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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第2章 接近の夏休み

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閑話 赤色の衝撃

「いよいよ明日から二学期だ」


 夏休み最終日、私は部屋の中でつぶやいた。


 今年の夏休みは楽しかった。最高とまでは言えないけど、去年とは全然違った。壁に貼ってある写真を見つめながら、夏休みの出来事を振り返った。


 序盤は最悪だった。


 夏休みに入って一番悲しかったのは翔ちゃんの顔が見れないこと。それだけでテンションが下がり、生きる気力が失われた。


 それでも、夏祭りを楽しみに退屈な日常を耐えた。宿題したり、料理の練習をしたり、友達と買い物したり、去年と同じように日々を過ごした。


 ある日、友達から連絡があった。


 プールで虹谷君らしき人を発見したというのだ。

 

 ただ、その連絡があった時の私は信じなかった。だって、見かけた人間の中に黒峰と白瀬がいたというのだ。ありえない。翔ちゃんにとってあいつ等は天敵で、絶対に近づきたくない相手のはず。


「……多分、あれって事実だよね」


 夏祭りの日に本人から話を聞いたけど、恐らく間違いない。翔ちゃんは昔から嘘が下手だった。


 わからないのはどうしてあの二人と一緒に行くことになったのかだ。


「それからゲームの大会か」

 

 この情報はたまたま名塚君と会った時に聞いた。


 私が聞いた時はすでに大会が終わった後だった。青山と名塚君とトリオで出場したらしい。


 青山が配信者なのは前に噂で聞いたことがあった。別に興味なかったけど。

 

 名塚君から聞いた後、アーカイブでその配信をチェックした。名前は伏せていたけど、声は間違いなく翔ちゃんと名塚君だ。


 怒っても仕方ないのはわかってる。


 青山は翔ちゃんの正体に気付いていないのだから。気付いていない癖に仲良くするとかホントに忌々しい女。やっぱり私はあいつが大嫌いだ。


 私の夏が動き出したのは中盤から終盤に差し掛かった頃だった。


 クラスメイト達と夏祭りに行く日がやってきた。この日に向けて万全に仕上げてきた。ダイエットして、お肌の調子を整えて、可愛い浴衣だって用意した。鏡に映った自分の姿に満足した。これなら翔ちゃんの隣に立っても問題ない。


 我慢できなかった私は待ち合わせ場所に早く到着した。


 しばし待っていると翔ちゃんがやって来た。


 数十日ぶりに見る翔ちゃんは最高に格好よかった。一学期よりもイケメン具合がアップしているように見える。ちょっぴり日に焼けているのが個人的にグッときた。


『……似合ってるな。その浴衣』


 きゃっ、褒められちゃった。


 翔ちゃんから褒められて飛び上がりそうなほど嬉しい気持ちになる。

 

 二人で話をしながらクラスメイトを待った。


 会話の中で髪の毛が伸びていたことを注意した。中学の頃の姿に近くなったらあの悪魔共が気付くかもしれない。それとなく散髪するように仕向けた。

 

 隣に立っているだけで幸せな気持ちになれた。この時間が永遠に続けばいいのに。そう思った。実際にはすぐ終わっちゃったけど。


 クラスメイトが到着してから会場に移動した。久しぶりのお祭りは楽しかった。この夏休みで初めて笑った気がする。近くに翔ちゃんがいるから本気で楽しめたんだと思う。


 お祭りの途中、翔ちゃんの姿が見えなくなった。


 親友である猫田葉月ちゃんと喋っていた。


 葉月ちゃんと仲直りしてから以前と同じように親友に戻ったけど、翔ちゃんと二人きりはダメ。その組み合わせはまずい。


 会話の内容を聞くと、中学時代の話をしていた。


 私は慌てて割って入った。その話を深掘りしてほしくなかった。下手したら葉月ちゃんが翔ちゃんの正体に気付いちゃう。


 もし気付いたら間違いなく葉月ちゃんは私に言うだろう。そうなったら友里恵さんとの約束を破ることになっちゃう。約束まで破ったら今度こそ翔ちゃんと二度と話せないかもしれない。

 

 どうにか場を収めることができた。


 助かった。と、同時にチャンスが到来した。

 

 私はこの機会を逃すまいと相談があると翔ちゃんを引きとめた。妹とケンカしている話をすると、翔ちゃんは義妹とのエピソードを語ってくれた。


 私は知っている。その子が義理の妹であると。


 羨ましい。はっきりいって妬ましい。


『そういえば、今朝は俺の部屋でマンガ読んでたな。ベッドでごろごろしてたぞ』

『ベッドでごろごろ!?』


 良くない、それは絶対良くないよ。


 義妹とは結婚できる。マンガでも小説でも義妹はヒロインとして頻繁に出現し、主人公とくっ付くこともある。


 そんな話をしていたら、本人が目の前にやってきた。


 ――虹谷紫音。

 

 近くで見るとかなり可愛い子だ。


 パッと見だとギャルっぽい印象を受けるけど、清楚で上品な感じがする。立ち振る舞いも凛としている。

 

「まあ、あの感じなら紫音ちゃんは大丈夫そうかな」


 翔ちゃんからも紫音ちゃんからも恋愛に発展しそうな気配はなかった。仲良しなのは見ているだけでわかり、昔の私と妹みたいに映った。


 その紫音ちゃんと会話していると、私を家に誘ってくれた。


 迷った。あそこには友里恵さんがいる。


『来週なら両親は新婚旅行でいないんですよ』

『絶対に行くね!』


 最高の夏祭りだった。


 でも、ルンルン気分はすぐに終わった。


 ――夕食会だけど、他にも参加者が来ることになった。


 連絡先を交換した翔ちゃんから初めて届いたメッセージに絶望した。


 当日になると、そこには何故か悪魔共が勢ぞろいしていた。しかも白瀬が発案者みたいな感じになっていて、何故か料理対決が始まった。


 理解が追いつかなかった。


 でも、こいつ等との勝負には負けられない。しかも今回は審査員が翔ちゃんだ。私の手料理を食べてもらうチャンスだ。


 意気揚々と買い物していたら白瀬から話があると呼び出された。嫌だったけど、翔ちゃんの部屋で話をするといったので付いていった。


 翔ちゃんの部屋に入るなり、白瀬の奴は切り出した。


『では、単刀直入にいきます。無川翔太さんのことを覚えていますよね。赤澤さんはあの方をどう思っているのか聞かせてください』


 衝撃的な言葉だった。頭を鈍器で殴られた気分になった。

 

 こいつ何を言ってるの?


 翔ちゃんの名前を翔ちゃんの部屋で出すとかありえないでしょ。


 もしかして、気付いたの?


 いや、ありえない。私以外に気付くはずがない。それくらい今の翔ちゃんは昔とは違う。イケメンと浮気して翔ちゃんを捨てるようなクソ女が気付くとかありえない。


 頭をフル回転させ、この状況を冷静に分析する。

 

 可能性が一番高いのは、正体には気付いていないけど疑問を抱いているってところかな。そう考えると納得できる。私をここに呼び出したのは翔ちゃんの幼馴染だから。 翔ちゃんの正体に気付く可能性が一番高いと判断したからだ。


 なるほどね。


 白瀬の思惑を読み切った私は――


『……それ、誰だっけ?』


 知らないフリをした。


 私の発言で白瀬の中で疑問が生じたはずだ。きっと頭の中で「幼馴染の赤澤夕陽が気付かないのなら違うのか」と結論を出したに違いない。

 

 大好きな翔ちゃんを知らないというのは心苦しいけど、ここでの話が翔ちゃんに聞かれるはずないし。


『では、虹谷さんのことはどう思っていますか?』

『……好き』


 逆にここは嘘を吐かない。


 そうすることによって白瀬の頭の中で【無川翔太=虹谷翔太】とは絶対にならないはず。私ってば天才すぎる。


 白瀬はどこが好きなのか聞いてきた。


『全部が素敵だからに決まってるでしょ。顔は超イケメンだし、すごく優しいんだよ。それに運動神経は抜群で、勉強だって頑張ってるよね。困ってるといつも颯爽と現れて助けてくれるし、本物の王子様みたい。あんな素敵な男子は他にいないよ。惚れない理由がないもん。好きっていうか、大好き!』


 ありったけの気持ちを伝えた。


 これは本心だ。私はずっと好きだったし、今も好きだ。


 その後、白瀬は女神達が険悪になった理由を聞いてきた。答えずにいると、私と関係を修復したいと申し出てきた。


 ふざけたこと言うな。おまえみたいな浮気女と仲良くできるわけないだろ。


 ……でも、待って。


 こいつと仲良くする気とか全然ないけど、ここで要求を突っぱねるのも良くないかもしれない。


 表向きだけでも仲良くしていたら情報が入る。白瀬は翔ちゃんの正体に気付きかけているわけだし、もし正体にたどり着きそうな時は私が修正してあげよう。


 白瀬と仲直りをして部屋を出た後、私はこっそり翔ちゃんの部屋に戻った。


 誰もいないのを確認してベッドに飛び込む。


 ここで翔ちゃんが寝起きしていると思うだけで顔がにやける。大きく息を吸い込むと、私の体内に翔ちゃんが入って来る気がして興奮した。

  

 枕を抱きしめ、ぎゅっと抱きしめる。

  

 いつも翔ちゃんが使ってる枕だと思ったら、私の足がパタパタ動く。今まで溜まっていたナニかが解放される気がした。


 しばらくそうしていると、虚しくなってきた。

 

 ……我ながら馬鹿だったな。


 あんなことをしなければ枕じゃなくて本人に抱きつけたのに。

 

 そう思うと暗い気分になり、私は部屋を後にした。その後についてはよく覚えていない。集中力を欠き、料理どころじゃなかった。


 あれから数日が経過し、今日を迎えた。

 

「二学期はもっと積極的に行こう。もっともっと意識させよう。絶対に好きになってもらわないとね。マイナスから好きに持っていくにはすっごく頑張らないと!」


 罰を受け続けている私は謝ることもできない。だから、翔ちゃんのほうから好きになってもらうしかない。


 二学期は最初から勝負を仕掛ける。


 ◇


 待ちに待った二学期が始まった。


 私は序盤から仕掛ける。猛アタックして惚れてもらう。翔ちゃんが好きって言ってくれたアイドルスマイルで押し切る。


 しかし、現実っていうのはクソだ。


「……」


 翔ちゃんが、あの憎き白の派閥に入ってしまった。その衝撃的な情報を聞いた私の瞳が、真っ赤に染まった。

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