第23話 4色の料理対決
運命の日を迎えた。
あれから髪を切り、身だしなみを整えた。腑抜けていた自分自身に活を入れ、転校直後のような気持ちでその日を迎えた。
二度と油断はしない。
「……手伝ってくれてありがとな」
対面に腰かける白瀬に感謝する。
「いえ、気にしないでください」
本日は女神を集めて夕食会を行う予定になっている。
集合時間は午後なのだが、白瀬は昼前にやってきた。これは予め決めていたことだ。すでに正体がバレている白瀬には手伝ってもらいたいことがあった。
そう、身バレに繋がりそうな物を片付けるという作業だ。
二人で家の中を探索し、俺の正体に繋がりそうな物を隠した。
家の中は危険物だらけだ。
前にカラオケで見せた中学の卒業アルバムは対策していたが、小学生の頃の卒業アルバムはそのまま残っていた。他にも子供の頃の写真が収められたアルバムがリビングに置いてあった。黒峰はともかく、赤澤と青山は昔を知っているから見られたらバレる。
注意するのは俺だけじゃない。
幼馴染だったあの女は俺の母の顔を知っているので細心の注意を払う必要がある。写真一枚が事故の元だ。
白瀬が手伝ってくれたおかげで助かった。
「ですが、こうしてみると本当に変わりましたね」
手元にある昔の写真を手に取り、白瀬が今の俺と見比べる。
「……そうか?」
「ええ、この変化に気付ける人はいないでしょうね」
「元カノにも気付かれなかったくらいだしな」
「あら、そうでしたわね」
俺達は笑い合う。
正体を知られた時はどうなるかと思ったが、すでにバレているので変に緊張しなくて済むのは精神的に大きい。
「で、今日はあいつ等に色々と聞くんだよな?」
「そのための集まりですわ」
「ホントに大丈夫なのか。聞いても連中は素直に答えないだろ。それに全員揃ってる状態で聞けるのか?」
「安心してください。策があります」
自信満々な様子だ。
今回、女神を招いてただ食事を行うだけではない。
あいつ等には聞くことがある。現在の俺をどう思っているのか、そして何故お互いを嫌うようになったのか。
「……わかった。なら、そっちは任せた」
自信があるのなら任せるしかない。こっちはボロが出ないように全力を尽くすとしよう。
◇
時間は流れ、午後。
リビングは重苦しい雰囲気に包まれていた。
天華院学園が誇る【4色の女神達】が勢ぞろいしている。その様子は一見すると非常に華やかで、アイドルグループの楽屋かと勘違いしてしまいそうになる。
「……」
「……」
それは本当に勘違いである。
女神達の間に会話はない。お互いに目も合わせなければ挨拶もしない。ただただ無表情で隣に座っているだけだ。
そんな重苦しい場のはずなのに、女神の集結に紫音は大興奮だった。さっきから落ち着かない様子だ。その隣に座っている八雲君もさすがに女神勢ぞろいには緊張を隠せないらしく先ほどから存在感が消えている。
「さて、紫音ちゃん。どうしてこうなってるのか聞いていいかな?」
全員揃ったところで口を開いたのは赤澤だ。
涼し気な声といえば聞こえはいいが、もう完全にピキっているような声色だった。
赤澤としては他の女神が来るなんて一昨日まで知らなかっただろうし、この状況に文句の一つでも言ってやりたいというのは妥当だろう。誘われた時点では他の参加者がいるなど知らなかったはずだし。
「ボクも聞きたいな。これってどういう意図がある集まりなのかな」
青山も続く。
突如として参加が決まった青山はこの状況に怒りというより戸惑っている様子であった。
「……」
黒峰は無言だ。
ショピング中にたまたま誘われたという黒峰は先ほどからチラチラと周囲の様子を伺っている。
「はい。それに関しては白瀬先輩から説明させていただきます」
紫音がそう言うと視線が白瀬に集まる。
今回の集まりは紫音が赤澤を家に招待したことから始まったわけだが、女神が集まると聞いて白瀬にホスト役を任せたようだ。
俺はその辺りの事情を知らないのでここは成り行きを見守ることにした。
「まずはお忙しい中、集まっていただきありがとうございます」
丁寧にお辞儀をしてから。
「わたくし、以前から女神の不仲を嘆いていました。同じ学園で生活する者同士、手を取り合って仲良くするのがいいと思うんです。だから本日は夕食会の場を用意いたしました。紫音さんにもお手伝いを願ったんです」
などと言いだした。
女神を集めた理由としてはある意味では納得できるものだろう。実際にその気があるのかは知らないけどさ。
「親睦を深めるため女神達で食事を作って食べるという計画をしました。ですが、わたくし達がいきなり手を取り合うのは無理があると思います。なので、わたくし達らしく料理対決をしましょう」
白瀬が爆弾を投下した。
その一言に女神達の顔色が変わった。
「わたくし達はよく比較されています。容姿だったり、運動神経だったり、学力だったりと様々です。しかし女子力の定番といえば料理だと思うんです。現代では男性もキッチンに立つ時代ですが、それでも将来的に旦那様に手料理を振る舞う機会もあるでしょう」
……これが策なのか?
仲良くなりたいから一緒に料理しましょう、というのはまだわかるが対決形式にしてどうするんだろう。
とか考えていたら、白瀬以外の女神がちらっと俺のほうを見た。
視線に何の意図があったのか謎だが、白瀬から聞かされた”惚れている”という言葉のせいで変に緊張してしまった。
「ふーん、料理対決ね。別にいいんじゃないかな」
「っ、ボクが料理を作るのか」
「……構わないよ」
三者三様の反応を見せる。
赤澤は得意気で待ってましたとばかりだ。
青山は引きつった顔をしている。
黒峰は素っ気ない態度だが、瞳にやる気が満ちていた。
「審査を行うのはこちらの三人ですわ」
審査員は女神ではない俺と紫音と八雲君だ。
紫音と八雲君はニコニコしている。まあ、この二人にしてみれば学園の女神が料理作ってくれるわけだからテンション上がるだろうな。
こうして急遽、女神による料理対決が始まった。




