第22話 白い再会後
どうして二人がここに?
突然の事態に戸惑っていると、八雲君は持っていた袋を後ろ手に隠した。
「あれ、白瀬先輩だ!」
紫音が白瀬を見つけて挨拶する。
「お邪魔していますわ」
「いらっしゃいませ。あの……それで、これってどういう状況なんですか。もしかして二人はそういう関係だったりしちゃうんですか?」
にやけ顔で口にする紫音。
どうやら俺達の関係を疑っているらしい。この状況なら俺が家に誰もいないタイミングを見計らって白瀬を招いた、と考えるのも無理はない。
どう言い訳しようか悩んでいると、白瀬はゆっくりと首を振った。
「残念ながら紫音さんが想像しているものとは違いますわ。先ほど外を歩いていたら突然体調が悪くなってしまい、そこをたまたま通りかかった翔……虹谷さんに助けてもらったんです。涼しい部屋で休ませてもらっていました」
スラスラと嘘が出るのは感心するよ。
言い淀む様子もなければ動揺もせず、流れるように嘘を吐く白瀬に若干の恐怖を覚えていると紫音は納得した様子を見せた。
「体調は大丈夫ですか?」
「ええ、少し休んで回復しましたわ」
紫音は安堵の表情を浮かべた。
「ところで、お二人こそデートですか?」
カウンターとばかりに白瀬が微笑を浮かべて尋ねる。
「違いますよ。紫音達はちょうど白瀬先輩の――」
「言っちゃダメだって、虹谷さん!」
八雲君が慌てた拍子に後ろ手に隠していた袋が見えた。
某化粧品メーカーの袋だった。俺はそこまでコスメとかに詳しくないが、クラスの女子がたまに話していたので覚えていた。
「八雲君、その袋は?」
「え、えっとこれは……」
「これ無理だって。もう誤魔化せないよ、白瀬君。タイミングとしては微妙だけど、これはこれで劇的かも」
これは交際をカミングアウトする流れか?
しかし違った。
八雲君は観念したように深々と息を吐くと、持っていた袋を前に出した。
「本当なら当日に渡したかったんだけど、仕方ないか」
その袋を白瀬を渡した。
「……八雲?」
「もうすぐ姉ちゃんの誕生日だろ」
「えっ、ええ」
「例年だと姉ちゃんのリクエスト聞くけど、今年は姉ちゃんが家から出てるからさ。それで、どうせならサプライズでプレゼントしようかなって思ったんだ。でも、何を渡したらいいかわからないから虹谷さんに付き合ってもらったんだ。俺は流行とかわからないし、女子に聞くのが一番だと思って」
白瀬の誕生日プレゼントを買いに行っていたのか。白瀬に対してデートっぽく言ったのはそれを悟らせないためだろう。
姉想いの優しい弟じゃないか。俺の中で八雲君の株がますます上がっていくよ。
紫音と二人きりで出掛けたいという下心もあっただろうけど、家族に対して配慮を欠かさないところは素晴らしいの一言だ。君になら紫音を任せられそうだ。
プレゼントを受け取った白瀬を見る。
きっと心中は色々な感情が入り乱れてるだろうな。俺がこいつの立場ならガクガク震えるところだ。勝手にデートだと決めつけていたところでコレだ。さながら胸中はジェットコースター状態だな。
しかし、白瀬は感情を押し殺して、お姉さんらしい笑みを浮かべる。
「ありがとう、八雲」
顔と声には出していないが、プレゼントをぎゅっと抱きしめた。嬉しさを堪えきれないって感じが出ていた。
プレゼントを渡した後、紫音と八雲君は部屋の中に入ってきた。紫音はテーブルに置かれた麦茶を見ると台所のほうに走っていき、二人分の麦茶を用意して戻ってきた。
「思ったより早く帰って来ちゃった。晩御飯はファミレスで済ませよ」
麦茶をすすりながら、紫音はまったりした様子で言った。
「……待て、急にまったりするな。晩飯の件は了解したが、さっき慌てた感じで相談があると言ってただろ。それについて話してくれ」
先ほど紫音が相談があると言っていたのを思い出す。
「あっ、そうだったね。相談が二つあったんだけど、一つは今解決したところ」
「解決?」
「誕生日プレゼントだよ。白瀬君が先輩にサプライズで渡したいって言い出してね。家にプレゼント持っていくだけってのは味気ないから、良い案がないかお兄ちゃんに相談しようとしたんだ」
それで戻ってきたわけだ。
たまたま白瀬がいたから渡して問題は解決したのか。ある意味ではサプライズだったし、劇的といえば劇的だったかも。
「もう一つの相談は?」
「ショッピング中に月夜お姉様に会ったんだ」
「ほうほう」
「明後日、我が家に来ることになったの」
「……は?」
異次元の方向から殴られたような衝撃だった。
明後日といえば赤澤が家にやって来る予定になっている。赤澤が家にやってくるだけでも恐ろしいイベントなのに、黒峰までやって来るってのか。
いやいや、それ以前の問題だ。
「……女神同士の仲が悪いのは知ってるだろ?」
「知ってるよ。有名だから」
「だったらどうして――」
「話してる途中でつい明後日のこと言っちゃったんだ。そしたら、お姉様も興味あるみたいな反応だったから」
黒峰が興味を持ったのか。
お姉様と慕う相手だし、流れで紫音が誘うの無理ないか。
「黒峰は了承したのか?」
「来てくれるって」
「……マジか」
あいつの行動もよくわからんな。
「その件ですが、実はわたくしも参加することになりましたわ」
白瀬が割って入った。
「ホントですか!?」
「ええ、誘っていただきました」
そう言ってこっちを見たので、頷いておいた。
参加者が増えたからか、紫音は無邪気に喜ぶ。しかし状況が変化したこともあり、俺は白瀬の耳元に近づいた。
「想定外の事態になったけど、大丈夫なのか?」
「こうなったら両方から聞きますわ」
「……出来るのか?」
「やるしかありませんわ。すでに黒峰さんを誘った後のようですし、ここで拒否すると紫音さんと黒峰さんの関係がギクシャクする可能性があります」
その通りだ。もし赤澤の口からその話が漏れたら、どうして自分を拒否したのかと黒峰に問われるだろう。そうなったら面倒だ。
「この際、青山さんにも声を掛けたほうがよろしいのでは?」
「マジで言ってんのかよ」
「折角の機会です。この機会を逃せばあの方々の気持ちは永遠にわからず仕舞いです。覚悟を決めるなら今ですわ」
一理あるかもしれない。
あの三人の気持ちや考えを知っておきたい。
でも、いくら何でもそれはキツすぎる。女神全員が家に集合するとか俺にとって罰ゲームどころじゃない、これはもう”罰”だ。
「安心してください。わたくしがフォローしますから」
「……わかった」
紫音にその旨を話す。
俺が青山の連絡先を知っていることに驚いていた様子だったが、女神が集結することが楽しみなようであっさりとOKを出した。
「なら、全員で料理作りましょう。女神の夕食会です!」
どうやら夕食会を企画しているらしい。台所に釘付けになってくれたら俺の部屋には来ないだろうからいいアイデアかもしれない。
「あっ、そうだ。白瀬君も来なよ」
「えっ……いいの?」
グッドアイデアだ。話す相手がいると俺も助かる。
八雲君の肩に手を置く。
「是非参加してくれ、八雲君!」
「いいんですか?」
「男が俺だけとか寂しいだろ。それに料理は大勢で食べたほうが美味いからな。両親はいないから安心してくれ」
「わかりました、先輩。ありがたく参加させていただきます」
その後、俺達は四人でファミレスに向かった。
ファミレス内で夕食会のことを青山に連絡するとあっさりと了承を得られた。黒峰にも連絡したが、こちらも構わないと返事があった。赤澤も了承してくれたが、文面が無機質だったのがちょっと気になった。
最後に白瀬と連絡先を交換し、こうして俺と白瀬の再会は終わった。




