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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第2章 接近の夏休み

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第17話 赤いイベント後

「それじゃ、またね」

「また学校でな」


 電車が駅に到着し、そのまま解散となった。


 家に向かって歩き出す。祭りの雰囲気にあてられたせいか体が火照っている。夜風が心地よかった。


 久しぶりにあったクラスメイトと親睦を深められたのは良かった。みんな元気そうで何よりだ。二学期からも仲良くしていきたい。


 さて、夏祭りイベントが終わり非常に気分を良くしていたわけだが。


「……」

「……」


 何故か赤澤が隣を歩いている。


 どうしてこうなっているのか俺にもわからない。普通に電車を降り、普通に解散となり、普通に家に向かって歩いていたらいつの間にか隣にいた。気配もなく隣にいるとか軽くホラーではないだろうか。


 帰り道が同じならともかく、赤澤の家はこっちじゃない。逆方向とまではいかないが、少なくともこっちの道ではない。


 と言ったら家を知っているのがバレるので黙っておく。


「……赤澤の家ってこっちなのか?」

「違うよ」

「だったらすぐに帰ったほうがいいぞ。あんまり遅いと家族が心配するだろ。ほら、辺りはもう真っ暗だしさ」

「行きの電車乗る前に遅くなるかもって連絡したから大丈夫だよ」


 行く前に駅でやり取りしてたあれか。あの時点から帰りが遅くなると連絡していたとはマジで用意周到な奴だ。


「家がこっちじゃないなら一体どうしたんだ?」

「紫音ちゃんに誘われたから下見しておこうと思って」

「誘われた? 下見?」

「さっき紫音ちゃんから招待されたの。来週、遊ぼうって。家に来てほしいって言われたから下見しておこうと思って」

「……」


 何だと?


 紫音から何も聞いちゃいない。


 先ほどこそこそ喋っていると思ったらこんな計画をしていたとは。紫音が誘っている以上、俺が拒否するわけにはいかない。


「あれ、聞いてない?」

「初耳だ」

「虹谷君のご両親はお出かけしてるから気兼ねしなくていいからって」


 再婚から忙しくしていた両親はようやく新婚旅行に出かける。再婚から四か月以上が経過したタイミングだが、仕事でまとまった休みが取れたから出発することになっている。


 俺と紫音も誘われたが、新婚旅行の邪魔などできないと断った。


「宿題はいいのか?」

「とっくに終わってるよ」


 ちなみに来週は夏休み最後の週である。俺も宿題は終わっているし、これといって用事はない。


 用事がないことは紫音がすでに話している可能性がある。この場面で嘘を吐くのは得策じゃないだろう。なに、家にこいつが来ても外出してれば問題ない。


「あっ、出かけないでね。晩御飯を作る約束だから」

「……」

「その顔は腕前を信用してないでしょ?」

「…………」

「安心してほしいな。こう見えても昔から家のお手伝いしてたんだよ。高校に入ってからは本気でお料理の勉強もしてるの」


 別に聞いちゃいないぞ。


 心の中で悪態を吐きながら。


「そいつは楽しみだな。俺は運がいいらしい」


 愛想笑いを浮かべておく。


 しかし紫音よ、そういうことは先に言っておいてくれ。兄に相談のひとつくらいしてもバチは当たらないだろ。


 とか思っていたらスマホにメッセージが届いた。


 ――彼女がいないお兄ちゃんに朗報です。来週、赤澤先輩を家に誘ったよ。駄目で元々だったけどまさかのOKでビックリです。お兄ちゃんも女神様をもてなす準備よろしくね。おまけに晩御飯は赤澤先輩が作ってくれるみたい。あっさり来てくれることになったし、もしかしてお兄ちゃんに気があったりしてね。


「……」


 やってくれたぜ。


 夏祭りが今夏最後のイベントだと思っていた俺が甘かったらしい。新イベントが追加されちまった。


「それって虹谷君のスマホ?」


 赤澤の視線が俺のスマホに向かう。そういえばこいつにはスマホを買ったことを伝えてなかったな。


「買ったの?」

「お、おう」

 

 赤澤がジッとスマホを見つめる。その視線の意味に気付かないほど愚鈍ではないつもりだが、あえて気付かないフリをする。


 スマホをポケットに入れようとしたら。


「……買ったんだね、スマホ」

「ちょっと前にな」

「使い心地はどう?」

「いい感じだ。アプリで遊ぶの楽しいぞ」

「そうなんだ。私はあんまりゲームしないからわからないけど、虹谷君がプレイしてるゲームなら入れて見ようかな」


 会話が途切れたのでスマホをポケットに入れようとするが。


「誰と連絡取り合ってるの?」

「えっと、家族とか」

「家族と連絡取り合えて便利だよね。けど、学生なら友達やクラスメイトと連絡を取り合うのも重要じゃないかな」


 これは連絡先を聞かないといけない流れなのか?


 というよりも、聞かないと帰してくれそうにない雰囲気だ。青山や黒峰と連絡先を交換したことが後でバレたら面倒なことになりかねないぞ。


 いやでも、こいつの連絡先など――


「名塚君と連絡先の交換はした?」

「お、おう」

「……」


 ジッと赤澤がスマホを見つめる。


「……えっと、連絡先を交換しないか?」

「えっ、いいの!?」


 白々しい。あれだけ聞きたそうにしていたら聞かないわけにはいかないだろ。


「クラスメイトだしな」

「うん。じゃ、交換しよ」


 嬉しそうな顔しやがって。


 ……昔じゃ考えられなかったな。


 無川君時代ではこいつと連絡先の交換するとかありえなかっただろうな。こいつも俺の正体を知らないからって無邪気に喜びやがって。


 そんなこんなで雑談しながら歩いていると家に到着した。


「ここが虹谷君の家か」

「特に変哲もないだろ」


 赤澤はじろじろと家を見た後で。


「場所はわかったよ。突然なのに案内してくれてありがとね」

「気にするな」

「じゃあ、私は帰るね」


 歩き出した赤澤が闇の中に消える。


 完全に姿が見えなくなると妙な胸騒ぎがして、気が付くとその背中を追いかけていた。


「――ちょっと待った!」

「虹谷君?」


 赤澤の隣に並ぶ。


「家まで送ってく」

「えっ、でも悪いよ」

「夜道は危険だろ。もしもの時は浴衣じゃ走りにくいだろうし」


 常識的に対応しよう。普通の男ならここは送っていく場面だ。もしこれで赤澤が事件にでも巻き込まれたら寝覚めが悪い。


 ◇


 結果から言えば誰にも会わなかった。


 そして、懐かしの家の前にたどり着いた。家には灯りがついていたので家族がいるんだろう。どんな顔をすればいいのかわからないので俺は家の少し手前で止まった。


「……送ってくれてありがとね」

「気にするな。それじゃ」

 

 立ち去ろうとする俺だったが、赤澤は「待って」と声を掛けてきた。振り返ると、呼び止めたはずの赤澤があたふたしていた。


「どうした?」

「えっと……その」

「用がないなら行くぞ」

「そ、それ可愛いね!」


 赤澤が指さしたのは俺の頭にある変なキャラのお面だった。家に帰ったら物置送りになっていただろう。

 

「欲しいならあげるけど」

「貰っていいの?」

「どうせ家に持って帰ってもゴミだろうからな」


 勢いで購入したよくわからないお面を赤澤に渡した。何のキャラかわからないそのお面を大事そうに抱えている姿は多少不気味だったが、まあ喜んでいるようだしいいだろう。


 お面くらいで喜ぶとか子供かよ。


「来週、楽しみにしてるからねっ!」

「わかった。それじゃ」

「あ、それから髪は切ったほうがいいからね」

「来週までには切っておく。じゃあな」


 俺は再び自宅に向かって歩き出す。


 こうして夏祭りイベントが今度こそ終わった。来週の新イベントが決まって色々と複雑な気分ではあるが、対応は紫音に任せればいいだろう。ここまで来たらバレる心配もないだろうしな。


 ……

 …………


 しかし、この時の俺は知らなかった。


 赤澤のことを忘れるくらい衝撃的な出来事がその前に発生することを。

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