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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第2章 接近の夏休み

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第15話 赤い動揺

「前に夕陽とケンカっていうか、仲違いしてたの覚えてる?」


 忘れるわけがない。


 あの一件は俺にとって大きかった。赤澤と関わってしまった一件ではあるが、あれのおかげで転校後スムーズにクラスに溶け込むことができた。今の俺がこうして明るく生活できているのは猫田のおかげといっても過言ではない。


 あれから隣の席である猫田には何かとサポートしてもらっていたりする。


 まだ不慣れだった転校直後には移動教室の場所を教えてもらったり、学園の行事について教えてもらったりした。


 二学期に行われるであろう席替えを考えると今から気が重い。


「もちろん覚えてるぞ」


 それに、あの一件で女神に逆らうのがどれほど怖いことかを知った。連中を悪魔と思いながらも拒絶せず関わっていたのは、猫田の件を見たからだ。


「原因は中学時代にあるんだけど、その時のこと思い出しちゃって」

「それって――」


 赤澤の大切な人を傷つけたって話だったな。


 答えはわかっているが、一応ここはその大切な人が誰なのか確認しておく必要があるだろう。万が一にも別人だったら話が嚙み合わなくて変な感じになっちまうからな。


「赤澤の大切な人を傷つけたって話だよな」

「そう。夕陽の大切な人に酷いことしたっていうか、言ったって感じなのかな。とにかくうちが馬鹿だったのは間違いないんだけど」

「……ちなみにその大切な人って誰なんだ」

「夕陽の幼馴染」


 それを聞いて確信した。あいつの幼馴染といえば我が親友でもあり、俺にとっても幼馴染である犬山蓮司だ。


 俺も一応は赤澤の幼馴染と呼べる関係だが、中学時代のあいつはそれを誰にも言っていない。だから猫田は俺があいつの幼馴染と知らないはずだ。


 そもそも俺は猫田に何もされちゃいない。傷つけるどころか助けられた側だし。


 幼馴染という点からすれば赤澤の妹も幼馴染になるわけだが、猫田の口調から考えて赤澤の妹ではないだろう。


 というわけで、消去法で蓮司と確定した。


 これで話がすれ違ったりする心配はなくなったな。世の中にはすれ違いや勘違いでとんでもないミスに繋がるから気を付けないと。


「……相談はその幼馴染を傷つけた過去を思い出したってことか」

「うん」

「けど、その件なら赤澤に許してもらったんだろ?」

「夕陽には許されたけど、まだその人には謝れてないんだ。だから思ったんだ。うちはまだ謝ってないのに、こんな風に毎日楽しく生活してていいのかなって。そう考えたら何をしてても楽しくなくて」


 要するに猫田は本人に謝罪していないのに自分が楽しく過ごしていいのかって思いつめたわけだ。


 まじめな奴だ。


 卒アルの落書きで知ったが、猫田は蓮司に惚れている。惚れている相手にやらかしてしまったから感情がぐちゃぐちゃになっているんだろう。


 猫田が何をしたのかはわからないが、暴力とか犯罪じゃないだろう。本人も『酷いことしたっていうか、言ったって感じ』と述べているくらいだし。大方、怒りに任せて暴言を吐いたとかその辺だ。


 安心してほしい。あいつはそれくらいで嫌うような心の狭い人間ではない。俺が誰よりもわかっている。


「……」

「暗い顔するなよ。きっと――」

 

 言いかけたところで。


「あっ、虹谷君っ!」


 笑みを浮かべた赤澤が小走りで近づいてくる。


「勝手にいなくなったら心配するよ」

「悪いな。ちょっと話してて」


 赤澤が俺の隣に座る猫田に気付いた。


「……あれ、葉月ちゃんもいたんだ」


 一瞬だけ残念そうな顔になった赤澤は、少しだけ考える素振りを見せた後で何故か俺の隣に座った。


「何の話してたの?」


 相談の内容を勝手にバラすような真似はしたくないので黙る。情報漏洩するような奴だと後ろ指をさされたくない。


 意図を察してくれたのか、猫田が口を開いた。


「虹谷に相談に乗ってもらったんだ」

「相談って?」

「あの時のこと。中学の頃の、あの人のこと」

「――へっ」


 お祭り気分だった赤澤の表情からスッと色が消えた。


「思い出しちゃったんだ。どう考えてもあれってうちが悪かったんだよね。夕陽は許してくれたけど、このまま楽しく生活してていいのかなって」

「……そっ、それを虹谷君に相談をしたの?」

「相談に乗ってくれるって言ってくれたから」

「昔のこと話したの? どこまで話したのかな?」


 心なしか赤澤は焦っているようだった。


「まだなにも話してないよ。夕陽の大切な人は誰なのかって聞かれたから夕陽の幼馴染って答えただけ」

「名前とかは?」

「出してないよ。無――」

「言わなくていいから!」


 猫田が何事かを言いかけたところを赤澤が食い気味にかぶせた。


 どうした?


 過激な反応だった。どうせ蓮司のことだろ……って、なるほどな。赤澤は自分と蓮司が幼馴染だと俺に知られたくないのかもしれない。男女の幼馴染ってのは恋愛事に発展する可能性が高いし、おまけに今は男神と女神だ。


 こいつからしたら俺は事情を知らない二年からの転校生だ。余計な情報を与えると今年の天華コンテストで俺から絶対に票が入らないから必死ってわけだ。


 ふっ、滑稽だな。


 幼馴染であることを隠そうとしているが、実は俺はすべてを知っているとか皮肉じゃないか。まあ、必死に蓮司との関係を隠そうとするその涙ぐましい努力をちっとは褒めてやろう。


 今は赤澤は置いておくとして。


「猫田。そこまで悪いと思ってるなら本人に謝ったらどうだ?」

「……無理だよ。会えないから」


 会えないから無理ね。


 確かに今は無理だろうな。夏休みだし。


 ということは二学期になってからだろうか。それとも心の準備が出来てからか。中学の頃の出来事と言っていた。こういうのは時間が経てば経つほど謝りにくくなるものだ。今の今までこじらせてしまったんだろう。


 しょんぼりする猫田に笑みを向ける。


「あんまり気にしなくていいと思うぞ」

「虹谷?」

「事情を詳しく知らないから適当に聞こえるかもしれないけど、きっとその人は許してくれると思うんだ」

「……」

「てか、間違いなく許してくれる。むしろ猫田が暗い顔してたら自分のせいで猫田が元気なくなったとか気にしちゃうまじめな奴かもしれんぞ。きっとそうに違いない。だから猫田は笑顔でいればいいんだ」


 あいつはそういうタイプだ。自分のせいで相手が苦しんでいると自分も苦しくなる聖人みたいな奴だからな。


「でも――」

「もし許してくれなかったら俺も一緒に謝ってやる。猫田がめちゃくちゃ反省してたって証言して頭を下げてやるさ」


 そう言うと隣にいた赤澤が「えぇ」と大きな声を上げ、困惑したように口をぱくぱくしていた。


 何故おまえがそんな顔をしている。動揺してるのかよ。おまえは猫田を許したんだろ。それとも蓮司と引き合わせたらまずいとでも言うんだろうか。


「どうして、虹谷はそんな優しくしてくれるの?」

「友達のピンチを救うのは普通だろ」

「……全然普通じゃないよ。それが普通にできるって、虹谷はホントいい奴だね。こんなに優しくされたら惚れそうかも」


 しまった。赤澤が動揺していたのはこれか。


 確かに一緒に謝るとかはやりすぎだな。猫田に助けられたからか、彼女に対して超甘くなっていたようだ。


 花火が打ち上がっている絶好のシチュエーションの中で傷心中の女子に優しくするとか口説いてるみたいになっちまうよな。


「ちょっ、葉月ちゃんは蓮司君一筋でしょ!?」


 赤澤が割って入った。


「う、浮気は良くないと思うよっ。蓮司君一筋でいるべきだって。そういうふわふわした考えの女子って男子は嫌いだもん。虹谷君もそう思うでしょ?」


 こいつと同意見なのは癪だが、その通りである。蓮司に惚れている女の子に手を出そうなどという不義理なことを俺は望まない。


 俺はこの世の主人公じゃない。あいつと違って俺は脇役だ。だからここで猫田みたいな良い子を口説くとかありえない。


「そうだな、一途のほうが好ましいと思うぞ。相手は男神でライバル多いんだし、ここは気合いを入れて男神一本に集中したほうがいい」

「……う、うん。冗談のつもりだったんだけど。なんかゴメン」


 冗談かよ。


 それはそれで俺にダメージあるけどな。


 人知れずメンタルにダメージを負った俺だが、対照的に猫田の表情は明るくなっていた。直後に夜空を彩った花火に「きれい」とようやく花火の美しさに気付いたらしい反応をしていた。


「聞いてくれてありがと。元気出たよ」

「もういいのか?」

「うん。虹谷の言うとおり、うちは元気キャラでいくよ。いつかあの人に出会ったら思いきり謝ることにした」

「おうよ。もし問題が発生したら俺はいつでも駆け付けるからな」

 

 猫田の顔にはいつもの笑顔が戻った。


「よし、それなら今日のお祭りを全力で楽しまないとね。みんなと合流して屋台回ってくるね。まだ全然楽しんでなかったからっ!」


 駆け出していった。騒々しい奴だ。


 俺もみんなと合流しようと立ち上がると、服が引っ張られていることに気付く。振り向くと曇った表情の赤澤がいた。

  

「わ、私も相談があるんだけどっ」


 えっ、どうしよう。全然乗りたくない。

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