど。 


「ねえ、お兄ちゃんはどう思う?」

「どうって?」

「紫音が女神候補ってことについて。目指したほうがいいのかな」


 難しい質問だな。


「俺には何も言えないな。そこは紫音の気持ち次第だろ」

「気持ち次第か」

「天華コンテストでは紫音に票を入れるつもりだった。目立ちたくなかったしな。ただ、紫音が女神候補になったと聞いて迷ってるところだ。やりたくないのにこの一票が後押しになるかもしれないだろ」


 目立たないように投票するつもりだったが、紫音の気持ち次第だ。


 もし、女神という役目を絶対やりたくないと言うのなら無理に投票しないつもりだ。俺のせいで嫌な役目を押し付けるとか嫌だしな。


 紫音はしばしその場で唸ると、持ってきたジュースを飲みほした。


「よくわからないから、後は流れに身を任せる!」

「雑な結論だな」

「だから、お兄ちゃんは好きなところに入れて。絶対そっちのほうがいいから」

「……紫音?」

「文化祭ってお祭りなんだよ。お祭りは楽しまないと勿体ないよ。わざわざ紫音に入れなくてもいいからね。お兄ちゃんがこの人だって思う相手に投票してほしいかな。紫音的にもそっちのほうがいいし。結果は出てからのお楽しみにしようよ」


 紫音はそう言って笑う。


 話を聞いた俺としては、今のところ紫音が一番女神にふさわしいと感じるけどな。この自由に伸び伸び生きてる感じとか魅力的に映る。


「ねえ、そういうお兄ちゃんの方こそ男神に興味ない?」


 不意打ちだった。


「ないない。男神には最有力候補がいるからな」

「それはそうかもしれないけど、お兄ちゃんが本気出したら結構いいところまで行くかもよ。体育祭で大活躍してたでしょ。うちのクラスでも話題になってたし」

「話題になったのか?」

「あれだけの走りだもん。クラスの女子が何人かお兄ちゃんに入れるってさ」

  

 蓮司との勝負に夢中ですっかり忘れていたが、あれはかなり目立つ活躍だったらしい。


 言われてみればそりゃそうだろう。


 今年も男神確実という蓮司との戦いに勝ったわけだからな。少しくらいは注目を集めても不思議じゃない。 


「顔も良いし、勉強だって出来る。お兄ちゃんも男神候補だと思うよ?」

「今の男神が辞退でもしたら考えるよ」


 適当にそう答えておいた。


 それからしばらく会話した。最近の出来事とか、文化祭の話題とか、他愛のない話だ。


「さて、休憩終了だ。勉強の続きするか」

「……もう少し休まない?」

「ダメだ」

「はぁ、お兄ちゃんは厳しいな」


 不満そうな紫音だったが、頬を叩いて気合いを入れると勉強を再開した。


 目の前で頑張る紫音を見ながら、俺はどこに投票しようか考えながら手を動かすのだった。



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