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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
幕間 4色の独白

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白色の独白 後編

 高校生になったわたくしは天華院学園に進学しました。


 姫宮女学院の高等部に進学するよう言ってきたお父様とケンカになりましたが、お母様が間に入ってくれたことで問題は解決しました。


 天華院を選択した理由は八雲がここに進学すると知ったからです。


 お父様は八雲に自分の会社を継がせたいと考えており、勉強が苦手だった八雲に家庭教師をつけました。おかげで成績が急上昇しています。この調子なら問題なく入学可能でしょう。


 天華院学園には神制度と呼ばれる独自の制度があり、神に選ばれると様々な特典が与えられます。特に素晴らしいのは学園内に専用の個室が与えられることです。


 入学してからのわたくしは積極的に女神を目指しました。


 わたくしが女神になる。そして八雲が入学してきたら猛プッシュして男神にする。そうすれば専用の個室で仲良く過ごせます。女神と男神は恋愛に発展することも多いと聞きますし、進展を期待していました。


 翔太さんとの件で八雲との関係が拗れてしまったこと、部活の後輩で可愛がっていた紫音さんを家に招待したら八雲が一目惚れしてしまったこと、ストレスから食べ過ぎて少し太ってきたこと等々。


 あの頃のわたくしは自らの失態を取り戻そうと必死でした。


 早速行動を開始しました。


 身につけたあざといテクニックを駆使し、多くの男子を魅了していきました。また、女子にも嫌われないようにやりすぎだけは注意しました。


 最初は苦労しました。


 女子校から共学の学校に来たわけですが、男子とまともに話したことが少ないので距離感は掴めないし、女子もノリみたいなものが合わない時がありました。


 しかし時間を掛けてゆっくりと慣らしていきました。


 おかげで順調に支持者が増えました。


 ただ、気がかりがありました。かつて形式上のお付き合いをした無川翔太さんのその後についてです。


 わたくしの都合で巻き込んでしまった彼には悪いことをしました。だから東部中学校出身の生徒にそれとなく話を聞きました。


 同じクラスの名塚真広さんは女の子のような顔をしており、物腰が柔らかいので話しやすい相手でした。


 話を聞いて驚きました。


 翔太さんは転校してしまったようです。その理由も転校先もわからないそうです。他の生徒に聞いてみても結果は同じでした。


 残念な気持ちになりつつ、わたくしは女神に向かって努力を続けました。運動は苦手なので勉強と愛嬌でカバーしました。


 その甲斐あってか、女神の座を射止めました。


 しかしわたくし以外にも同票で女神に選出された方々がいました。

 

 嬉しい気持ちと悔しい気持ちが混在していましたが、選出された方々を見て納得しました。彼女達はそれぞれ特徴的で、魅力がありました。


 赤澤夕陽さんは圧倒的に目を惹く赤い髪を所持した美少女で、画面の向こうで輝くアイドルのように整ったルックスをした方です。運動も勉強も人間付き合いも得意というハイスペックな方でした。


 青山海未さんは天真爛漫なスポーツ少女で、様々な部活動に顔を出している方でした。また、ゲームの配信をしていると聞きます。校内で見かける時はいつも弾けるような笑顔で、とてもチャーミングです。


 黒峰月夜さんは長身でスタイル抜群の美女です。わたくしでも見惚れてしまうくらい大人っぽい魅力があります。勉強ではわたくしと互角かそれ以上でした。あの外見から秀才というのはギャップがあります。

 

 女神に選ばれた後、わたくし達は神会議に参加しました。


 男神に選ばれたのは犬山蓮司さんです。


 この方が最大の計算違いでした。犬山さんは万能超人のイケメンでした。顔と運動神経はともかく、カリスマ性と頭脳では八雲を上回っていました。来年のコンテストで八雲が勝てるビジョンが見えません。

 

 会議が始まると、犬山さんが急に立ち上がってわたくし達に鋭い視線を向けました。そして、翔太さんの身に起きた出来事について話しました。


 その内容に驚きました。


 赤澤さんは幼馴染である翔太さんの心を長年苦しめ、最後にはストーカーされたと噂を流して精神的に追い込んだようです。


 青山さんは親友だったのに無視をしたり悪口を言い、さらには階段から突き落として翔太さんを病院送りにしたようです。


 黒峰さんは守ってもらったくせに感謝もせず、自分は翔太さんを陥れた女とお友達になったようです。

 

 最後に――


「おまえは翔太の心を踏みにじった。すぐに浮気してあいつを捨てた。それがトドメになった」


 反論はありました。そもそも翔太さんに恋心は持っていません。だから浮気でもなんでもありませんでした。


 ですが、翔太さんの心を踏みにじったという言葉に関しては弁解の余地がありませんね。反省はしています。だからわたくしはその言葉を受け止め、口をつぐみました。


 会議後、わたくしの心境は複雑でした。

 

 複雑な理由はあの女神達です。

 

 性格がいいのであれば別に敵対したいとは思いませんが、彼女達の本性が判明しました。あの時、彼女達は誰も反論しなかった。つまり翔太さんをいじめていたのは事実なのでしょう。


 彼女達が学園で幅を利かせるのはまずいです。八雲があのような悪魔達に狙われてしまったらと思うと不安で夜も眠れません。


 どうにかしなければいけませんね。



 高校二年生になり、八雲が入学してきました。


 翔太さんの件から時間が経過し、わたくし達の関係も仲のいい姉弟に戻っていました。時間は万能薬です。


 ですが、単なる姉弟です。


 自分の気持ちは告げられないままでいました。告げたところで結果がわかりきっているのは辛いものです。年々、常識という言葉が重くなっていくのを実感していました。


 ……このまま八雲を好きでいいのでしょうか?


 共学の学び舎で一年間を過ごしたわけですが、相変わらず八雲が一番素敵に映りました。男神である犬山さんはさすがに素敵な男子でしたね。とはいえ、翔太さんの件があるので関係が深まる可能性は皆無ですが。


 そんなある日、お父様から再び婚約に関する話をされました。


 わたくしは実家を出る決心をしました。八雲と離れるのは辛いですが、このままジッとしていたら今度こそ望まぬ結婚をさせられてしまいます。


 お母様は味方になってくれました。お母様はどうやらわたくしが恋をしているのを察しているようです。ただ、その相手が誰なのかわかっていない様子です。


 その頃、学園でも問題が発生していました。八雲だけでなく紫音さんまでもが天華院学園に入学したことを知りました。彼女とは卒業してから会っていなかったのですが、黒峰さんの隣でニコニコしている姿を見かけて心臓が止まりそうになりました。


 八雲と彼女はどんな関係なのでしょうか?


 学校が違うので会う機会もなかったはずです。


 もしかしてわたくしの知らないうちに進展しているのでは、と考えたら体が震えました。さすがに本人には聞けませんでしたが。


 転校生がやってきたのはそれから数日後のことでした。


 虹谷翔太さんという名前の方でした。

 

 名前を聞いて驚きました。紫音さんと同じ苗字でした。珍しい苗字なので恐らくは血縁でしょう。ですが、彼女に兄がいるという話は聞いたことがありません。


 とはいえ、わたくしには関係ない方です。


 次のコンテストでわたくしに投票してくれたらいいな、と思いましたが別に一票が欲しいわけではありません。


 関わり合いのないまま生活していたある日、黒峰さんに関して悪い噂が流れました。噂はすぐに消えましたが、どうやら虹谷さんが噂を払拭したらしいです。


 個人的にはそのまま黒峰さんが女神レースから脱落してくれるとありがたかったのですが。ちなみに噂に関してはノータッチです。迂闊に触れると巻き込まれて炎上する恐れもありました。


 後日、虹谷さんと黒峰さんが交際していると噂が流れました。本人が否定したとのことですが、男嫌いで有名な黒峰さんと普通に会話ができる唯一の存在なのは確かなようです。


 その中で判明しました。


 彼が虹谷紫音さんの兄であると。


 興味を持ち、少し調べました。


 彼は転校早々に赤澤さんと彼女の友達を仲直りさせたり、青山さんのゲーム仲間であることも突き止めました。


 女神達にはこれまで特定の相手はいませんでした。モテるのに男子とは一定の距離を置いた子ばかりでした。


 誰か想い人でもいるのかと考えていたところに、妙に彼女達と仲がいい転校生。


 ……これは利用できるかもしれませんね。


 彼を使って女神達を蹴落としましょう。


 帰り道で待ち伏せをしてついにコンタクトを図りました。これは本当に偶然だったのですが、借りたマンションが虹谷家のすぐ近くでした。


「黒峰さんとお付き合いされているんですか?」


 噂は誤解でした。彼は女神に興味がないとはっきりおっしゃいました。


 この時、わたくしは失敗しました。ついつい自分以外の女神を貶める発言をしてしまいました。彼女達を褒めて虹谷さんをその気にさせる必要がありましたね。反省です。


 しかし興味がないのはまずいのです。この方に女神達を口説いてもらいたいところです。恋人が出来れば人気は急落し、わたくしが今年も女神になれる可能性がグッと上がりますから。


 ストーカーされていると嘘を吐いて強引に近づきました。


 ――嘘は最低?

 

 バレなければ大丈夫ですよ。ちなみにストーカー役を八雲にしたのは願望ありきでした。そうなってくれたらいいなと。

 

 お父様との確執は事実ですし、八雲がそれとなくわたくしを家に連戻そうとしているのも事実です。完全に嘘というわけでもありません。


 わたくしが知りたいのは虹谷さんの本心でした。普通の男性なら整った容姿の女性に心奪われるのは当然のことです。だから彼の心を見定めるためにデートをしてみることにしました。女神である彼女達がどうして虹谷さんに興味を示したのか気になってもいました。


 ただ、ここでひとつ問題が生じました。


 虹谷さんはスマホを持っていないようです。


「……なるほど」


 今の普及率から考えてスマホを持つのは常識。こういったところが普通の人と違い、虹谷さんの魅力なのかもしれませんね。


 土曜日、わたくし達はデートしました。わたくしにとってそれは人生初デートでしたが、偽りの関係なのでノーカウントです。


 デートをして納得しました。


 高校に入学して様々な男子とおしゃべりしましたが、全員に下心がありました。虹谷さんからはそれを一切感じません。


 会話も楽しかったです。ホラー映画は最悪でしたが。映画の後で連れて行かれたカフェのパフェは美味でした。いいお店を知っているものだと感心しました。

 

 わたくしはそこで揺さぶりをかけることにしました。


「どうした?」

「いえ、虹谷さんはおかしな方だと思っただけです」

「唐突に失礼な奴だな」

「だってそうでしょう? 口ではわたくしと仲良くしたくないみたいな発言をした割に、虹谷さんの行動はまるでデートを楽しんでいるように映ったものですから。先ほど笑っていましたよ。言動と行動が嚙み合っていない方だと思いまして」


 詭弁です。


 そもそも普通の人なら長い時間一緒にいれば少しくらい笑うものです。わたくしと過去になにかあったわけでもあるまいし。


 ですが、何故かその言葉が虹谷さんに効いていました。


 だから畳みかけました。


「自分で自分の心が理解できていないみたいですね」


 あなたは理解できていないのです。そうです、よく考えてください。あなたは女神に興味があるはずですよ。赤澤さんも青山さんも黒峰さんも素敵な人ですよ。見た目だけは、ですけどね。


 さすがにそこまでは言えませんでしたが、楔は打てたと思います。収穫でした。虹谷さんが何かに迷っている人物であるとわかりました。


 同時に、とてもマジメな方だと理解しました。ストーカーという言葉を出した時の反応から性格もいいようですね。


 女神達が興味を示したのも頷けます。虹谷さんは中々いい男のようです。いっそ虹谷さんに恋人のフリをしてもらって両親を納得させるのもありかもしれませんね。


 そう考えて提案しましたが、却下されてしまいました。


 デートの途中で問題は解決したと嘘を吐きました。


 その後、屁理屈をこねて翔太さんと無理やり友達になりました。


 虹谷さんは八雲がわたくしと虹谷さんを恋人同士だと思っていると勘違いしているでしょう。まあ、そこは大した問題ではないですね。どうせ虹谷さんと八雲が出会う機会はないでしょうし。


 多少のリスクはあってもこの方とパイプを繋いでおくのは重要と判断しました。彼と女神達の関係はわかりませんが、彼女達の牽制に使えるかもしれませんからね。


 その後、わたくしは自分でもよくわからない行動をしました。


 虹谷さんを恋人として八雲に紹介しようとしたのです。


 ……?


 何故そのようなことをしようとしたのか自分でも不思議でした。その行動にどういう意図だったのか説明できませんでした。

 

 月日は流れ、終業式の挨拶を誰がするのかという会議を行うことになりました。


 あの方々との会議は疲れます。


 会議が長引くのを嫌ったわたくしは虹谷さんを連れていくことにしました。彼は女神達と仲良しらしいので何かしら解決方法を提案してくれたら儲けものだと。


 ついでに「友達」と言った時の彼女達の反応を見てやろうと思っての行動です。

 

 わたくしが友達と言った瞬間、会議室に漂っていた空気が明らかに変化しました。


 特に怖かったのは赤澤さんです。彼女の視線は鋭利な刃物のように鋭く、親の仇のようにわたくしを睨みつけていました。少しちびりそうになったのは内緒です。


 同時に感じました。


 やはりこの方々は虹谷さんに特別な感情を抱いている、と。


 もっとも、肝心の虹谷さんはまるっきり理解していないようで口を半開きにして固まっていましたが。


 その後、テストが終わり一学期が終了しました。

 

 ◇


 虹谷家から視線を外し、わたくしは部屋の中央で横になります。

 

 今後すべきことは多々あります。


 まず、お父様を説得して婚約の話をなかったことにしてもらう。不可能なら縁を切るしかないでしょうね。そして八雲との関係を深める。以前のようなスキンシップはもう無理でしょう。ならば八雲にわたくしを女として見てもらう必要がありますね。


「……」

 

 本当にそれでいいのでしょうか?


 寝返りを打ちながら考えます。常識的な問題もありますが、きっとわたくしはあのデートが思いのほか楽しかったのでしょう。感情が整理できないでいました。


 ……これでは迷っているのはわたくしのほうですね。

 

 迷いを断ち切るように立ち上がります。


 やることは決まっています。虹谷さんを焚きつけてわたくし以外の女神を口説き落としてもらいます。そして、犬山さんをどうにか蹴落としましょう。


 そう、わたくしにとって重要なのは八雲だけですから。


 自分の心を無理に納得させ、購入したアイスの蓋を開けました。

お読みいただきありがとうございます。

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