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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第3章 無色の再会

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第16話 青と虹色の体育祭

 午後の部が開始され、体育祭はますます白熱していた。


 上位の点差は付かず離れず、種目ごとにトップが交代する大混戦となった。熱い戦いは多くの生徒の心に火を灯し、応援の声にも熱が帯びていく。


 真剣勝負だけではない。白組は結局ぶっちぎりの最下位だったが、とても楽しそうだった。体育祭というイベントが”祭”だと改めて気付かされた。

 

 残る種目はクラス対抗リレーのみとなった。


 上位の中では黄組が失速し、優勝の可能性は「桃・青・赤・紫」の4チームに絞られた。赤組は3位で最終種目を迎えた。


 いよいよ出番が近づくと、緊張のせいかトイレに行きたくなった。癖だろうか、いつも使っている階のトイレまで来てしまった。4階まで無駄に歩いてしまったが、散歩しているみたいで気分が落ち着いた。


「……?」


 トイレを済ませて廊下に出ると、声が聞こえてきた。


 体育祭の真っ最中にこの階に人が来るのは珍しい。声のするほうに視線を向けてみると、そこには見知った顔が立っていた。


「あれは、青山と……っ」

 

 青山が話している相手は桃楓だった。


 慌てて近くにある自分達の教室に隠れた。


 距離が離れているので何を話しているのかわからない。ただ、桃楓の口調が荒いのはわかる。詰め寄っている感じだ。


 こっそり見ていると、そこに蓮司まで現れた。両者の間に蓮司が入ると、桃楓は怒気を抑えて大人しくなった。


 どういう状況だ?


 しばし眺めていると、話は終わったらしい。蓮司と桃楓が離れていく。


「……」


 取り残された青山は立ち尽くしていた。


 俯き加減で、明らかに憔悴しているのがわかった。内容は不明ながら、青山にとって良くない話だったらしい。


 おいおい、勘弁してくれよ。


 やる気のない青組に勝利したところで嬉しくないぞ。それに、俺はあいつが全力で走る姿を楽しみにしていたのに。


 しかし、ここで声を掛けるのもおかしい。


 場所が場所だし、後を尾けてきたと思われるのも嫌だ。


「っ、虹谷!?」


 などと考えていると、いつの間にか青山はこっちに歩いてきたらしい。教室の前を通りがかった青山が俺に気付いた。


 こうなったら仕方ない。


「お、おう。その声は青山じゃないか。奇遇だな」

「えっと、こんなところで何してるの?」

「軽くアップしてたんだよ。ほら、もうすぐリレーだろ。誰もいないところのほうが集中できるんだ。自分の教室だと落ち着くっていうかさ」

「……そっか。気持ちはわかるかも」


 実際にはトイレに来ただけだが、あえて言う必要もないだろう。


「元気なさそうだな。どうかしたのか?」

「え、気のせいじゃないかな。ボクはずっと元気だよ」

 

 明らかに元気のない顔で言うなよ。


「虹谷のほうは言うまでもなく元気そうだね」

「当たり前だろ。これからリレーなのに元気じゃなかったら問題だろ」

「……そうじゃなくて、最近元気そうだなって」

「まあ、そうかもな」


 元気にならないはずがない。親友と再会してからは絶好調だからな。


「ねえ、少し時間ある?」

「もうすぐ出番だけど、短い時間なら構わないぞ」

「ありがと」


 短く感謝の言葉を発した後、青山は続けた。

 

「もし、自分が間違ってるって気付いたらどうする?」

「……急にどうしたんだ」


 質問の意図がさっぱりだ。


「いいから答えて」

「よくわからんが、状況次第だろうな。けど、間違ってるってわかったら普通はすぐ訂正するだろ。場合によっては誤魔化すかもしれないけど」


 何が間違っているのかその場面になってみないとわからないが、即座に訂正するだろう。ただ、誤魔化せるならそっちのほうに流れるかもしれない。


「……じゃあ、もし自分が悪いことをしたって自覚してたら?」

「それなら謝るしかないだろ。一択だ」


 考える余地もない。


 他の選択肢としては逃げるというのもあるが、自分が悪いのに逃げるとか最低野郎でしかないからな。


「そう……だよね」

「青山?」

「答えてくれてありがと」

「別にいいが、今のは何の質問だったんだ?」

「自分がまた間違ったことをしたって理解したんだよ。でも、もう大丈夫だから。最終確認が出来たからさ」

「う、うむ?」


 意味は全然わからないが、青山の中で何かが大丈夫になったらしい。顔色も良くなったみたいだし、これなら大丈夫だろう。


 本気で走れるところが見れそうで安心した。


「話は変わるけど、体育祭の後でまた一緒にゲームする約束は覚えてるよね?」

「もちろんだ。アップデートで新マップが追加されるんだろ。真広の奴は楽しみすぎて最近では野良で猛特訓してるよ。あいつ、また大会に出たいんだとよ」

「いいね。ボクも是非参加したいよ」


 それから軽く言葉を交わすと、青山は教室から出ていった。


「あの」

 

 教室を出た直後、青山が振り返った。


「次にゲームした時、大事な話があるんだ」

「大事な話?」

「うん。じゃあ、またね……翔太・・


 青山が去っていった。

 

 あれ、あいつ名前で呼ばなかったか?


「……」


 まあいいだろう。それよりも大事なのはこれから始まるリレーのほうだな。雑念は捨ててこっちに集中するとしよう。

 

 ◇

 

 クラス対抗リレーが始まった。


 例年なら1年生から順番に行われるらしいが、今年は男神と女神がいるので2年生は最後に回された。その中でも女神による直接対決がある2年女子のリレーが”神々の体育祭”を締めくくる種目となった。


 ここで順位に変動があった。


 1年生男子のリレーで八雲君が大活躍した。これによって紫組がトップに立ったのだ。ただ、上位4チームは僅差のままだ。トップは紫組で、それを青組と桃組、更には赤組が追う展開となった。


 待機場所に各チームのアンカーが集まる。その中には当然のようにあいつの姿があった。そう、最も親しい友の姿が。


 蓮司と目が合う。 


「……」

「……」


 俺達の間に会話はない。


 しかし、言葉にしなくてもお互いの気持ちは伝わった。

 

 顔も勉強もコミュ力もボロ負けだったが、昔から運動だけはいい勝負だった。ガキの頃はよく鬼ごっことかしていたものだ。


 あの頃は互角だったが、今なら勝てる自信がある。

 

 自分磨きの中で肉体も鍛えてきた。最初の種目である100メートル競走で勝利したことで自信もついた。


 久しぶりの直接対決だ。


『さあ、体育祭もいよいよ大詰め。今年は史上稀にみる大接戦となりました。勝負の行方は2年生によるクラス対抗リレーに委ねられました。注目は昨年このリレーでアンカーを務め、見事優勝を果たした男神の犬山蓮司君でしょう』


 スターターピストルが響く。


 実況席から聞こえる内容は耳に届かなくなり、グラウンドを囲む生徒の応援の声だけが鼓膜を震わせた。


 クラス対抗リレーはアンカー以外の走者がグラウンドを半周、アンカーだけはグラウンドを一周することになる。


 赤組は順調だった。


 ミスなくバトンを繋ぎ、最初の走者が作ったリードを保って先頭をキープしている。このままならトップでバトンを受け取れそうだ。

 

 しかし後方からは桃組の生徒が追い上げてきた。そのすぐ後ろには青組も続いている。


 俺と蓮司がバトンを受け取ったのはほぼ同時だった。


 バトンを受け取った俺は無我夢中で走った。


 グラウンドを一周する中で様々な顔が見れた。赤組の連中が立って声援を送っているのがわかった。その声援が力になった。


 蓮司の様子はわからない。周りを見る余裕はなかった。


 ただ、自分の前に誰もいないことだけはわかる。俺はそのまま全速力で走ると、先頭でゴールテープを切った。


 直後、大きな歓声が響いた。


『これは速い。トップでバトンを受け取った赤組アンカーの虹谷君が後続との差をグングンと広げ、見事に1着で駆け抜けました!』


 実況の声がクリアに聞こえた。


 その声で自分が勝利したと確信した。


「よっしゃああああああああ!」


 この勝利で赤組は再び首位に返り咲いた。 


 そして、体育祭は最終種目である2年女子のクラス対抗リレーを残すのみとなった。

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