第25話 4色のテスト結果
期末テストが終わった。
俺はすこぶる調子が良かった。
その要因はいくつもある。勉強会で卒アルの話にテンションが上がったこと、教室内が勉強する雰囲気になっていたので気分が乗せられたこと、家に戻れば義妹が勉強を頑張っていたので触発されたこと。
テスト期間中に女神達も大人しかったことも精神的に大きかった。
赤澤は誰とも会話せず集中していた。休み時間も昼休みも真剣に勉強していた。昔からまじめな奴とは知っていたが、今回のテストに賭ける意気込みは凄まじいものがあった。鬼気迫るといった印象を受けた。
青山は大好きなGPEXを封印し、配信も休んでいた。隣のクラスを通り過ぎる機会があったので室内を見れば、お転婆でいつも動き回っていた少女が机から動かずに問題を解いていた。あいつも成長したらしい。
黒峰はバイトを減らした。がり勉だったあの時代のように歩きながら英単語をぶつぶつと呟いていた。さすがに取り巻きとも距離を置いている様子だ。元々成績優秀だったので結果はどうなるだろう。
白瀬はいつもと変わらない様子だ。一度だけ帰りに遭遇したが、挨拶だけして別れた。ちょこちょこ入ってくる噂話からあいつの頭が良いことだけはわかっている。結果が気になるところだ。
テストが終わってからもどこか張りつめた雰囲気が続いていた。そういったわけで、約束の打ち上げは結果が出てから行うことになった。
そして、テストの結果が張り出される日。
学園は異様な雰囲気に包まれていた。
天華院学園では学年上位30人の名前が掲示板に掲載される。2年生の結果が記載される掲示板前には多くの生徒が集まっていた。
自分が焚きつけた勝負だけに結果は気になった。それに、俺としても手ごたえがあったので自分の結果が気になるところだ。もしかしたら名前があるかもしれない。ちなみに中間テストでは集中力を欠いていた上に、手ごたえもなかったので見に来なかった。実際に上位には入れなかった。
掲示板前は多くの生徒でにぎわっていた。恐らく勝負の結果を見届けようと普段よりも集まっているに違いない。
「……ふぅ、いよいよだね」
隣にいる真広も少しばかり緊張の面持ちだ。
「おまえが緊張してどうするんだよ」
「それは無理だよ。今回の結果で女神の均衡が崩れるかもしれないんだから」
「真広には悪いけど、あいつ等の中じゃ絶対青山がビリだろ」
「……否定したいけど、多分そうだね」
などと話していたら先生が到着し、テスト結果が張り出される。
下から目で追っていく。どこであいつらの名前が出てくるのかどきどきしながら視線を上げていく。
27位 虹谷翔太
思わず三度見した。
頑張った甲斐があった。まさか上位に入れるとは思っていなかった。努力が報われてよかった。
喜びを抑えきれないまま目線をさらに上げていく。
14位 名塚真広
真広の名前があった。
これは納得だ。真広は中間テストでも上位に入っていたし、俺よりも順位が上なのも頷ける。中間よりも上位なので勉強会の成果はあったらしい。
「さすがだな、真広」
「翔太こそ上位入りだね。おめでとう」
「ありがとな。こう見えてめちゃくちゃテンション上がってるぞ!」
「僕もだよ。前回よりかなり上がってるし」
ご機嫌になった俺達はさらに順位を追っていく。
点数を見るとかなり拮抗した勝負になっていた。真広の話では前回よりもかなり得点が上がっているらしい。
9位 青山海未
8位 飯野柚木
7位 赤澤夕陽
青山と赤澤が出てきた。
「青山さんがベスト10入りしてる。凄い、初めてだよ!」
自分のことのように真広が喜色満面だ。
「へえ、そうなのか?」
「今までも上位にはランクインしてたけど、ここまで上位なのは初めて見た。凄く頑張ったみたいで僕もうれしいよ」
誰目線だよ、とツッコミを入れたい気持ちをグッと堪える。
努力は確かだろう。あの頃の俺と同程度に馬鹿だった青山がここまで成績を伸ばしていたとは思わなかった。相当努力に努力を重ねたのだろう。
「赤澤さんも凄いね」
「そうだな」
赤澤は昔からまじめだったけどここまで成績が高くなかったはずだ。今回のテストに力を入れてきたのがわかる。
負けたことは悔しいが、自分よりも高得点の二人を素直に称賛しよう。
しかし勝負はこれで黒峰と白瀬の一騎打ちとなったわけだ。
緊張しながら顔を上げていくと。
3位 白瀬真雪
2位 黒峰月夜
女神対決は黒峰に軍配が上がった。
これで終業式の挨拶は――
そう思った瞬間、周囲の女子達が歓声を上げる。黒峰が勝ったから喜んでいるのだろうか。いや違うな。女子達の視線はさらに上に向いていた。
「まあ、結果は予想通りになったかな。さすがに彼には誰も勝てないみたいだね。優勝候補がそのまま勝った感じだよ」
「……」
トップに君臨していたそいつの名は。
1位 犬山蓮司
何度か瞬きをする。
「やっぱり男神の犬山君がトップだね」
「……男神?」
「そうだよ。去年、一年生ながらダントツの投票数で男神に選出された学園最強のモテ男。去年も全部のテストでトップだし、今回の結果も不思議じゃないよ。点数見るかぎり本気出してきたみたいだね。さすがと言わざるを得ないね」
真広は納得の表情でこくりと頷いていた。
どうして今まで気付かなかったのか。蓮司が天華院に通っている可能性もあったじゃねえか。何で今まで気付かなかったんだよ。
結果には納得できる。むしろ蓮司がいるのなら当然といえる。昔から天才だった。高校生になっても変わっていないようで安心した。
「……」
「ねえ、翔太?」
「っ、どうしたっ!?」
「いや、なんかにやにやしてたから」
顔に出ていたらしい。
「良いことでもあった?」
「そりゃおまえ、優勝が男神だぞ。テンション上がるだろ!」
「どうして翔太のテンションが上がるのさ」
親友であると匂わせると過去がバレる可能性もある。蓮司との関係を言うわけにはいかない。
「あ、あれだ……男神がトップってのは何となくうれしいもんだろ」
「そうかな?」
「俺も男だからな。男代表である男神にトップを取って欲しいと思うのも普通だ。そっかそっか、しかしこれで終業式の挨拶は男神に決定だな。こいつは公平な結果だから仕方ねえよな。いやー、女神達が男神に敗北したわけだからな。うんうん。最強はやっぱ男神だわ」
「……なんかテンションおかしいんだけど」
テンションもおかしくなるだろ。
親友が同じ高校に通っているとわかって気分が落ち込むはずがない。おまけにあの頃よりも更に輝きを増しているらしい。
その時、視界の端に元親友である青山が映った。俺と目が合うと、青山は少し悲しそうな顔をしてとぼとぼと歩いていった。
……女神の中で最下位だからか?
慰めるわけじゃないが、十分に誇っていい順位だと思うぞ。
「まあ、勝負を提案した翔太からすればこの結果は喜ばしいか。犬山君が勝ったから女神達の争いにはならないわけだし」
それっぽい理由を勝手に付けてくれたので乗っかることにした。
「お、おうよ。ここでもし女神の誰かが勝利したら提案した俺に各派閥から文句が出る可能性もあっただろ。男神が勝利してくれれば万事解決だったわけだ。それをしてくれた男神は文字通りの神ってわけだ」
「なるほどね。最初から犬山君の実力を知っていたわけだ」
笑顔で肯定しておいた。
蓮司が天華院に来ているのは知らなかったが、実力は知っていたのだから嘘じゃない。
周囲の連中は勝負の結果に満足したらしい。女神派閥の連中は少し悲しそうだったが、それを打ち消すように女子達がはしゃいでいた。
「……そういや、真広は男神をよく知ってるのか?」
「犬山君も同じ中学校なんだよ」
「ほう、真広のいた学校に男神と女神が集中していたわけか」
「そうなるね。彼は昔から大人気だったよ」
その言葉に満足した俺は教室に舞い戻った。
自分の結果も良く、そして何より蓮司が天華院に通っていることが判明して終日にやけが止まらなかった。




