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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第2章 接近の夏休み

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第27話 4色の料理対決後

「料理対決の結果を発表します!」

 

 いくつもの皿が並ぶ食卓の前に立った紫音が声を張る。背後からドラムロールでも聞こえてきそうなテンションだ。


「勝者は紫音です!」


 そして、勝者の名前を発表した。


「おめでとう!」

「おめでと!」


 八雲君と俺が拍手で讃える。


 4色の女神による料理対決イベントだったが、何故か勝者となったのは我が義妹である虹谷紫音だ。


 こうなった経緯を説明しよう。


 青山と白瀬の話し合いをクローゼットから覗いていた俺はその衝撃のせいでしばし動けなかった。その後、ようやく復帰してクローゼットから出ると――


 そこには地獄が広がっていた。


 女神達は苦悶の表情を浮かべ、料理なのかよくわからないものと睨めっこしていた。あちこちに食材やら物が散乱し、一見すると事件現場のようだった。


 近くにいた八雲君に事情説明を求めた。


 そもそもこの料理対決は突然のイベントだった。白瀬が勝手に企画したもので、準備も何もできていなかったのだ。


 いきなり料理を作れと言われても難しい。呼びされた女神達には説明がなかったわけだからな。ただ、他の女神に負けたくないという一心のみで連中は参加した。


 グダグダなスタートを切った料理対決だったが、問題はそれだけじゃなかった。白瀬との話し合いだ。

 

 あの話し合いの後、女神達のテンションはおかしくなったらしい。


 動揺というか、別のことに意識が向かっている様子だったという。集中力を欠いて指を傷つけたり、うっかり皿を落としたり、ハプニングが続出した。


 そんな状況なので発起人の白瀬が圧倒的に有利に思えたが、あいつは純粋にポンコツだった。


 何もないところで転倒したり、包丁を落っことしたり、そりゃもう酷い有様だったらしい。しかも当人は料理経験がないというおまけつきだ。完成したのはぎりぎり料理と呼べるような代物だった。


 ……このザマでよく料理対決をしようと思ったな。


 一人暮らしでも自炊はしておらず、毎日買ったもので済ませているらしい。


『このままでは料理対決イベントは大失敗に終わる』


 地獄を見た俺が心の中で感想を漏らした時、紫音が参戦してくれた。


 これによって地獄は終わった。

 

 家庭の事情で紫音は幼い頃から料理をしていた。腕前はかなりのものだ。現在でも母と共にキッチンに立ち、毎日のようにその腕を振るっている。


 紫音が作った料理を食べた女神連中は目を丸くして敗北を認めた。


「当然の結果かな。おめでとう」

「ボクも納得。降参だよ」

「……異論なし」

「悔しいという言葉も出ないほどの完敗でしたわ」


 女神はそれぞれお手上げし、最終的には紫音の作った料理を堪能する形で対決は幕を閉じた。和やかとまではいかないが、それなりに雰囲気は悪くなかった。


 こうして、4色の料理対決は引き分けに終わった。


 ◇


 次々と女神が帰宅する中、最後まで残った白瀬が俺の部屋をたずねてきた。


 八雲君はキッチンのほうで紫音と一緒に片づけを行っている。その光景を見た白瀬は特に何も言わなかった。


「では、報告させていただきますわ」

「……頼む」


 俺がクローゼットの中で聞いていたと知らない白瀬は、話し合った内容を丁寧に説明してくれた。


 報告には一切の遠慮がない。少しくらい優しさをブレンドしてほしかったが、本当にありのままを説明してくれた。傷口に塩をベタベタと塗りたくられたような気分になったが、白瀬に悪気はない。


 ちなみに、クローゼットの中に潜んでいたことは言わない。秘密の会話を盗み聞きしていたようで恥ずかしいというか、何か情けないからだ。


「これではっきりしましたわね」

「……ああ」

「彼女達はかつてのあなたを嫌っています。それこそ、存在を抹消するほどに」


 言われなくてもわかっている。嫌いだから俺に攻撃してきたのだ。


 ただ、わからないのは青山だ。


 あいつだけは俺を忘れていないが、何故嘘を吐いたのだろう。


「ですが、すべての女神が今のあなたに対して強い好意を持っています。赤澤さんは恋愛感情を、黒峰さんは強い信頼を、青山さんは熱い友情を。全員が恋愛感情とは言わないまでも、間違いなくあなたに対して好意を抱いています」

「……」


 この二年間、俺は努力を重ねた。


 自分で断言できるくらいには見た目が変化している。中身のほうは自分ではわからないが、もしかしたら激変しているのかもしれない。


「俺はどうすれば――」

「私見を述べさせていただきますが、正体がバレたらロクなことにならないと思います。直に話してみてそれを感じました。虹谷翔太さんに対しての評価は非常に高いのですからね」


 その通りだ。

 

 好意を持っていた相手が、実は存在を抹消したいほど嫌悪していた相手だった。もしそれに気付いたとしたら、どうなる。


 答えは不明だ。


 ただ、白瀬の言うようにロクなことにはならないだろうな。プライドの高いあいつ等なら怒り狂う可能性もある。


「……二学期は荒れます」

 

 ふと、白瀬がつぶやいた。


「荒れるって?」

「あの学園における最大のイベントがありますから」

「文化祭か」

「ええ。彼女達だけでなく、派閥の人々も自らの推しを単独の女神にするため動きだすでしょう。例年も自分の推しというか、好みの人を女神にしようと推薦する動きはありました。しかし今年は特に凄い騒ぎになりそうです。昨年は史上初の四人同票でしたからね。派閥の方々はとても頑張るでしょう」


 派閥か。確かそれぞれの女神の支持団体というか、ファンクラブみたいな感じの連中だったな。


「一学期は大人しくしていましたが、二学期になれば違います。票集めに奔走するはずです。それに、女神と懇意にしているあなたをどう考えているか」

「というと?」

「間違いなくあなたを勧誘するでしょう。あなたを手に入れれば票が手に入るだけでなく、他の女神の派閥に対して牽制できますからね」


 なるほど、女神の仲が悪いことはすでに知られている。


 その派閥とやらの関係も悪いのかもしれない。俺を手に入れることで相手を煽るとかそういう感じだろう。

 

「提案があります。翔太さん、わたくしの派閥に入ってください」

「――えっ!?」


 不意打ちだった。


「別にわたくしを支持する必要などありません。天華コンテストでわたくしに投票する必要もありませんから」

「……?」

「わたくしを盾として使ってください。勧誘から身を守るためです。女神相手に身を守れるとしたら、女神だけです。あの時の罪滅ぼしとして、今度はわたくしがあなたを守ってみせますわ」


 白瀬の提案に俺は目を瞬いた。

 

 確かに最初から白瀬のところにいれば、他の女神とか派閥みたいな連中からちょっかいを出されずに済むかもしれない。


 ただ、それは中々に勇気のいる決断だった。


「……少し考えさせてくれ」

「ええ、じっくり考えてください」

 

 話はこれで終わった。


「では、これで失礼します。帰りは八雲が送ってくれるのでご安心を」

「あ、ちょっと待ってくれ」


 去ろうとする白瀬に声を掛け、クローゼットから袋を取り出した。それを白瀬に渡す。


「あの、これは?」

「誕生日って聞いたからな。その……プレゼントだ。誕生日おめでとう!」 


 白瀬はしばしキョトンとした顔をした後で、頭を下げた。


「あ、ありがとうございます」

「俺も八雲君と一緒でプレゼントとかわからなかったから、ネットで評価が高かった物を買っただけだ。いらなかったら適当に処分してくれ」

「いいえ、大切にしますわ!」


 白瀬は見た目通りの幼い笑みを浮かべると、ぎゅっと袋を抱きしめた。


 こうして無事に夏休みの全イベントが終了した。

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