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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第3章 無色の再会

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第7話 4色の勧誘後

「……疲れた」


 放課後、校舎裏にやってきた俺は壁に背中を預けた。


 昨日も大変だったが、今日もえげつなかった。


 赤澤の勧誘から始まり、白瀬からは本気で支持してほしいと言われた。更に八雲君からの勧誘というか、提案はあまりにも衝撃的なものだった。おかげで頭は朝からパニック状態だ。授業がこれっぽっちも頭に入らなかった。


「けど、紫音を女神にしたいか」


 八雲君には考えさせてくれと答え、結論を保留した。


 紫音を巻き込まないために白の派閥に入ったってのに、まさかその紫音を女神にしようと画策する勢力があったとは。


 いやまあ、紫音を女神にしようとする勢力の存在自体には納得している。


 紫音はとても素敵な子だ。


 ギャルっぽいけど顔立ちは整っているし、太陽のように明るい性格も素晴らしい。料理もめちゃくちゃ上手で、勉強も運動もそつなくこなす。弱点らしい弱点はない。八雲君ほどのイケメンが惚れていることからもわかるように、超ハイスペックで魅力的な少女である。


 俺自身も紫音に投票するつもりだったが――


 しかしそれは女神にするつもりではない。あくまでも波風を立てないためであり、他の意図はなかった。


「……そもそも、紫音って女神になりたいのか?」


 性格的には望むタイプではないと思うが、今までの態度からして女神に対して特別な憧れを持っているのは間違いないだろう。


 ポイントになるのは現在の女神でもある黒峰だな。


 女神になれるのは本来なら一人だけで、昨年はたまたま例外が起こった。紫音はお姉様と慕っている黒峰を蹴落としてまで女神の座を望むだろうか?


 ただ、逆の考え方もできる。紫音は黒峰を慕っているからこそ、その黒峰と同じ立場になりたいと言い出すかもしれない。


 女神を目指すと言い出したら俺はどうする。支持するべきなのか?


 でも、そうなったらわざわざ白の派閥に入った意味がなくなる。我ながら意味不明すぎる行動になってしまうぞ。


 突如として出題された難問に唸っていると。


「――調子はどうだ?」


 ふと、男の声が聞こえた。


 声は俺に向けられたものではない。少し離れた場所から聞こえた。


 放課後の校舎裏という場所で声が聞こえるのは珍しい。この辺りで部活動をしている生徒もいないし。


 本来なら気にしないが、何となく聞き覚えのある声だった。

 

「っ!」

 

 声のしたほうに視線を向けた後、俺は慌てて隠れた。


 そこに立っていたのは我が親友――犬山蓮司だった。


 転校してから蓮司とは話していない。それどころか顔を合わせてすらいない。

 

 同じ学年でも別のクラスだし、俺のクラスと蓮司のクラスは別の階にある。一学期は学年全体で何かをするという行事が少なく、これまで顔を合わせる機会はなかった。


 蓮司はこっちに俺が戻ってきたことを知らない。


 当時はスマホを持っていなかったので連絡先は交換していないし、母も以前の家から引っ越してから蓮司とは会っていないはずだ。


 かつての顔見知りで俺の正体を知っているのは白瀬だけだ。蓮司は女神を嫌っているので話をするはずがない。


「……だった」

「……」


 さて、その蓮司は誰かと話していた。


 相手の顔は角度的に見えない。ただ、制服からして女子だ。


 蓮司の様子からするとかなり親し気な様子だな。あいつとここまで仲の良い女子がいたとは意外だった。昔の話になるが、蓮司はどちらかといえば女子と楽しく喋るタイプではなかった。


 もしかして彼女か?


 ……違うだろうな、多分。


 いくら蓮司でも彼女がいたら男神を継続するのは難しい。あいつならそれでも男神に選ばれそうだが、さすがに接戦とかになるだろう。今年も男神確実と言われているので彼女はいないはずだ。


 気になった俺は気配を消し、ゆっくりと近づいた。


「悪いな。面倒かけちまって」

「いいえ……さんが手伝ってくれたおかげ……上手く……ます」


 蓮司の声は聞こえるが、相手の声は聞こえにくい。

 

「首尾はどうだ?」

「……です。これなら……ますね」


 気になる。蓮司と仲良しの女子とか凄く気になる。

 

 ただ、俺はそこで踏みとどまった。


 これ以上はまずい。やっぱり盗み聞きとか良くない。親しき中にも礼儀ありだ。見つかる前にここから離れよう。


「俺は翔太との約束を破っちまった。あの手紙に書いてあった『大事おおごとにしない』と『復讐は望まない』のうち一つを破っちまった。あの悪魔共に全部喋っちまったからな。大事にしたようなもんだ」


 えっ?


 離れるつもりだったが、足が止まった。


 昨年の神会議で蓮司がキレたという話は白瀬からすでに聞いていた。だからそこに驚きはない。問題は今、目の前にいる女子にその話をしている点だ。


 蓮司は【4色の女神】を嫌っている。俺のために怒ってくれたからそれは確実だ。だから喋っている相手は女神達ではない。


「これ以上、親友を裏切るわけにはいかない。だから、復讐できなかった。でも、そのせいであの連中が野放しになってる。中学の頃にあの悪魔共がやったことにも気付かなかったし……ホント、翔太に合わせる顔がない」

 

 馬鹿言うな。


 おまえは一度も俺を裏切ってなどいない。それを言うならあの手紙のせいで余計な迷惑を掛けた俺のほうが謝るべきだろ。


 直接本人に言ってやろうと一歩踏み出した――


「そんなことありません!」


 少女の声が響き、俺は踏みとどまった。


「蓮司兄さんは裏切ってなんていません。悪いのは全部あの【4色の悪魔】です」

「……」

「大丈夫です。あの悪魔共は私がきっと打ち倒しますから!」


 感情が昂ったせいか、少女の声量がアップした。


「翔太兄さんはいずれ戻って来るんですよね?」

「……ああ。最後に翔太のお母さんと会った時に言っていたよ。いつになるかわからないけど、必ず俺に会いに来るって。高校生の間に実現するかはわからないが」


 その言葉を聞いた少女が力強く頷いた。


「戻ってきた時、あの悪魔共が女神呼ばわりされている今の状況にショックを受けるはずです。だから、今年の天華コンテストでその座から引きずり下ろします。あの馬鹿なお姉ちゃんを、あの許しがたい【4色の悪魔】をこれ以上のさばらせておくわけにはいきません!」

「同感だ」


 ……マジか。


 俺と蓮司に対してその呼び方をする人間はこの世に一人しかいない。


 初恋の幼馴染の妹であり、本当の妹のように可愛がっていた相手――


 少女が前に歩いたおかげで顔が見えた。


 あの頃とは雰囲気が大きく変わっていた。体が弱くてずっと寝ていた少女はどこにもいない。そこに立っていたのは姉に匹敵するくらい可愛らしい美少女だ。


「出来るかぎり応援はするが、俺の立場でそれをすると反発を生む恐れがある」

「わかっています。男神である蓮司兄さんが表立って協力すると女子生徒から恨まれちゃいますからね。ここまで支援してくれただけで充分です。私の派閥づくりを手伝ってくれてありがとうございました」


 その言葉を聞いた蓮司は笑った。愛しい妹に向けるような笑みだった。


「じゃあ、後はよろしく頼むな」

「はい、ご安心を。後は、この赤澤あかざわ桃楓ももかにすべてお任せください!」


 桃色の少女は力強く宣言した。

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